猪口 真 / 株式会社パトス

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今、シニア世代の求人が好調だという。

かつて、転職市場では、35歳がひとつの目安とまで言われたものだが、40歳代、50歳代のビジネスパーソンの転職市場も活況を示しているらしい。

確かに多くの業種で人手不足が深刻な問題となっており、シニアといえども働き手がいるのであれば、何がなんでもほしい企業はたくさんあるだろう。

しかも、現在の60歳代はすこぶる元気であり、労働力としても40歳代、50歳代と比較してもほとんどひけをとらない。

しかし一方では、60歳のいったんの定年を迎え、再雇用制度で同じ職場で働くと、給与はよくて半分、ひどい場合は2割〜3割などという話も聞く。それでも受け入れざるを得ない状況にあるのも現実だ。

この状況は、65歳を超えるとさらに厳しくなる。国も、70歳まで働けるような制度改革を進めているものの、実際に働くことができている人たちは、半数にも満たないことが、総務省のデータからも見てとれる。

また仕事があるといっても、飲食サービスや小売りにおいて、若者が採用できないための代わりの人材を採用したがっているだけだという意見もある。

老後のお金が足りない

2000万円の不足問題が大きくクローズアップされるなか、せめて70歳までは働かなければ老後の暮らしは破綻してしまうと感じた人も少ないないだろうし、実際に多くの人が、働きたいと願っている。

多くの人が常識として思っていたことではあったものの、国に紐づくワーキンググループによって出されたレポートだっただけに、国民に突き付けられたかたちになった。

これからはさらに年金の減額や支給開始年齢の引き上げなどの問題をあるといわれ、不足する金額は2000万どころか3000万、4000万という計算結果もあるほどだ。

プルデンシャルジブラルタファイナンシャル(PGF)生命保険が発表した調査結果によれば、2019年に60歳になる人に貯蓄額を聞いたところ、「100万円未満」が24.7%。「100万円〜300万円未満」が(11.3%)、「500万円〜1000万円未満」は(11.1%)だったという。半数以上の人が、年金では足りないのだ。

一方、「1億円以上」(8.1%)、「5000万円〜1億円未満」(6.9%)とあり、かなりの格差となっている。さらに「貯金なし」も「1億円以上」もともに増加しているのだ。明らかに格差が拡大しており、お金は集まるところにより集まることを証明したかのようだ。

60歳以下のビジネスパーソンは、さらに厳しい状況にある。企業によっては、50歳代の余剰人員が企業の収益を圧迫しているという意見もよく聞く。大手企業では、中高年、いわゆる団塊ジュニア層のリストラを始めている企業があるという。

こうした状況は、将来に対する不安ばかりをあおり、65歳を過ぎても働きたいと考えざるを得ない状況となっている。

広がるビジネススキル格差

この格差の拡大は、同時にビジネスパーソンのスキルにおいてもいえるのではないか。これまでは、終身雇用が機能していたため、トップに上り詰めるような人は別にして、さほどの競争意識を持たなくとも、そこそこの給与と退職金が待っていたため、大半の人は同じようなビジネススキルだったのではないか。

しかし、現在、60歳の時点でのスキルの差は、明らかに大きくなっている。市場における競争に加えて、企業内での競争も、非常に激しくなっている。競争に敗れた人はポストもなければ、場合によってはリストラ対象となってしまう。

現在多くの企業では、50歳代後半で役職定年となり、給与も減少する。大手企業で、高額な退職金と企業年金が整備されている企業であれば問題ないが、7割以上いるといわれる中小企業、小規模企業においては、そうした制度はほとんどなく、60歳時点でのビジネススキルによって、その後の収入には大きな差が生まれる。

とはいえ、聡明で元気な60歳代は確実に増加している、特にエンジニアやプログラマーといった専門的な技術を持つ人材は引く手あまただ。

また、現在大きな課題になっているのが、中小企業の事業承継問題だ。日本の企業数は、相当数減少しているが、その原因のひとつは、承継問題、つまり、企業を引き継ぐ人がいないことだ。誰にでもできる仕事ではないが、経営の視点と手腕を持つ人材は、多くの企業が欲しがる。

そして、これからの市場の中心はシニア世代になっていくことは間違いのないことだ。重要なポイントは、シニア市場を制するためには、シニアのニーズが分からなければならない。

シニア向けの商品やサービスの開発はどの企業においても必須であり、これからの重要なポイントになるのは間違いないことだ。

現在、50歳代の人たちは実際に60歳になってからでは遅い。今のうちから、将来にわかって仕事ができる状況を自ら作り出していくことが必要だ。