グリーのスマホゲーム「アナザーエデン」

「今回の案件は一線を越えている」

あるゲーム会社大手幹部がそう指摘する「今回の案件」とは、スマホゲーム大手グリーの子会社WSFが運営するスマホゲーム『アナザーエデン』で、ガチャの当たりを操作するプログラムが組み込まれていたことだ。

アナザーエデンでは「夢見」と呼ばれるガチャが採用されている。ユーザーは課金アイテムを消費してガチャを引き、設定に沿った確率でキャラクターを獲得する。キャラクターは星3、星4、星5の3つに区分されており、数字が大きいほど排出確率が低い。

組み込まれていたプログラムは2つ(以下、本プログラム)で、10回連続でガチャを引く「10連ガチャ」の結果が特定の条件を満たした場合に再抽選を行うというものだ。具体的には、「同じ仲間(同一ID)が4体以上含まれる場合」「星5クラスの仲間が4体以上含まれる場合」に再抽選が行われていた。つまり、本来ランダムに決まるべきガチャの当たりパターンを歪めるプログラムを導入していたわけだ。

発覚のきっかけはガチャのトラブル

本プログラムは2017年5月から6月にかけて追加され、それ以来1年以上にわたって動作し続けていた。東洋経済の質問に対してグリーは、発覚したきっかけになったのは9月13日に発生したガチャのトラブルだと回答している。ユーザーからのアクセスが集中し、システムの負荷が高まったことで、本来であれば低排出率のキャラクターが多数提供される不具合が発生した。それについて調査する過程で本プログラムの存在が明らかになったという。

グリーは9月19日にアナザーエデンの公式サイトで本プログラムについて公表。ガチャの一時停止を行ったほか、課金アイテムである1アカウントあたり「クロノスの石」1万個をはじめとしたユーザーへのアイテム配布を行った。クロノスの石は最低購入単位で買った場合1個あたり4.8円なので、1人あたり5万円近い補償を行ったことになる。なお、ガチャは10月4日時点で再開している。

ガチャをめぐる不具合や”炎上”自体は、スマホゲーム業界ではたびたび発生してきた。多くは確率表示やシステムトラブルに関するもので、中には景品表示法に違反する行為と見なされた事案もある。たとえば、中国のアワ・パーム・カンパニー・リミテッドが運営していた『THE KING OF FIGHTERS '98 ULTIMATE MATCH Online』では、特定キャラクターの出現率を実際よりも高く表示し、景表法の定める「有利誤認」(実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの)に当たるとして消費者庁から措置命令を受けている。

今回の件について、グリーはすでに消費者庁に出向き、説明を行ったという。ただ景表法違反に関しては「本ゲームの全期間のガチャの提供割合を調査したところ、ゲーム内の表示通りの提供割合と統計的に考えており、景表法上違反しているものではない」と否定している。


ホームページ上の発表で今回の事態が発覚した

実際、グリーの調査によると、サービスを開始して以降、全期間での星5排出率は3.26%と、ゲーム内表記と差はなかった。星4、星3についても±0.01%の差にとどまっている。景表法の有利誤認に当たるかは微妙なところだ。

景表法違反に当たらないとしても、問題がないとは言いがたい。今回の件が従来の不具合や炎上案件と異なるのは、「ガチャの結果を操作するプログラムがユーザーに告知されることなく意図的に組み込まれ、その状態が1年以上の長期間続いていた」という点だ。

ガチャ結果を歪めるプログラム

ガチャの運営について、主要ゲーム会社で構成される業界団体、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)はガイドラインを設置している。グリーもそれに準拠した運営を行っていると発表しており、グリーの田中良和社長はCESAの理事も務めている。

そのガイドラインでは有料ガチャを「金銭、または金銭で購入できる仮想通貨を直接の対価として行うことができるランダム型アイテム提供方式」と定義している。そしてランダム型アイテム提供方式については「偶然性を利用してアイテム等の種類が決まる方式によって提供する方式を言う」としている。最終的に提供確率がゲーム内表記と一致していたとしても、今回のようなガチャ結果を歪ませるプログラムが組み込まれていた場合、ランダムにアイテムが提供されているとは言いがたい。

ガチャの運営においては検証体制も重要な要素だ。ユーザーが月10万円以上支払うことも珍しくないスマホゲームだが、入手アイテムが確率によって決まるガチャの仕組み上、ユーザー側がガチャの不正を検証することは難しい。特に低排出率アイテムの排出率は5%以下のことが多く、「出ないのが普通」と言える。そのため、あからさまな不正でない限りガチャの操作をユーザー側が察知し、実証するのは困難だ。

この点について、CESAのガイドラインでは「有料ガチャの運営を担当する部門から独立した部門によって、ガチャの仕様の検証を行う」との規定がある。ただ、社外の機関による監査などはなく、ゲーム会社とユーザーの信頼関係で成立している状態だ。「だからこそ、ユーザーの了解を得ないガチャ操作は信頼関係を毀損する行為で、どのような形であっても越えてはいけない一線にあたる」と冒頭のゲーム会社幹部は話す。

別のゲーム会社社員は「プログラムの内容を見る限りは、これでグリーが儲けようとしたといった悪意は感じられない」と話す一方、「普通だったら実装時のチェックで弾かれる案件。なぜそれが1年以上も続いていたのか理解できない」と首をかしげる。

この点について、グリーは「当時の本ゲームの責任者(プロデューサー)が退職しているため、本プログラム導入時の社内資料等を調査した結果に基づき」と前置きした上で、本プログラムが導入されるきっかけになったのはガチャシステムの不具合だったと説明している。今年9月に起きたトラブル同様、当時から負荷がかかると不具合が発生するシステムだったようだ。

問題を発見できなかった審査部門

その中で「星3キャラが極端に重複して排出される」「星5のキャラが大量に排出される」という問い合わせがユーザーからあった。本来であれば不具合そのものが起きないようシステムを改修する必要があったが、本プログラムを導入することで解決を図った。これらは当時のプロデューサーの判断だったという。

本プログラムが長期にわたって動作し続けていた点については、グリーはCESAのガイドラインに準拠し、独立した品質管理・審査部門によってガチャの検証を行っていたが、問題を発見することができなかった。

というのも、審査部門では新規で開発されたガチャが検証の対象だったのに対し、本プログラムはあくまで「不具合の修正」としてゲーム開発部門内で処理されていた。そのため、開発部門から審査部門への審査依頼は行われず、プログラムの導入がゲーム内で告知されることもなかった。その結果、問題が見逃されていたという。

検証体制に不備があったのであれば、今回の件は「アナザーエデン」だけでなく、ゲーム事業全般に及ぶ話となる。グリーは子会社も含めた配信タイトルについてはすでに調査を行っており、問題と思われる事象は確認できなかったと回答。今後の対応については、すでにアナザーエデンのプログラムはすでに全面的な入れ替えを行ったほか、審査部門の業務フローを見直すといった再発防止策を全社的に検討しているとした。

一方で、本件について第三者委員会による調査など、追加調査については予定していないという。本プログラムに悪意があったか、景表法の問題があるかは別にして、ガチャ結果を操作していた今回の案件は結果として現在のガチャ運営体制に対する信頼を揺るがす話となった。第三者を介さず、あくまで自社内の調査と事後対応にとどめるのであれば、問題が発生した根本的な原因や詳細な再発防止策についてユーザーに十分な説明を行うことで「自浄能力」を示さなければならない。