「旅のお供」と言えば駅弁

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 長い旅の途中、駅で購入した弁当の紐をほどき、地元名産の品々に舌鼓を打つ。ボックス席から見える風景をつまみにビールを……などと考えていると、思わずよだれが出そうだ。

 かつて長時間停車する駅のホームには、首からお盆を下げ、味のある掛け声とともに駅弁を売りさばく売り子がいた。乗客が売り子から窓越しに駅弁を購入する「立ち売り」は、やがて鉄道の高速化とともに数を減らしていく。筆者自身は窓越しに駅弁を購入した経験はなく、列車の窓から顔を出す機会自体なかなかないだけに、絶滅寸前というのは少々もの寂しい。

2011年前後は駅弁製造冬の時代、2010年4月には「八角弁当」旧製造・販売元が破産

 駅弁を取り巻く環境は、ここ10年の間でも大きく変化している。帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」より、駅弁を製造していることが判明した79社(2019年8月時点)を抽出。そのうち業績比較が可能な71社の売上高合計を分析したところ、約1508億8800万円(2008年)→約1421億6800万円(2011年)と大幅に縮小している時期があることに気づく。

 この時期は国内景気の低迷に加え、2009年3月から始まった土日祝日の「高速道路料金上限1000円」により、鉄道利用客が自家用車へシフト(同措置は2011年で終了)。2010年4月にはJR大阪駅などで「八角弁当」を販売していた(株)水了軒が破産するなど、駅弁製造業者は冬の時代を迎えていた。なお、当社の事業は(株)デリカスイト(岐阜県大垣市)が買収したのち、同社とその子会社である水了軒(株)(大阪府大阪市)が継承している。

冬の時代を経てV字回復、依然として「旅のお供」イメージは健在

 しかし、その後売上高合計は約1543億1300万円(2016年)まで回復。これは逆風のなかでも行われていた「駅弁の魅力発信」が奏功した結果だろう。京王百貨店新宿店では毎年、全国各地の駅弁を集めた「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」が開催されるほか、2012年には(株)日本レストランエンタプライズ(東京都台東区)が東京駅構内に「駅弁屋 祭」を出店。現地に行かずとも各地の駅弁を楽しめるとだけあって、人気も上々のようだ。そのほか、従前から販路を高速道路のサービスエリア等にも拡大し、鉄道利用客以外の取り込みに成功した企業も見られる。

 以前と比べ楽しみ方が変わったことは確かだが、駅弁が持つ「旅のお供」のイメージは、私たちに非日常を感じさせてくれる。売店で購入した駅弁を新幹線の車内に持ち込み、流れる車窓とともに楽しむ乗客の姿を見ていると、やっぱり日本人は駅弁好き……と思うのは筆者だけだろうか。

半数近くは業歴100年以上、伝統の味守れるか

 駅弁は長年日本人に愛されてきただけに、長い歴史を持つ製造元は少なくない。駅弁を製造していることが判明した79社のうち、業歴100年以上は39社(構成比49.4%)。実に半数近くが「老舗企業」ということになる。業歴50〜100年未満も21社(同26.6%)と、比較的高い比率を占める。

 しかし、長い歴史を持つ駅弁でも、販売不振などを理由に販売を取りやめるケースが見られる。今年6月にはJR美濃太田駅で長年駅弁を販売していた事業者が、64年の営業に幕を下ろした。昔ながらの「立ち売り」スタイルで販売を行っていたが、近年は売り上げが僅少にとどまり、惜しまれつつも撤退を決断した。

 今回判明した79社も、約7割近くにあたる53社は年商10億円未満である。根強い人気商品がある一方、原材料費や輸送費の高騰、ならびに工場などへの設備投資が、経営上の大きな負担として重くのしかかる。伝統の味を守るうえで、超えるべきハードルは高い。

 消費税率引き上げを前に、消費者の価格意識がより敏感となるなか、近年は「プチ贅沢」が小さなブームとなっている。駅弁が持つ「非日常感」は、プチ贅沢ブームにおいてもアドバンテージになり得る。「ご当地商品」の要素が強く、製造元ごとにこだわりが込められた駅弁は、「プチ贅沢」とも親和性が高いのではないか。今後の駅弁戦略に期待したい。