オフィス労働生産性を向上させるために(1)付加価値を生んでいるのかを常に意識する/日沖 博道
テーマの定義から言って、労働生産性の向上には、分母でありインプットである「従業員の延べ就業時間」の削減もさることながら、分子でありアウトプットである「付加価値」(おおざっぱには「利息支払前利益+人件費」と考えてよい)を上げることにも躍起になるべきだ。
世の中的には残業時間の削減が注目されているため、今までより短い時間で仕事を終えるためにはどうしたらいいか、早帰りする雰囲気を作るためにはどうしたらいいか、といった部分にだけフォーカスが当たりがちだ。しかし皆が早帰りした結果、仕事が進まずに会社の売上が減り、ひいては付加価値が減ってしまっては本末転倒なのだ。
同様に、顧客満足にも儲けにもつながらない仕事を効率的にできるようにいくら一生懸命工夫をしても、大して意味はない。そのために残業するくらいなら、何もせずに早帰りしてくれたほうが会社としては有難いとさえいえる。
つまりまず考えなければいけないのは、今取り組もうとしている仕事が本当に付加価値を生むのか、という視点である。「前からやっている仕事だから」と無自覚に漫然と続けるのではなく、「この仕事は、より多くのお客さんがより高い価格で買ってくれるために役立っているのか」という視点を常に持つことである。
その点が疑問なら、そもそもやり方を工夫する価値すらないので、他の仕事に精力を集中すべしということになる。
極端な話、どうしようもないレッドオーシャンの真っただ中にいて儲からないビジネス構造から抜け出す算段が見つからない場合、中途半端なコスト削減努力に足掻くくらいなら、いっそ事業から撤退して別の事業で頑張ったほうが付加価値を生めるということなのだ(これは経営者が考えるべきイシューだ)。
たとえ取り組む価値が高いビジネスに携わっていても、そして検討するテーマ自体が付加価値を生む可能性が高くとも、「イシュー」の捉え方とスコープ(範囲)の設定次第で付加価値を大して生まない場合もあるのでよく考える必要がある。どういうことか。
例えば、新規事業企画やマーケティング戦略見直しプロジェクトでの検討中に、顧客や競合の情報が足らないことに過度に不安を抱いた責任者が、部下に対し枝葉末節の情報を調べさせることがよくある。
そうした情報が不明のままでは経営幹部に上申できないと心配になるのだ。しかし新規事業の企画において市場の情報が満足するほど得られることなどない。常に不十分な情報で意思決定し何かしらのアクションを起こさない限り、肝心の情報は得られないのが普通だ。
こうした無駄な活動に時間を使おうとする行動を誘発する要因が組織に内在していることは実は少なくない。特に、組織の長が自らリスクを取らずに部下に責任を押し付けるようなスタイルを持っていると、部下はあれこれと気を回して付加価値の低い余計な仕事を自ら増やしてしまうことが往々にして起きるものだ。
人件費がバカみたいに安かった高度成長期以前に確立した「仕事というものはそういうものだ」という都市伝説じみた誤解が世代を超えて伝染している可能性がないかどうか、自社の労働生産性の低さの理由を訝しんでいる経営者は今一度社内をチェックしたほうがよい。
そして働く人一人ひとりが、今検討すべきでない「イシュー」や「範囲」の仕事に貴重な時間を費やすことは、自らの付加価値を下げる行為だと肝に銘じたい。
「今取り組んでいる/取り組もうとしている仕事は本当に付加価値を生んでいるのか/生むのか」を常に問う意識を多くの従業員が持っている組織は強いし、効率的に動ける。アリバイ作り的な仕事は常に批判にさらされ排除されるので、ダラダラした仕事、ましてや無駄な残業はなくなるはずだ。