良いものをより安く、からの脱却/野町 直弘
牛丼のチェーン大手の𠮷野家さんのコンセプトについては皆さんご存知でしょう。「うまい、やすい、はやい」です。しかしネットで調べてみますとこの「コンセプト」も時代によって変化しています。
1970年代には「はやい、うまい、やすい」だったものが、1980〜1990年代は「うまい、はやい、やすい」に、そして2000年代からは「うまい、やすい、はやい」となって現在に至っているとのこと。70年代はファストフードの奔りだったことから「はやい」が第一優先に、80〜90年代はバブルや美食ブームを背景に「うまい」が第一優先に。そして2000年代からは低価格競争が激化し「やすい」と「はやい」が逆になっていることなど、時代背景を反映している状況が読み取れます。
𠮷野家さんのコンセプトと同様に、今までの調達購買部門の役割・機能は「購入品のQCDの確保」と言われてきました。いわゆる「良いものをより安くタイムリーに。」ということです。
しかし𠮷野家さんのコンセプト同様に時代の変化とともに、この役割・機能も最近は必ずしもそうでなくなっていることが指摘されるでしょう。その理由の一つは、QCD以外にも重視すべきことが多くなってきていることが上げられます。
例えば最近SDGsという言葉をよく聞くようになりましたが、サステナビリティ(持続可能な)調達などはその一つです。良いものをより安く、タイムリーにだけでなく、その調達が持続可能であること、もう少し噛み砕くと持続可能性のあるサプライヤから購入すること、つまり先の3つの役割・機能に付加して、「よい取引先から買う」ということが求められています。
持続可能な「より良い取引先」と言っても様々な観点が考えられるでしょう。信用リスク、供給リスク、また必ずしも大手企業であることが、買い手企業にとって、最適なサプライヤとは言えません。こっちを見てくれているかどうかも重要な観点です。
また以前このメルマガでも触れましたが、東京オリンピックの調達コードを読んでみても様々なことが調達先に求められていることが分かります。東京オリンピック・パラリンピックの調達コードは5つの大項目(全般、環境、人権、労働、経済)で何と33項目のコードが上げられているのです。このように、従来は求められてこなかったことが求められています。
もう一つの視点ですが、そもそも良いものを買う必要があるのか、という点です。「良いもの」の定義にもよりますが、必ずしもハイスペックなものが「良いもの」とは限りません。
従来、日本企業の製品はガラパゴス化し、過当な仕様競争に奔りました。しかし、顧客はそんなことは望んでいません。
つまり本来の顧客ニーズから逸脱した仕様競争だったのです。これも有名な話ですが、アップル社はiphoneの液晶パネルに当時シャープの最先端仕様であった液晶を敢えて採用せず、解像度を落とした汎用性の高い液晶パネルを採用し、それを2社購買化しました。つまりアップルにとって「良いもの」は技術的にも納入面でもリスクが低い汎用性の高いものだったのです。
開発購買は開発上流段階でいかに適正な仕様を買えるように働きかけるか、という活動です。言い換えれば、顧客ニーズにあった無駄のない最適な仕様選定を開発者やユーザーにさせる活動と言えます。
このように考えると「良いものをより安く」ではなく「顧客ニーズに基づく適正な仕様のものを、より安く、よりスピーディに」ということになるでしょう。
これは商品仕入などの流通の世界のバイヤーにとっては、極めて当たり前の役割・機能と言えます。何故なら商品仕入は仕入れた製品が売れなければ収益につながらないからです。
「顧客ニーズに基づき、売れる適正な仕様のもの」でなければ売れません。
このように従来の「良いものをより安く」という買い方はちょっと古い概念になってしまいました。これからは「顧客ニーズに基づく適正な仕様のものを、より安く、よりタイムリーに、良いサプライヤから購入すること」が調達部門の機能であり、役割になっていくのです。
そのためには従来の概念からの脱却がその一歩となります。
つまり、これからはより幅広い機能を果たさなければならないのです。