日産自動車三菱自動車が発売した新型軽「デイズ ハイウェイスター」(左)と「eK X」(写真:尾形文繁)

日産自動車が持つ先進技術と、三菱自動車の軽自動車づくりのノウハウを融合させた」(三菱自の益子修会長兼CEO)

日産と三菱自は3月28日、共同開発した軽自動車の新型車をそれぞれ発表し、販売を開始した。2013年以来6年ぶりのフルモデルチェンジとなるが、開発・設計は日産、生産は三菱自とそれぞれの得意分野に合わせて役割分担することを初めて試みた。

日産の「虎の子技術」を三菱自が採用

今回刷新されたのは、日産は「デイズ」と「デイズ ハイウェイスター」、三菱自は「eKワゴン」と「eK X(クロス)」の各2種類。プラットフォーム(車台)やエンジン、トランスミッションなど、主要部品を含めた構造は共通化されている一方で、デザインや装備などでは両社が独自色を出す「姉妹車」の位置づけとなる。前モデルと同様、全車種が三菱自動車水島製作所(岡山県倉敷市)で生産される。車両価格(税込み)は日産車が127万3320円〜177万8760円、三菱車が129万6000円〜176万5800円で、いずれも前モデルよりも数万円程度、値上げした。


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今回の新型車で注目されるのが、先進運転支援技術の充実ぶりだ。三菱自の新型軽では、高速道路で同一車線を走行する際にハンドルやブレーキ操作の支援などをする技術「MI−PILOT(マイ パイロット)」を同社の車で初めて採用した。この技術は日産が開発し、日産の複数の主力車種にすでに搭載済みの運転支援技術「プロパイロット」そのものだ。いわば、日産の虎の子の技術を三菱自にも提供した形で、開発力に劣る三菱自がフランスのルノーも含めた3社連合(アライアンス)の経営資源を存分に活用した例と言える。

日産にとっても、軽自動車は国内販売台数の3割を占める重要マーケットだ。逮捕されたカルロス・ゴーン前会長がトップだった時代に、軽自動車を自社で開発・生産することも検討されたが、軽自動車用の生産設備に巨額投資が必要になるため、採算が合わず断念したとされる。そこで日産は三菱自の軽自動車に相乗りする形で、2011年に折半出資して合弁会社「NMKV」を設立。軽自動車の共同開発に乗り出した。その後、2016年には軽自動車の燃費不正で窮地に陥った三菱自に日産が出資して事実上傘下に収めた。

ただ、2013年に発売された前モデルでは、2011年のNMKV設立から時間的猶予がなかったこともあり、三菱自が生産だけでなく開発も担っていた。今回の新型車からは日産が開発・設計、三菱自は水島製作所での生産、という役割分担に変化する。三菱自としては、自動車メーカーとしての生命線である新車開発の主導権を手放した形だが、それはプライドを捨ててでも日産の先進技術を取り込んでいかなければ、年間の世界販売台数125万台(2018年度見通し)の中規模メーカーが競争の激しい市場で生き残れないとの危機感が背景にある。


三菱自の新型軽「eK X」のCMキャラクターに、俳優の竹内涼真さんを起用した(記者撮影)

開発・設計と生産の役割分担は日産にとってもメリットが大きい。単眼カメラを使った運転支援システムが三菱車にも搭載されることで、数量増によるコスト低減効果が期待できる。特に軽自動車は国内車名別販売ランキングのトップ10のうち過半を占めるなどボリュームが大きい。三菱車が売れれば、運転支援システムを搭載する日産の他車種へのコスト低減効果が見込めるわけだ。

さらに、日産にはそもそも軽自動車生産の経験がないのに対し、三菱自は軽自動車生産のノウハウを60年以上にわたって蓄積している。主要部品の91%は水島製作所から20キロ圏内で調達しており、部品供給網(サプライチェーン)が確立している点でも三菱自が生産を担うのは自然な流れでもあった。

3社アライアンスがよい形で結実

三菱自の益子CEOは、「(日産の先進技術について)三菱の他車種でも展開していくことも考えている」と明らかにした。一方で、三菱自も技術を日産から受け取るばかりではない。プラグインハイブリッド車(PHV)の技術では三菱自が先行しており、将来的に日産とルノーが三菱自の技術を活用して世界展開することもありえそうだ。日産と三菱自は電気自動車(EV)の軽も共同開発中で、今回のように設計・開発と生産を役割分担する体制が今後も続く可能性が高い。


三菱自動車の水島製作所では、日産マークのついた車が生産ラインを流れる(撮影:尾形文繁)

新型車の開発でさらに興味深いのが、軽自動車用に新開発したエンジンに、ルノー製エンジンの基本設計を採用している点だ。ルノー製エンジンをそのまま搭載しているわけではなく、基本設計を日産側でアレンジしているが、これによって開発期間が大幅に短縮されたという。今回の新型軽自動車の開発にあたっては、3社アライアンスがよい形で結実したと言えるかもしれない。

3社トップを兼任したゴーン氏の逮捕以降、アライアンスは主導権をめぐって対立が深刻化し、一時は存続さえ危ぶまれた。アライアンスに属する各社が経営資源を持ち寄り、それぞれに利益がある「WinーWin」の理念を掲げながら、その利益のバランスが特定の社に偏っていたことが不正問題の遠因にあるとの指摘も多い。今回の新型車はその原点に立ち返り、アライアンスの再生につながるモデルケースになりうる可能性をも秘めている。