2017年のカンヌ国際映画祭でお披露目されるや瞬く間に観客の熱い注目を浴び、その後も各国の映画祭で数々の賞に輝いた、“ナシゴレン・ウェスタン”こと異色のインドネシア流西部劇映画『マルリナの明日』が、いよいよ5月18日(土)より渋谷・ユーロスペースを皮切りに全国順次公開される。

◆SNS上でも話題沸騰!「ロッテン・トマト」満足度98%の超注目作!

哀愁漂うウェスタン調の音楽が流れる果てなき荒野を、憂いをたたえた美貌の未亡人が颯爽と馬にまたがり、ナタを片手に復讐の旅に出る『マルリナの明日』は、全米レビューサイト「ロッテン・トマト」で驚異の満足度98%を叩き出し、インドネシア版アカデミー賞では、見事作品賞ほか主要10部門を総なめ。映画祭でいち早く見た観客らの熱烈な書き込みにより、SNS上でも話題沸騰していた超注目作なのだ。

実はここ日本でも、2017年の「東京フィルメックス」において『殺人者マルリナ』のタイトルで上映され、見事その年の最優秀作品賞に輝いている。観客からは「これまで見たことのない作品」と喝采を集め、審査委員長を務めた映画監督の原一男氏も「肉体的にも精神的にもタフな闘うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作」と激賞。まさしく、多くの映画ファンが首を長くして劇場公開を待ちわびていた1本なのだ。

◆『ガルシアの首』を彷彿とさせる“闘うヒロイン”の物語

どこかサム・ペキンパー監督の傑作『ガルシアの首』にも通じる映画愛を全篇に漂わせつつも、アクションとユーモアの要素を巧みに織り交ぜた『マルリナの明日』は、インドネシアの秘島・スンバ島に暮らす女性をモチーフにした、前代未聞の「闘うヒロイン」の物語。起承転結をあらわす4つの章から構成されているのも、本作の大きな特徴だ。

「強盗団」と題された「第一幕」は、強盗団のボスであるマルクスが、未亡人のマルリナが暮らす一軒家を訪ねてくるところから幕を開ける。「あと30分で仲間が来て、お前の金と家畜を根こそぎいただく。それから7人でお前を抱く」。そう高らかに宣言する悪党マルクスに、料理を振る舞うよう命じられたマルリナは、あろうことか手製の「鶏のスープ」で強盗団4人を毒殺。さらに、襲いかかってきたマルクスの首を目掛けて、あっという間に大きなナタを振り下ろすのだ。

そして迎えた「第二幕」。絵画と見紛うほどの絶景の中、まるでお中元の「スイカ」のごとく、「生首」を片手にぶら下げたシュールなマルリナの姿に唖然とさせられる。乗車拒否するバスの運転手の首にナタを突き付けながら警察に向かう途中、出産間近の妊婦と、甥の結婚式に馬を届ける男女に出会い、ユーモラスなやりとりが繰り広げられる。だが、マルクスの首を取り戻しにきた強盗団の手下に追い詰められたマルリナは、馬にまたがり荒野を一人突き進む……。

◆監督を務めたのは、インドネシアの新鋭モーリー・スリヤ

監督を務めたのは、インドネシア映画界にキラ星のごとく現れた36歳の新鋭、モーリー・スリヤ監督だ。もともとこの企画はインドネシアを代表する巨匠ガリン・ヌグロホ監督から「女性に監督をしてもらいたいストーリーがある」と、本作の基となった原作「The Woman」を手渡されたことがきっかけだという。

なんといっても本作の見どころは、西部劇で見慣れたテキサスと見紛うほどの広大な地平線を切り取ったロケーションと、陰影をはらんだ息をのむほど美しい映像、そして印象的な音楽だ。華奢な身体ながらもパワフルなスリヤ監督のもと、息の合ったインドネシアの一流スタッフが結集。バロック調の絵画や聖書の逸話、さらには日本の時代劇なども参考にしながら、照明やカラーリングを構築し、音楽とともに独特の世界観を作り上げた。また、カメラが固定であることも絵画的要素を強めている理由であると言えるだろう。

◆インスピレーションの源は、ジム・ジャームッシュ監督作『デッドマン』

ジャカルタ育ちのスリヤ監督がロケ地として選んだのは、草木が生い茂るインドネシアの中でも珍しい乾燥地帯にあたるスンバ島。Googleでスンバ島の画像を見たスリヤ監督が真っ先に思い浮かべたのは、意外にも正統派のマカロニウェスタンではなく、ジム・ジャームッシュ監督が手がけたモノクロの西部劇『デッドマン』だったという。

美しい自然とともに、何世紀にも渡って形成された文化と信仰がいまだに息づくこの島は、インドネシア国内でもっとも貧しい地区の一つでもあり、人々は武器としてサーベルを持ち歩き、田舎では強盗団が家を襲うこともあるんだとか。まさに映画と同じような事件が日常的に起きている場所なのだ。

◆部屋の片隅に平然と置かれるミイラと、楽器を弾く「首なし男」

ちなみに劇中のマルリナの家の部屋の片隅には、夫のミイラがむき出しで置かれており、思わずギョッとさせられる。映画的な演出にしては、「いささか乱暴すぎるのでは?」と思っていたら、なんとこの島には数ヶ月から数十年もの間、遺体を家に置いたままミイラ化させる風習があるのだとか。しかもその理由は「盛大な葬式の資金を貯めるため」だというから驚かされる。

とはいえ、映画に登場するミイラは本物ではなく、スリヤ監督の友人の脚本家が熱演しているというから、ホラーが苦手だという人でも安心だ。脚本家という仕事柄、じっと座っているのは得意だったそうだが、さすがに何時間も静止しているのは辛かったらしく、「恨みを買った」と冗談交じりにスリヤ監督は明かしている。何から何まで規格外であることが、きっとこのエピソードからも伝わるはずだ。

劇中「首なし男」が楽器を弾きながらマルリナの後ろをついて歩くシーンもあるのだが、恐ろしさよりもなぜか「可笑しみ」の方が勝ってしまうのも、本作ならではの持ち味だ。オープニングに流れるドラマチックなオリジナルスコアや、劇中で披露される民謡の不思議な旋律も、この物語に奥行きを与えている。

◆不屈のヒロイン・マルリナを演じるのは『ザ・レイド GOKUDO』のマーシャ・ティモシー

不屈の闘志を持つ、官能的でミステリアスな主人公マルリナを演じたのは、世界中を騒然とさせたインドネシアのアクション映画『ザ・レイド GOKUDO』のマーシャ・ティモシー。彼女の存在感なくしては、この映画の成功はあり得ないことは、ポスタービジュアルや予告編を見ただけでも一目瞭然。劇中ほとんど笑顔を見せないにもかかわらず、彼女の内側からあふれ出る真の美しさと逞しさに、きっと誰もがノックアウトされるに違いない。

◆“新時代ヒロインの到来”、「ジャンル映画」という枠組を軽々と超える驚きと発見

“新時代ヒロインの到来”を告げる『マルリナの明日』は、“ナシゴレン・ウェスタン”とは言いながらも、いわゆる「ジャンル映画」という枠組を軽々と超える驚きと発見がある。まさに「令和」という新時代を迎える我々に、希望と底知れぬ勇気を与えてくれる、エキサイティングな傑作エンターテイメントを見逃すな!(文/渡邊玲子)

映画『マルリナの明日』は5月18日(土)よりユーロスペースにてロードショー、以下全国順次公開

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