日本人の考える海外リゾートと言えば、いつの時もハワイが挙がる。JALが1954年に就航開始したハワイへの航空路線の歴史は65年が経過した。この2019年は航空路線としてのトピックスがあった。ANAが超大型機A380を成田からホノルル線専用で就航開始した。JALは嵐ハワイジェットで迎え撃つ。なぜ、ここまでハワイに航空便が増えるのか--。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jimfeng

ハワイに行く日本人は、韓国人の6倍以上

ハワイ州政府観光局によると、ハワイへの訪問者は983万人(2018年実績、1000人以下四捨五入)。最も多いのは米国本土からの来島者で、637万人(65%)。次に多いのが日本人の157万人(16%)。米国本土以外の観光客ではダントツの1位だ。2位はカナダ人の53万人。3位はオセアニア諸国の41万人。アジアで日本に次いで多いのは韓国人で23万人。これらと比較すると、日本人観光客がいかに多いかがわかる。

なぜ日本人はハワイが大好きなのか。それは「気軽に行けるアメリカだから」ではないか。定期便のある場所で、日本から一番近いアメリカはグアムだが、近年、渡航者は大きく減っている。2004年は90万人だった渡航者が、2018年は56万人になっているのだ。なぜグアムではなく、ハワイなのだろうか。

■グアムは日本人が多くなりすぎた

理由は大きく2つ考えられる。ひとつは「グアムは日本人が多くなりすぎた」ということだろう。

2000年代、グアムの渡航者は日本人が最大で80%近くを占めた。グアム政府は日本人観光客のために、日本語のカンバンを設置し、街中に日本語をあふれさせた。それが逆効果になった。

日本からの旅行者はグアムに「日本らしさ」ではなく、「アメリカらしさ」を求めていた。日本語を増やした結果、非日常感を求める旅行者に飽きられてしまった。

■日本からハワイへの航空路線が増えたのは最近のこと

ふたつ目の理由は、観光地としての規模だ。

グアムは、ホテルを中心としたタモン湾地区ですべてが完結する。リゾートとしてホテルでゆっくりし、ビーチをエンジョイすることができる。しかし、それで終わってしまう。観光地が少ないのだ。ハワイはオアフ島以外に個性のある主要な島が5つもあり、何度行っても楽しめる。ハワイは、日本人が理想のリゾートと思う全ての要素がそろった場所なのだ。

日本からハワイへの航空路線が増えたのは最近のことだ。JALが日系エアラインとして初のハワイ路線を開設したのは1954年のこと。その後の新規就航までは1991年のANAまで待たなければいけない。2010年のハワイアン航空の就航から各社の参入が増え、2013年に大韓航空はロサンゼルス線をホノルル線に変更。2017年にはLCCのエアアジアXが関西空港からホノルル空港線を就航させている。

画像提供=JAL
ARASHI HAWAII JET - 画像提供=JAL

現在、日本とホノルル間は、7社で週間132往復が飛んでいる。ハワイ島のコナも含めると、142往復にもなる。日本からの出発空港は、便数順に成田77便、関西28便、羽田21便、中部13便、新千歳3便でアメリカの都市の中では一番便数が多い。また、2019年11月に福岡空港からの便をハワイアン航空が週4便で新規就航を予定しており、根強い人気を物語っている。

ハワイ便は例外なく「行きは夜間便で、帰りは昼間便」

ハワイ便の大きな特徴は、往路は夜間便で、復路が昼間便となることだ。このパターンに例外はなく、各社横並びとなっている。飛行時間は、ジェット気流の関係で東京からでは往路7時間半、復路は8時間半程度となる。冬期は気流が強くなるので、さらに差がでる。

出発時間で最も早いのは「成田空港18:55発ユナイテッド航空902便」でホノルルには7:25に着く。最も遅い出発は「羽田空港23:55発ハワイアン航空856便」でホノルルには12:55に着く。両便の差は5時間だ。裏を返せば、ハワイ便の選択肢はこの5時間に限られる。

■ANAにとってハワイ便は「JALの最後の牙城」

多くの便の中でお勧めは、羽田空港で遅い出発時間となるハワイアン航空とANAの便だ。現地への到着時間が昼になるため、ハワイ到着一日目の就寝までの時間が短い。日本からだけでなく、アジア各国からの到着便が集中する時間を過ぎているので、入国審査は比較的スムーズだ。ダウンタウンに到着する頃にはホテルのチェックインが可能で、そのままゆったり部屋で過ごせる。21時半以降のフライトなので、仕事を終えてからフライトすることも可能だ。

ハワイ便では、ANAが新規就航させた「世界最大の座席数」を誇るエアバスA380が注目を集めている。この機材でANAの提供座席数は一気に1.5倍となる。経営的にはかなりの決断だが、なぜANAはハワイにこれほど力を入れるのだろうか。

画像提供=ANA
ANA A380 FLYING HONU - 画像提供=ANA

それはANAにとってハワイ便は「JALの最後の牙城」だからだろう。ANAは国際線の進出ではJALに大きく後れを取ってきた。その巻き返しのため、ビジネス路線に絞って力を入れてきた。その結果、海外のビジネス路線ではJALのシェアを上回るほどに成長している。そこで次なる戦略としてリゾート路線を攻めはじめている。ハワイ便は伝統的にJALが強みをもっているため、だからこそ大型機材の投入で勝負をかけたのだろう。

これからはANAとJALを中心に、ハワイ便でサービスや価格を巡る激しい競争が繰り広げられる。ハワイ便の利用者にとっては望ましいことだ。旅行先にハワイを選ぶ人も、さらに増えることが予想される。

■羽田で増便予定の4社のうち2社がホノルル線を希望

ハワイは旅行者にとってはポテンシャルのある観光地だ。常夏の場所だがハワイ島ではスキーもできる。大自然が残された上に、リゾート地に求められる海と山でできるアクティビティは全てそろっている。

利用者の立場からすると、各空港から遅い時間帯の出発便を増やしてほしいものだ。いまの時間帯では仕事を終えてから搭乗する選択肢は限られている。

東京五輪を前に、日本政府は羽田空港の発着枠の半分をアメリカの航空会社に振り分けた。その結果、増便予定の4社のうち2社がホノルル線を希望した。ハワイ便をめぐる競争はどんどん激しくなっている。日本人にとってはより身近な場所になる可能性が高いといえるだろう。

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北島 幸司(きたじま・こうじ)
航空ジャーナリスト
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。
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(航空ジャーナリスト 北島 幸司)