4月に入ってビットコインの価格が急騰。これは何かのサインなのか?(写真:SlavkoSereda/iStock)

4月に入り暗号資産(仮想通貨)の価格が上昇している。代表的な暗号資産であるビットコインは、ついに50万円を突破。1月末に年初来安値(36.7万円、フィスコ仮想通貨取引所)をつけた後は、じりじりと下値を切り上げており、40万円台半ばでのモミ合いが続いていた。

「寝耳に水」で、ビットコインの売り方は買い戻し?

久しぶりに動意付いたこともあり、複数の著名投資家がコメントしているが、複数の海外交換所で、大口のビットコイン投資家が総額約1億ドル(約111億円)相当となる20000BTCを取引していたようだ。何か特別な材料が出たわけではなく、大口のショートカバーに短期筋の投資家が乗るといった需給が主体の動きだったと思われる。

それでも、暗号資産は明確なファンダメンタルズが存在しないため、需給が与える価格へのインパクトは大きい。テクニカル面では、昨年5月高値と同年7月高値を結んだ上値抵抗ラインが位置する50万円水準を上回っていることから、売り方はいったん買い戻しを入れざるをえないような状況にある。

一方、30日間のヒストリカル・ボラティリティ(株式市場では1カ月間を指すので20日間を使用しているが、暗号資産は24時間、365日なので30日間を使用)を確認すると、昨年11月に70万円水準から40万円水準を割り込む前の水準(昨年11月13日は24.9%、4月1日は25.5%)まで低下していた。

ヒストリカル・ボラティリティを確認しながら暗号資産の投資を行っている投資家がどれだけいるかは不明だが、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)やCBOE(シカゴ・オプション取引所)など海外の先物市場で売買しているヘッジファンドが存在している以上、ヒストリカル・ボラティリティをウォッチしていてもおかしくはないだろう。海外の交換所で入ったと言われている大規模なショートカバーはこのようなロジックが裏にあったかもしれない。

正直、動いた後に何を言っても後付けとなるが、久しぶりに動意付いたことは間違いない。今後は、このタイミングでどれだけ出来高が増加するか、つまり新規の投資家が参戦するかどうかがこの相場の持続力を判断するポイントとなろう。

一方、目先は4月の値動きに関心が向かいやすくなっているなか、政府は3月中旬に金融商品取引法、資金決済法の改正案などを閣議決定した。ビットコインなど暗号資産の価格に対する影響は限定的と考えるが、法令のスケジュールおよび方向性がはっきりし内部管理体制の構築のターゲットが明確となったことから、利用者保護および業界全体の健全化・信用回復にはつながりそうだ。そして、判明したスケジュールを見据えた業界再編の動きも活発化すると考える。

金融庁は新ルール設定で一歩踏み込んだ

金融商品取引法や資金決済法の改正案などについては、昨年、金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」で議論のテーマとして再三挙がっていたことから想定の範囲内と言える。

だが、「金商法上の登録審査に新たな期限を設ける」という新ルールは一歩踏み込んだ感がある。金商法改正の施行予定日である2020年4月から1年半の間に、正式に登録を済ませられない「金商業におけるみなし業者」はサービスを提供できなくなる。つまり2021年9月までに、金商法改正で設けられた内部管理体制のハードルをクリアできなければ、強制的に退場となるわけだ。

金融庁がこうした新ルールを設けたのは、現物取引を扱う資金決済法上のみなし業者の問題が存在するためのようだ。資金決済法における仮想通貨交換業者の「みなし会社」は、現在1社存在する。2017年4月に資金決済法が施行されてほぼ2年経過したが、「みなし業者」のまま事業が行われている状況を是正したいという思惑があるのだろう。

現在、仮想通貨交換業者は、資金決済法、個人情報保護法、外国為替及び外国貿易法(外為法)、仮想通貨交換業の自主規制団体(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA))の基準に沿った運用を行っている。そのほかに、国際的なAML(アンチ・マネーロンダリング)規制強化の流れにより、犯罪収益移転防止法(犯収法)の遵守も求められている。AMLに関しては、マネーロンダリングやテロ資金対策を審査する国際組織の金融活動作業部会(FATF)の調査団が2019年秋に来日し、日本の取り組み状況を精査することもあり、仮想通貨交換業者だけではなくメガバンク、地方銀行などさまざまな金融機関も対応に追われている。

そうした中、暗号通貨のレバレッジ取引など証拠金取引を手掛ける交換業者は、2020年以降、1年半で改正された金商法に対応できる内部管理体制を構築する必要を迫られたわけだ。

実際には、利用者に迷惑をかけない退場の仕方も考えねばならないことから、内部管理体制の構築が進まない交換業者は、1年半より短い1年ほどで金融庁から「退場」の選択を求められるだろう。

暗号通貨の幅広いサービスを展開するには、それなりのコストを支払わねばならないことから、今後、暗号通貨業界の再編は本格化を迎えることになる。そして、その再編は証券会社を交えた流れとなるだろう。それは、交換業者を金商法で細かく分けていく方針のなかにSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)が含まれているからだ(ICOとSTOの違いに関しては、3月13日寄稿の「金融庁は仮想通貨規制をどこまで強化するのか」をご覧いただきたい)。

証券会社を巻き込んだ業界再編がいよいよ本格化へ

今回の金商法改正のプロセスを細かく記述すると、上記のような証拠金取引を扱う交換業者は第1種金融商品取引業としての登録が必要となる一方、配当を出すなど投資性を持つ暗号通貨技術を使った資金調達を行い、トークンを新規で発行する業者は第2種金融商品取引業としての登録が必要となる。

ICOは、簡単なホワイトペーパー(IPOであれば目論見書に該当)で仮想通貨を用いた資金調達が可能だったことから、世界的に詐欺などのトラブルが多く発生した事実がある。国内でも、金融庁主催の「仮想通貨交換業等に関する研究会」において、利用者保護のためのルール整備が急務であると議論されていただけに、ICOを有価証券として明確に金商法で管理していく体制(つまりSTOとしての管理)が進めば、暗号通貨を用いた資金調達の制度作りや、健全性は一段と引き上がりそうだ。

すでに金商業者としての登録を済ませている証券会社が、新たに暗号通貨に絡んだ事業を手掛けるには、別途、変更登録の手続きが必要となりそうだ。

しかし、有価証券に対する知見が豊富で人材もそろっている証券会社が、新たな資金調達の手段として暗号通貨業界でビジネスを展開する可能性は十分ある。仮想通貨交換業社を傘下に保有している証券会社がすでに存在しているほか、仮想通貨交換業者が証券会社設立に向けた動きもある。2020年の金商法、資金決済法改正を見据え、証券会社と仮想通貨交換業者との業務提携を含めた業界再編は本格化を迎えると考える。