猪口 真 / 株式会社パトス

写真拡大

出版社の倒産がまた増え始めたらしい。東京商工リサーチのリリース記事によれば、前年同期比2.1倍増だという。

出版社だけでなく、出版取次業者(出版社と書店をつなぐ、いわば書籍の卸問屋)の倒産も続出している。

もう完全に、本が読まれない、売れない、出版社の財布を支えてきた出版の取次も苦しくなり、そうなると出版社はどうにもなくなる。

おまけに、10月1日からの消費税アップで、さらに状況は悪くなるかもしれない。

2007年にスマホ(アイフォーン)が出現して以来、完全に人は、「情報のつまみ食い」が主流になってしまった。腰をすえてゆっくり本を読むことよりも、常に最新の(あるいは自分の好きなものだけの)ショートメッセージの方を選ぶようになってしまった。

よく、紙からデジタルへと言われる。確かに、電子書籍の出版物は11.9%増の2479億円と市場拡大が続いている。しかし、出版全体の推定販売金額は17年比5.7%減の1兆2921億円(出版科学研究所)と比較しても、まだまだ市場規模はたいしたことない。

ただし、これはピークだった1996年(2兆6563億円)の半分であり、博報堂や凸版印刷の年間売上より下だ。(これで果たして業界と言えるのか・・)紙の雑誌が9.4%減の5930億円、書籍が2.3%減の6991億円だというが、業界全体の数字とは思えないほどの凋落ぶりだ。

コミック市場だけは、なんとか踏ん張っているようだ。2018年コミック市場は紙+電子で前年比1.9%増の4414億円(出版科学研究所)だという。ということは、出版全体の3分の1はコミックということか!

紙かデジタルかという観点でいけば、通常の書籍と様相が異なる。紙の市場は6.6%減の2412億円なのに対し、電子の市場は14.6%増の2002億円。なんとほぼ同等だ。書籍の電子のシェアとはかなり異なる。

出版業界においては、電子コミック以外、活路はないのだろうか。

コミック以外は、完全にビジネスモデルとして崩壊しているように見える出版業界だが、新しい動きもある。

台湾の書店が日本に進出するという。台湾で約50店舗を経営する「誠品生活」という大型書店が「コレド室町テラス」に出店する。

この書店は、出店する土地の文化や人々の好みに合わせて店づくりや品ぞろえを行うのが特徴だというが、そもそも、好みに合わせない店舗など存在するほうがおかしな話で、取次や書店のこれまでやってきた商習慣のツケは大きい。

さらに業界の垣根を越えて新たなサービスを始めたのが「LINE」だ。

今年の4月に、LINEは、書籍化を目指せる「LINEノベル」というサービスを始めると発表した。

小説を書きたい人はたくさんいるし、そうした人に向けてプラットフォームが用意されるのは喜ばしいことだ。かつて、ライトノベルというジャンルがはやったが、この市場を狙ってのものか。

しかし、驚いたのは、講談社や新潮社など、そうそうたる大手出版社が協力会社として名を連ねていることだ。

確かに、埋もれた金の卵を発掘する機会はあるかもしれないが、もともと担っていた、情報発信の雄としての出版社の矜持はどこにいってしまったのだろう。

日本のものづくりにしろ、マーケティングにしろ、原石であるコンテンツをいかにユーザーのために、ニーズにマッチした内容にアレンジし編集し、付加価値をつけ、あるいは機能をそぎおとし、ユーザーにとって費用対効果のあるものに仕立てていくのが、本来の役割だ。コンテンツそのものが商品として通用するまでには、ひと手間もふた手間もかかる。

出版社の編集機能は、この役割にほかならない。

それを、ほぼ編集機能不要のプラットフォームにゆだねることが、本質的なクオリティの向上につながるのだろうか。

現在、メルカリや楽天、アマゾンにしてもオンライン上でのプラットフォーム化が進んでいるが、いずれも商品やサービスの2次利用にすぎない。

しっかりとしたものづくりに支えられてのものだ。

どのようなすばらしいコンテンツであっても、優れた商品になりえるのは、「編集力」による。

実は昨今の出版不況の最大の原因は、読書離れやデジタル化の流れもあるかもしれないが、作りて側の機能不全が招いた結果という側面もあるのではないか。

これは、私自身にとっても同じようなことがいえる。昨今の仕事のスピードアップは激しく、マーケティングにしろ、広告にしろ、商品にしろ、提供されたものをそのまま市場投入するケースは少なくないし、自分が手掛けたものに対して悔いが残るケースも少なくない。

は日増しに増えている。

「編集力」を磨こう。