映画『火口のふたり』において、主な出演俳優は柄本佑と瀧内公美のみ。ふたりは、男女の理屈を超えた愛、情念、欲を、心と体、持ちうるものすべてを使って表現し、役者魂を見せた。まるでこの世界にふたりだけしか存在しないかのような、どろどろに溶け合う濃密な115分は、永遠に続くように思えるほどだ。

東日本大震災から7年後の夏。永原賢治(柄本)は、幼馴染・佐藤直子(瀧内)の結婚式の連絡を受けて故郷に帰ってきた。会社が倒産し、離婚も経て、何もかも失っていた賢治は、結婚10日前の直子から、突然「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と思いもよらない誘いを受ける。以来、ふたりは一晩だけでなく、かつて何度もそうしていたときのように、体を重ねていく。

直木賞作家・白石一文の同名原作を、構想6年、日本を代表する脚本家・荒井晴彦が撮り上げた本作。互いのプロフェッショナルさがうかがえるインタビューでは、柄本が瀧内の「度胸のよさ」を称賛し、瀧内が柄本の「現場の居方」に衝き動かされた、と語った。

ーー火口のごとく燃え上がる物語、肉体もぶつけ合いますが、メンタリティなど、どう寄せ合っていかれたんですか?

柄本:『火口のふたり』の本編撮影前、最初にスチールの撮影を2日間したんです。そのとき、瀧内さんとは会うのが3回目だったんですけど、ああいった(からみの)写真を撮らないといけないわけで……。ほぼ初対面で打ち解けていないまま、いきなり「やれ」なので、「やらなきゃしょうがない」と、どこか肝が据わったところから入りました。そうしてスチールから始まれたのはよかったな、と思っています。その後、秋田で撮影が始まったときには、物おじやもじもじする気持ちはほとんどなかったです。何より瀧内さんの度胸のよさが、俺も荒井さんも川上(皓市)さんも、みんなを助けてくれました。

瀧内:ええ……! うれしいです。

――スチールも、すごく素敵ですよね。

柄本:俺が入ったときには、野村佐紀子さん(写真家)と瀧内さんがふたりきりで、すでに撮っていたんです。野村さんが賢治の役として写真を撮っていて、その後、俺がその位置に入りました。野村さんからカメラを受け取って、いろいろポーズを変えながら撮って。たまに野村さんが手を持って「こういう感じで」とかやってくれたりして。監督、野村さん、俺までがナビゲーターで、瀧内さんが演者みたいな感じで、フリーでナビゲートしていきながら、「どうしたらセックスしているように見えるかな」とか「どうしたらエッチな写真になるかな」と考えながら、撮っていました。そこで関係性がしっかりできたので、あの時間は本当にありがたかったですね。

瀧内:本当にそうですね。あと、『火口のふたり』での時間の流れ方は、ゆったりした感じだったんです。多くの現場では、夜明け前から夜中まで撮影という感じなんですけど、今回に関しては朝8時から夕方4時くらいまでとかで。しっかりごはんを食べて、テレビなんて観ちゃって、「秋田って、こんな番組がやっているんだな……あ、ということは、賢治と直子はこういう番組を観ながら育ったんだな」と思えるような、すごくいい時間の使い方ができた現場でした。

柄本:今考えてみると、何であのスケジュールで、あんなゆったりできたんだろうね!?

――スケジュール自体は、そこまで余裕があるわけではなかったんですか?

柄本:はい、スケジュールはすごかった! 撮休入れて11日間だもんね?

瀧内:殺人的でした(笑)。

柄本:ね! 「1日何シーン撮るの?」というくらい。だけど、本当に17時前とかには終わってたんだよね。

瀧内:ふたりしかいないっていうのも、あったんですかね? 洋服も着ていないからチェンジとかも別にないですし(笑)。

柄本:あ、それもあるね(笑)!

――(笑)。お洋服を着ていないシーン、つまり、作品の中でも多くの割合を占めている濡れ場について、ご一緒しての感想を教えてください。息が合わないと、なかなか難しいシーンにも思えます。

柄本:瀧内さんの度胸は、現場にものすごい活気をもたらしてくれていたと思います。女性にとって濡れ場は、非常にセンシティブなことじゃないですか。けど、瀧内さんは自ら「え、でもここは、こうじゃないかな?」と提案をしてくれたりして、監督も「じゃあ、それでいこう……!」というやり取りもありましたし。そのアグレッシブさは、この映画におけるベッドシーンを非常に誠実に考えられているということなので、役の上でも深く掘り下げられていた気がします。それに、濡れ場は本当にアクションシーンなので、大変なんです。

瀧内:体力もいりますし、一歩間違えるとケガをしてしまうところもありますし、本当にアクションシーンですよね。荒井さんは、濡れ場に関して「足で表現するんだよ、手で表現するんだよ」と全身の使い方を教えてくださったんです。濡れ場における女性の恥じらい、いやらしさの表現の仕方については学びになりました。あと、柄本さんと私のふたりしかいなかったので、相手を見ていれば自然に呼吸が合っていくんです。現場で迷うこともありましたが、柄本さんを見ていて、「まずやってみよう」と思うことも多くて。

――柄本さんから影響を受けたことが多かったんですね。

瀧内:特に現場の居方について、そうでした。すごく清く正しく、というわけではないですけど、まっすぐ現場で立つようにしよう、と思えました。先ほど、「度胸があって」と私のことを言ってくださいましたけど、柄本さんは常にフラットでいてくださるんです。現場でも無理せず、あまり会話がなくても……。

柄本:会話していなかったもんね! 確かに。

瀧内:そう居られるのが、すごくありがたかったです。自分のやるべきことに集中できました。

――一転して、劇中ではすごくナチュラルで長い会話劇もありますよね。あのテンポ感はどう生まれていったんですか?

瀧内:脚本に、すごく細かく書いてありました。

柄本:細かかったね! 会話しているところでも、動きから何から事細かく書かれていたので、自然に動いているように見えたんじゃないかな、と思います。あとセリフのやり取りが流れるようになっていたのかな…? ……セリフ、多かったねぇ。

瀧内:多かったですね!

柄本:パスタとサラダとアクアパッツァをふたりで食べながら会話するシーン、あるじゃないですか?

――すごく長い会話のところですね。

柄本:俺も瀧内さんも、アクアパッツァなんて食べづらいものに、手を出せなくて(笑)!

瀧内:そうなんですよ(笑)。

柄本:監督が「ふたりとも、パスタとサラダしか食べてなくない? セリフのテンポを落とさずにアクアパッツァも食べてくれよ」と言うんですけど、難しいんですよ(笑)。口に入れたら骨だらけで、ずっと骨を口から出しながらしゃべる、ということになっちゃう(笑)。

瀧内:原作では赤ワイン煮みたいなお料理だったんですよね。勝手に「火口の意味かな?」と思っていたんですけど、出てきたのがアクアパッツァで驚きました(笑)。

柄本:この作品はセックスと等分に食べるシーンも、寝るシーンもある。つまり、性欲、食欲、睡眠欲の三大欲求に素直な映画なんですよね。特別なことはしていないんです。ファンタジックなところもありながら、いたって普通に「生きる」という、人間の営みに返る映画だ、と思います。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

映画『火口のふたり』は2019年8月23日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。

出演:柄本佑、瀧内公美
監督:荒井晴彦
脚本:荒井晴彦
原作:白石一文
公式サイト:kakounofutari-movie.jp
スタイリスト:林道雄/ヘアメイク:星野加奈子<柄本佑>
スタイリスト:馬場圭介/ヘアメイク:中島愛貴(raftel)<瀧内公美>
(C)2019「火口のふたり」製作委員会