「サウナ好き」を公言するビジネスパーソンが増えている。その代表格がヤフーの川邊健太郎社長だ。サウナのどこが魅力なのか。サウナイベントのプロデュースを手掛ける経営者・本田直之氏は、「熱すぎる空間では複雑な思考ができず、雑念が取り払われる。純度の高い思考がアイデアを生み出す」と分析する――。

※本稿は、本田直之、松尾大『人生を変えるサウナ術 なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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■サウナでアイデアが生まれる?

起業家やクリエイターという切り口でサウナを語る際には、「アイデア」というのがひとつのキーワードになるだろう。

もちろん普通のビジネスパーソンも自分でアイデアを出したり、決めなければいけなかったりすることは少なからずある。しかしながら、そもそも起業に際しては、人とは異なるユニークなアイデアやシステムがなければまず成功することは難しいし、経営のフェーズでも、熾烈な競争の中を生き残っていくために常に新しいことを考え続けなければならない。

だから彼らは、普通の人よりシビアな「アイデア」の世界を生きていると言っても、差し支えはないだろう。

そうするとまず考えられる仮説は「サウナがアイデアを生み出す場として機能している」ということだ。

ウェブメディア「TABI LABO」を経営する、NEW STANDARD株式会社代表取締役社長の久志尚太郎氏が、サウナでアイデアが生まれるしくみについて語ってくれた。

「サウナに入る前には頭の中にいろんな思考が渦巻いている。『やばい、明日までにやらなきゃいけないんだった』『疲れたなぁ』『今日の上司マジでムカついたなぁ』『あれ、どうやって処理しよう』。サウナに入ってこれらの思考に何が起きるのかというと、重要度が低いものと緊急性が高いものがスッと消える」
「熱くて複雑な思考ができないなかで、重要度が低いものは『くだらないからいいや』となるし、緊急度が高いものは『これはどのみちすぐやらなきゃいけないんだから、サウナから出たらサクッと終わらせよう』となるからだ」
「そして、日頃後回しにされがちな『重要度が高く緊急性が低いもの』、つまり『本当に考えなきゃいけないもの』だけが残り、じっくりと考えやすくなる。頭の中が一旦ゼロにリセットされ、忙しい日常の中で隅に追いやられていた潜在的な思考が『アイデア』や『インスピレーション』として顔を出す」

サウナはひとりで考え事をするのに良い空間ではあるが、久志社長が指摘する通り、確かに熱過ぎてそこまで複雑な思考はできない。同時に考えられるのはせいぜい1〜2個の、本当に重要なものだけだ。

そうやって強制的に雑念が取り払われた純度の高い思考が、結果的に「アイデア」として結晶化するのである。

■サウナで考え、水風呂で決断する

「決断」もまた、経営者にとって重要なキーワードである。自分のみならず、社員や会社の命運を握るような決断、経営の現場は常にその連続だ。

もちろん誰かに相談することはできるが、最終的に何らかの判断をくだし責任と覚悟を持てるのは経営者本人だけである。言うまでもなくそこには大きなプレッシャーがかかり、迷いが生じることもしばしばで、決断力こそ経営者の最も重要な資質と言っても過言ではないだろう。

さて、サウナ好きの経営者の間には「サウナで考え、水風呂で決断する」という言葉がある。ニコーリフレ会会長・中市忠弘氏による言葉だ。

重要な経営課題についてサウナでじっくり考え抜いた後、おもむろに水風呂に入る。全身へのキーンという冷たい刺激とともに、思考と視界が一気にクリアになる。すると、目に見えない課題の展望も開け「行けるかも!」というやる気と確信とともに「水風呂で決断する」のだ。

ただし、水風呂に入ってみたら「やっぱりこのアイデアはちょっと違うかも……」と思うことも当然あるだろう。そういうときのためにもうひとつの言葉がある。「サウナで考え、水風呂で忘れる」

やるならやる、やめておくならやめておく。そうした「決断」に最適な空間が、サウナの後の水風呂ということなのだ。

■本質的な人とのつながりが生まれる

サウナは人との距離を縮め、誰かと仲良くなるのに良い空間であるのだが、経営者という視点で見ても、サウナによって形成される人とのつながりには特別なものがある。

本多直之、松尾大『人生を変えるサウナ術 なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?』(KADOKAWA)

ヤフー株式会社代表取締役社長CEOの川邊健太郎氏も、「裸と裸で付き合うビジネスパートナーというのは、やっぱり少し特別ですね」と今回の取材でコメントしてくれた。

もちろん、グローバル化と多様化を極めるこの時代において、当然、異性のビジネスパートナーもいるし、リラックスするためのサウナをそうした政治的空間として利用したくないという人もいるだろう。

ただ、事実としてサウナには特別な人間関係を築くための空間としての作用があり、ロシアをはじめとする各国では、サウナ外交も盛んに行われてきた。

一緒にサウナに入るということは「丸腰の私はあなたを攻撃しません、あなたも私を攻撃しませんよね」という“和平条約”を結ぶことであり、裸と裸の対等な関係で強い絆をつくることであるのだ。

■今の日本に必要な「内省」の空間

サラリーマンの日頃のストレス発散といえば「お酒」や「飲み会」はその代表格だろう。

一昔前のIT企業の経営者は、西麻布の高級クラブで高級シャンパンを開けて盛り上がるようなイケイケのイメージがあった。

しかし最近の、特に30代以下の若手経営者の間では、その様相は全く異なる。誰もそうした派手な飲み方はしていないし、そういうものにあまり価値を感じていないというのだ。

その代わりにどうやってストレスと向き合い、時間を使っているのかというと、やはりサウナである。先述の久志社長は、重要なのはストレスの「発散」ではなく「内省」であると指摘する。

「日本の居酒屋では、会社の会議よりよっぼど活発に発言(愚痴)して盛り上がっているサラリーマンを見かけますけど、アルコールの力を借りたある種の『ストレス発散』ですよね。今この時代に必要なのは、『発散』ではなくて『内省』だと思うんです。疲れてる自分や頑張っている自分とじっくり向き合うこと、認めて癒やしてあげること。だからこそ、より良い仕事のアウトプットへとつなげることができるので」

こうした若い世代の考え方は、少し上の世代からするとかなりストイックにも見える。

しかし「少ないモノで豊かに暮らす」という今の社会のトレンドにおいて、時間とお金をエコに使ってストレスと向き合い、なおかつそれを仕事にも活かすスキルのニーズは、今後ますます高くなっていくだろう。

たまにはぱぁっとやるのも悪くはないが、ストレスから逃げずにじっくり向き合う「内省」の空間としてサウナを活用すれば、仕事のパフォーマンスも飛躍的に向上するかもしれない。

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本田 直之(ほんだ・なおゆき)
レバレッジコンサルティング代表取締役
日米のベンチャー企業への投資育成事業を行いながら、年の5カ月をハワイ、3カ月を東京、2カ月を日本の地域、2カ月をヨーロッパを中心にオセアニア・アジア等の国々で過ごし、各地で食およびサウナを巡る旅をしている。食やサウナのイベントのプロデュースも行う。
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(レバレッジコンサルティング代表取締役 本田 直之)