U-16アジア選手権ではMVPを獲得する活躍を見せた西川。プリンスリーグ関東でチームは9位に終わったが、U-19日本代表のブラジル遠征、そして選手権と活躍が期待される。写真:安藤隆人

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 絶対的エースのきらめきは見せた。しかし、チームを残留確定まで導くことができなかった。

 プリンスリーグ関東最終節・三菱養和SCユース対桐光学園の一戦で、桐光学園の2年生エース・西川潤は、持ち前の縦への推進力を駆使して、相手の脅威となり続けた。

 17節終了時点で、三菱養和は8位、桐光学園は9位(勝点差はなし、得失点差での順位)で、最下位の山梨学院との勝点差はわずかに1と、都県リーグ降格の可能性が大きい順位にあった。それだけにこの一戦を落とすと、一気に最下位となる可能性もはらんでいた。しかも、上を見ても7位の川崎フロンターレU-18との勝点差もわずか1で、6位の桐生一との勝点差は3と、勝利を掴めば、他の試合結果によっては一気に降格圏外の7位以上に浮上できるチャンスでもあった。

 それゆえに両チームとも勝ちたい一戦だった。西川も試合前から鋭い目つきで、闘う姿勢に火を点けており、キックオフとともにその牙を三菱養和にむき出した。

 開始早々に西川がドリブルで仕掛けると、左サイドを駆け上がったFW佐々木ムライヨセフに絶妙なスルーパスを送り込んだ。
「ヨセフはスピードがあるので、強めに出した」とチームメイトの特徴を理解した正確なパスに抜け出した佐々木は、冷静に中央に折り返すと、ゴール前に走り込んだFW敷野智大がドンピシャのヘッドで合わせ、桐光学園が先制に成功をした。

 その後も西川はドリブルとパスで試合を組み立てる役割を担った。時には自身も突破を仕掛けて強烈なシュートを放つなど、前半は圧巻の存在感を放っていた。

 しかし、後半は徐々に三菱養和の猛攻に後手に回るようになり、彼のもとに思うようなボールが来ない状態となった。49分には右からのクロスをDF渡辺大貴に頭で決められ、同点に追いつかれると、190cmのFW栗原イブラヒムジュニアの正確なポストプレーに苦しみ、絶える時間が続いた。

 それでも望月駿介と内田拓寿の1年時からコンビを組むCBを中心にした堅い守備で、これ以上スコアを動かすことは無く、1-1のドロー決着となった。
 
「今日は残留を決められるかという一戦だった。他力本願ですが、残留に一歩近づけるかどうかの戦いで、自分が決めることを意識していましたが、それができなかった」
 試合後、西川はこう唇を噛んだ。

 山梨学院が桐生一と引き分けたことで、降格圏内の3チームの順位は変わらなかった。だが、まだ降格が決まった訳ではない。プリンス関東代表として、プレミアリーグ参入戦に出場する矢板中央、横浜F・マリノスユース、大宮アルディージャユースの3チームすべてがプレミア昇格を果たせば、3チームの残留が決定し、2チームだと三菱養和と桐光学園が残留。1チームだと三菱養和のみ。3チームとも敗れると、3チームすべてが落ちる形となる。

 これが分かるのは12月14日と16日に行なわれる参入戦の結果次第となるが、この時、西川は地球の反対側のブラジルに居る。U-19日本代表に初選出され、ブラジル遠征に参加することが決まっているからだ。

「自分の周りはほとんどがプロなのですが、ピッチに入ったら物怖じせずにやりたい。普段Jリーグのピッチで戦っている選手と一緒にプレーできるのはすごく楽しみだし、吸収できることは多いと思う」
 
 桐光学園のエースとしては複雑な心境だが、個人としてブラジル遠征は非常に楽しみで、自分の成長につなげられると期待に胸を膨らませている。

「この時期は、選手権を意識しながらも、選手権だけでなくその先にあるU-20ワールドカップに食い込んで行きたい。U-20W杯はどうしても出たい大会で、U-16でやっていた時に同い年の斉藤光毅や久保建英といった選手がU-19日本代表でアジア最終予選を戦っていたので、『俺も早くあそこに食い込みたい』という想いでやっていたので。彼らには絶対に負けたくないんです」

 斉藤と久保という同年代の選手が自分より先を進んでいる。どれだけ自分が騒がれても、常に彼の目には2人の背中がある。今回は2人と同じ舞台でプレーできるチャンスだ。

 選手権でチームの勝利のために全力を尽くす前に、まずは自分の想いを存分にぶつける。そして、結果としてそれが桐光学園のためになることも、彼は十分に理解していた。
「僕が成長すれば、チームにとってプラスになる。ブラジルでいろんな物を吸収して、それをチームに帰ってきて還元して、選手権でさらにレベルアップした状態で臨めるようにしたい」

 選手権でより大きな存在となり、チームとともに頂点へ駆け上がれるように。西川の目はさらに輝きを増していた。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)