テレビ広告のバイヤーとセラーはどちらも、世帯単位でターゲティング可能な広告の数を増やしたいと考えています。しかし、それを実現するには、いくつもの課題を乗り越えなければなりません。

もっとも顕著な課題は、アメリカにおいてアドレサブル広告向けのテレビ広告インベントリー(在庫)が不足していることです。アドレサブルTV広告の供給が増え、有料テレビプロバイダーだけでなくテレビネットワークがそのインベントリーを販売するようになれば、アドレサブルTV広告の需要も増加すると思われます。ただし、需要の増加は広告の増加を意味します。そして、広告の増加は、インベントリーを即座に補充する既存の保存方法、つまりキャッシングを改良しなければならないことを意味します。

デジタルマーケティングの新語を解説する「一問一答」シリーズ。今回は、テレビ広告の「キャッシング」の制約について解説します。順を追って説明しましょう。

──まず、テレビ広告のキャッシングとは、なんですか?



テレビ広告のキャッシングとは、人々が従来型テレビを見ているとき、コマーシャル枠に広告を挿入するため、アドレサブルTV広告を保存しておく方法のことです。現在、これらの広告はケーブルテレビや衛星テレビのプロバイダーのデジタルビデオレコーダー(Digital video recorder:以下、DVR)セットトップボックスに保存されています。テレビにコンテンツを表示するデバイスに広告を保存しておくで、大幅な遅延なく即座に広告を挿入できます。携帯電話に保存されている動画を呼び出す場合とクラウドにバックアップした動画をダウンロードする場合を比べてみればわかります。

──アドレサブルTV広告の保存方法に何の問題があるのですか?



ターゲティング広告を保存できる数に制約があります。携帯電話に限られた数の動画しか保存できないように、セットトップボックスのDVRも限られた数の広告しか保存できません。セットトップボックスのDVRは録画した番組や映画の保存に使われる可能性が高いため、広告を保存できる容量は限られています。アドバンスドTV広告会社ブラックアロー(BlackArrow)の創業者で、現在はコンサルティング会社メディアド.tv(MediaD.tv)のプリンシパルを務めているトム・モーガン氏によれば、衛星テレビプロバイダーのディレクTV(DirecTV)とディッシュ・ネットワーク(Dish Network)は、もっとも大きなアドレサブルTV広告システムを運用しており、通常、4GB分の広告を保存できるそうです。広告数に換算すると、600〜800ほどになります。

──なぜ、DVRに800以上の広告を保存しておく必要があるのですか?



現時点では、セットトップボックスに600〜800の広告が保存されていれば問題ありません。広告を挿入する機会がそれほど多くないためです。テレビネットワークは1時間当たり約16分の広告枠を設けていますが、通常、アドレサブル広告の枠は2分ほどしかありません。テレビが24時間ついているという極端なシナリオでは、1時間当たり2分のアドレサブル広告枠すべてを15秒のスポット広告で埋めた場合、192の個別のアドレサブル広告を表示できる計算になります。ただし、問題がひとつあります。モーガン氏によれば、ディレクTVもディッシュ・ネットワークもDVRに保存された広告を72時間に一度しか更新しないそうです。つまり、同じ極端なシナリオでは、72時間のアドレサブル広告の枠は576となり、600〜800の広告が必要になります。

しかし、入手可能なアドレサブルTV広告のインベントリーが増えれば、埋めるべきアドレサブル広告枠も増えるでしょう。また、テレビネットワークが有料テレビプロバイダーとともにそのインベントリーを販売できれば、現状よりはるかに多くの広告を保存できるようにするか、現状より素早く広告をダウンロードできるようにする必要が出てきます。

──それは問題ですね。しかし、クラウドか何かからセットトップボックスにもっと多くの広告をダウンロードできないのですか?



できません。少なくとも現状では。モーガン氏によれば、コムキャスト(Comcast)のX1をはじめ、一部のセットトップボックスはインターネットに接続できるようです。また、ディレクTVやディッシュ・ネットワークもDVRに広告をロードするのに利用するインディビ(Invidi)のアドレサブルTV広告技術がアップデートされ、インターネット経由で広告を配信できるようになる見込みです。しかし、大多数のセットトップボックスはインターネットに接続できません。

──では、どうすればテレビはより多くの広告にアクセスできますか?



インターネット経由です。ただし、セットトップボックスは経由しません。モーガン氏によれば、インターネットに接続可能なスマートTVを利用することで、広告をテレビにダウンロードできるそうです。ただし、スマートTVがセットトップボックスの代わりに広告を保存するだけでは、広告キャッシングの問題は解決しません。ディレクTVやディッシュ・ネットワークのDVRに比べると、スマートTVはハードディスクの容量が小さく、現状と同等の広告を保存できないためです。

──つまり、スマートTVでは問題を解決できないということですね。



スマートTVだけでは問題を解決できません。しかし、スマートTVやIP放送対応セットトップボックスのインターネット接続機能を利用すれば、現状より合理的な方法でアドレサブルTV広告のキャッシングを管理できます。モーガン氏はSPOCという手法を考案しました。SPOCはShared, Predictive, Open Cacheの略で、共有された予測的でオープンなキャッシュという意味を持ちます。モーガン氏のキャッシング手法が目指しているのは、広告セラー間で広告資産を共有し、スマートTVがそのとき保存すべき広告の数を一元管理することです。ひとつの組織が技術を支配することなく、スマートTVやセットトップボックスのメーカーがニーズに応じてカスタマイズできるようにするには、特定の世帯向けに保存すべき広告をスマートTVが的確に判断し、基本的なキャッシング技術をオープンソース化する必要があります。

──とても難しそうですね。



その通りです。しかし、考えてみてください。インベントリーの制約があるにもかかわらず、広告主は2019年に入ってから、すでに25億ドル(約2680億円)をアドレサブルTV広告に投じたと試算されているのです。アドレサブルTVのインベントリーを増やすことができれば、きっとどのような努力も大きく報われるでしょう。

Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)