「ナイーブな」とは「繊細な」ということではない/日沖 博道
とある会話を聞いていただこう。
A男「…でね、僕もそれ以上は言えなかったよ」
S子「そりゃそうよね、A男さんってナイーブだもの」
A男「どういうこと?僕が馬鹿だっていうこと?」
S子「そ、そんなこと言ってないじゃない。むしろ褒めたくらいなのに…」
気まずくなった2人の関係がこの後どうなるかは別として、会話がどこで食い違ってしまったのか、あなたも気づいただろう。そう、「ナイーブ」という言葉の捉え方が2人の間で決定的に違っていたのだ。
ちなみに2人のバックグラウンドとしては、A男は海外勤務経験もあり、英会話もそれなりにできる。S子は学校の時の英語の成績は悪くはないし、海外旅行は何度も行っているが、海外で暮らしたことは特にない。英会話はカタコト程度だ。
現代の日本ではカタカナ英語の言葉が氾濫しているため、S子も何の気なしによく使っている。この場合、彼女はA男が「繊細だ」とか「純朴だ」という意味合いで「ナイーブだ」と表現したのだ。つまりニュアンスとしては肯定的だ。
しかし英語をある程度以上使えるA男としては自分のことを「ナイーブだ」と言われていい気はしない。なぜならそれは「未熟な」といった意味のフランス語から来ている言葉で、「世の中のことを分かっていない、単細胞のお馬鹿さん」というニュアンスだから。かなりネガティブな意味で使われ、日本語では「世間知らず」が最も近い。
したがって留学先や旅行先、もしくは国内でもインバウンド観光客あたりと仲良くなった際の会話では気をつける必要がある。
冒頭の会話のように面と向かって“You are naive(あなたはナイーブだ)”と英語圏出身の人に告げようものなら、その場でビンタを食らわないまでも、すごい剣幕で悪態をつかれることを覚悟したほうがよい。第三者のことを「傷つきやすい」とか「素朴」というつもりで“She is naive”と表現したら、きっとあなたには「陰口をきく人」という評判が立つだろう。
一体誰がこんな間違った意味合いを広めてしまったのかは不明だが、日本にはとんでもない意味合いで誤用されるカタカナ英語がいくつかある。マンション、ベテラン、スマート、等々。
もし聞き慣れないカタカナ語を耳にしたら、相手の使い方を鵜呑みにせずに元の意味合いを調べたほうがよい。外国人だけでなく日本人と話す場合でも、間違ったカタカナ語を嬉々として使っている姿は滑稽なものだから。