金森 努 / 有限会社金森マーケティング事務所

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 フレームワークはマーケティングを考える上で欠かせないものである。しかし、その使い方を間違えれば、ミスリードを招く危険性もはらんでいる。

 今回は、そのフレームワークの誤用が招く問題点と、正しい使い方を取り上げていきたい。

誤用1・いきなり4P

 「マーケティングって4Pでしょう?」と言われるぐらいメジャーなフレームワークが4Pだ。4Pとは、マーケティングの施策の4つの要素である、production(製品)、price(価格)、place(販路)、promotion(コミュニケーション)の頭文字を取ったものだ。有名であるが故に、いきなりこの4Pから検討を始める例が散見される。

 最終的には、施策の検討要素として4Pを策定しなければならないのだが、そこから初めてしまうと、その製品・サービスを「誰に、どんな価値として訴求するのか?」がわからなくなってしまう。また、さらにその手前の「自社を取り巻く環境がどうなっているのか?(どんな機会と課題があるのか?)」もわからないまま、施策を決めることになってしまう。

 マーケティングを考える「流れ」=「マーケティングマネジメント」は、環境分析→セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング→4Pなのだ。

 「マーケティングは“流れ”で読み解く」と覚えておきたい。


誤用2・穴埋め問題的環境分析

 フレームワークを用いている時によくあるのが、フレームに事実関係を当てはめ「事実整理」をするだけに留まる例だ。例えば環境分析の3C分析なら、customer(市場と顧客)、competitor(競合)、company(自社)の3つのCの枠組みに、思い浮かんだ(もしくは、情報収集した)事実を書き込んで整理しただだけで安心してしまうことである。

 環境分析のフレームワークなら、結論として、「どんな市場機会と事業課題があるのか?」という「解釈(意味合い・メッセージ)」を導出しなければ分析する意味がない。

 フレームワークは「穴埋め問題」ではないことを心掛けたい。


誤用3・属性のみのセグメンテーション

 ターゲットを考える時には、その手前で「どんな顧客候補がいるのか?」を抽出する必要がある。それが、セグメンテーションだ。その際、「性・年齢」でとりあえず切り分けてしまう例が多い。そこから、「ターゲットは20代女性」などという、もやっとした絞りきれていない結論になってしまうのである。

 ターゲット候補を抽出する切り口として、性・年齢という「属性」は、ある意味わかりやすい。しかし、その属性を持つ人がその製品・サービスを求めているのかということはわからない。

 そもそも、セグメンテーションとは、属性から考えるものではない。「どんなニーズを持った人々がいるのか?」という「ニーズ」に注目するのが原則だ。そして、「そのニーズを持った人々は、どんな属性なのか?」という順番で考えるのである。

 「セグメンテーションはニーズで括る」と、覚えたい。


誤用4・直感的ターゲティング

 ターゲットを決める時、妙にリアリティのあるなんとなくイケそうなターゲット像が描かれることがある。ターゲットを一人の人物像を描くように詳細化するのは、「ペルソナ」という手法であり、それ自体は有効なものだ。問題は、それがいきなり描かれることなのだ。

 ターゲティングの手前では、前項のセグメンテーションで複数の顧客候補が抽出されていなくてはならない。その中から明確な根拠をもってターゲットを絞り込むのがキモなのである。

 代表的な絞り込みの基準としては、そのセグメント(顧客候補)の規模、成長性、波及効果、到達性、競争環境などがある。それらの基準に照らし合わせて、ターゲットを絞ったあと、それを詳細化してペルソナを作れば良い。

 「ターゲット詳細化(ペルソナ)の前に、複数のセグメント(顧客候補)を評価してターゲットを選ぶ」ということを覚えておこう。


誤用5・自社都合のポジショニングマップ

 「誰(ターゲット)」を狙うかが決まったら、そのターゲットに対して示すべき「価値(差別化要素)」を明確化する必要がある。それがポジショニングだ。

 ポジショニングは自社の強みが発揮できる要素で2軸のマップ(ポジショニングマップ)を作るのが一般的である。その際、「何を軸にするのか?」が最大のキモであるが、ままあるのが、「自社の優位性が示せる要素」で考えてしまうことだ。自社にとって競合に対して優位性が示せるとしても、それを顧客が望んでいるとは限らない。

 自社が優位性を示せるかどうかは、結果である。

 まずは、「顧客の買う理由(key buying factor=KBF)で切る」と覚えておこう。

 そうして軸を切ってマップを作り、優位性のあるポジションが取れるように工夫するのである。


誤用6・バラバラ4P

 ここまで、環境分析→セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングと考えてきて、ようやく施策の立案である4Pの検討となる。

 しかし、4Pの要素を個別に考えてしまうと、施策全体がちぐはぐになってしまう懸念がある。製品のスペックと価格が釣り合わない、販路が適していない、効果的のプロモーションが行われない・・・などのことが発生する。特に組織間で4Pの要素が分裂して担当される場合は要注意だ。productとpriceは製品開発部、placeは営業部、promotionは広告宣伝部の担当などということはよくある。その場合でも、組織横断的に全体の検討が必要なのだ。

 そうならないためにも「4Pではなく、マーケティングミックス」と呼んだ方が良い。4つのPの要素をミックス、つまり、混ぜ合わせて効果を最大化することが大事なのだ。その際、相互の「整合性」、つまり相互に噛み合っていることに留意することが肝要である。

 そのためにも、まずは「4P」ではなく、「マーケティングミックス」という言葉で覚えておこう。


 以上、マーケティングのフレームワークを用いる場合のありがちな問題点と、その対策を述べてきた。

 マーケティングをうまく検討するには、最終的には「センス」に依存する部分もある。しかし、その手前で、適切にフレームワークを用いれば、かなり成功確率を上げ、失敗を回避することができる。

 自分がスティーブ・ジョブズのような天才タイプでないと自覚したら、まずは正しいフレームワークを身に付けることをお勧めしたい。