スマートフォンやタブレット、あるいは専用リーダーの普及によって、電子書籍に触れる機会はかなり多くなっています。そんな中でも大学生の92%が紙の本を好むという調査結果や、16歳から24歳の若い世代でも3人に2人が紙の本を好むというレポートがある通り、紙の本は根強い人気を誇っています。そんな電子書籍と紙の本の利便性を比較した研究について、Scientific Americanがまとめています。

The Reading Brain in the Digital Age: The Science of Paper versus Screens - Scientific American

https://www.scientificamerican.com/article/reading-paper-screens/

紙の本の読書とスクリーンに表示された文字を読むこととの違いについては1980年代には既に研究が進められていました。1992年以前の研究では紙に比べて画面上の読みは遅く正確ではないと結論付けられていたものの、1990年代初頭の研究からは紙とスクリーンとで読解や理解度に大きな違いは見られないとされていました。

しかしながら、さまざまな実験や世論調査の中で、スクリーンや電子書籍リーダーは紙の本の触覚的な体験を見逃してしまっているほか、長文を直感的に読み進めることが満足に行えないとされています。

その理由のひとつとして、Scientific Americanは「テキストを風景としてナビゲートする」ことを挙げています。開いたページにテキストがどのように配置されているかという「テキストの風景」は、読者にテキスト全体を見失わせることなく1ページに集中させることができるとのこと。画面や文字の大きさでテキストが再配置されることの多い電子書籍と比較して、紙の本は明らかな地形を持っており、そのページをめくることは歩いてきた道に足跡を残すようにリズムがあり、どれだけ進んだかという記録をありありと感じることができると述べています。

Microsoft Research Labの研究者で「ペーパーレスオフィスの神話」の共著者であるアビゲイル・セレン氏は、「今の自分が本のどこを読んでいるのかという感覚は、私たちが認識していた以上に重要です」と述べ、「電子書籍を読むときにはそれを見逃し始めてしまいます。電子書籍メーカーは、今あなたが本のどこにいるのかを視覚化する方法について十分に考えていないと思います」と電子書籍のデメリットについて強調しています。

このように、「テキストをナビゲートする」方法の欠如によりスクリーンが理解を損なうということについて、いくつかの研究が実証しています。2013年にノルウェーのスタヴァンゲル大学で行われた研究では、同様の読解力を持つ72人の学生に約1500語のテキストとその解説文を研究するように依頼し、半数には紙のテキストを、もう半数には15インチの液晶ディスプレイでPDFファイルを読み取らせました。結果として、ディスプレイでテキストを読む学生は、紙で読む学生よりも少し悪いパフォーマンスを示したそうです。

研究結果に基づき、ディスプレイで文章を読む場合、テキストを参照して特定の情報を見つけるのがより困難であると考えられました。紙で読む学生がパラパラとページを素早く切り替えるのに対し、ディスプレイで読む学生はPDFを1セクションずつスクロールするしかなかったためとのこと。

また、物語などを電子書籍で読んでいる際に、スクロールバーを開いて「まだ半分くらいなのか」と感じたり、最後の一文を読んだ後に「これで終わりなのか」と感じたりした経験のある人も多いはず。これは、紙の本にはすぐに分かるサイズや重さがある一方で、デジタルテキストにはスクロールバーなどで大まかな分量を確認できるのみで明確な形状がないことから、短編でもハードカバーでも同じ重さの電子書籍リーダーに対し「触覚的不協和」を生み出すことによるとも発見されています。この感覚は、読書を楽しくないものにさせるだけではなく、不快にさせる可能性すらあると述べられています。

もう一点、重要な観点として、「知る」と「覚える」の違いについてScientific Americanは紹介しています。2003年にレスター大学で行われた調査では、大学生50人に経済学入門の教材をモニターまたは小冊子で読ませ、20分後に選択問題でテストを行いました。結果として紙で読んだ学生とモニターで読んだ学生とで同等のスコアを獲得したのですが、情報の記憶方法が異なっていたそうです。

テストの際、教材をモニターで読んでいた学生は短期的な「覚える」記憶に頼る傾向にあった一方で、小冊子で読んだ学生はどのような文脈でどのようにその情報を目にしたかという長期的な「知る」記憶となっていたとのこと。情報として目にするだけならディスプレイでも問題ないが、知識として獲得したいなら紙の本の方が向いていると結論付けられています。

そのほか、寝る前に電子書籍を読むと睡眠の質が下がるといったような、スクリーンベースの読書が与える身体的・精神的な負担についても研究者により指摘されています。液晶のまぶしさやチラつきなどは目の疲れや頭痛を引き起こしやすく、またスクリーンで試験を行った際にパフォーマンスが下がり、疲労感やストレスを感じたとされる研究結果も報告されています。

「テキストを集中的に読むとなると、紙とインクにはまだ利点があるかもしれません」とScientific Americanは最後に述べつつ、一方で「しかし、テキストが唯一の読書対象ではありません」と新しいアイデアを提示しています。マンガや画集などスクリーンで読むことに向いた作品があったり、あるいは電子書籍リーダーの仕様によりマッチした書籍というものもあったりと、電子書籍は紙の単純移植や紙の本に近い体験の重視だけではなく、新しい読書体験を追究すべきだと主張しています。