2019年9月に閉店する伊勢丹府中店。1996年の開業初年度に売り上げがピークに達し、それ以来右肩下がりが続いていた(記者撮影)

三越伊勢丹ホールディングスは9月26日、不振店舗の伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、新潟三越(新潟県新潟市)の3店舗を閉店すると発表した。相模原店と府中店は2019年9月に、新潟三越は2020年3月に閉鎖する。

百貨店の都心店舗は訪日外国人や富裕層の需要に支えられ、売り上げが堅調に推移している。一方で、地方・郊外店は地元消費がさえないことに加え、ほかの商業施設との競争にさらされ、苦戦が続いている。今回の決断は、地方・郊外に構える百貨店の苦境を浮き彫りにしたといえそうだ。

売り上げピークは20年以上前

今回の3店舗閉鎖は、三越伊勢丹ホールディングスの社員には”寝耳に水”だったようだ。26日の発表から2週間ほど前には部長級以上の幹部には知らされていたが、外部に漏れないように「箝口令が敷かれていた」(業界関係者)という。実際、府中店のある販売員は「事前には何も知らされていなかった。発表当日に聞いて大変驚いた」と語る。

ただ、地元客は店舗閉鎖を冷静に受け止めているようだ。府中市在住の20歳代女性は「府中店は普段から客があまり入っていなかった。『いつ閉店するのか』と、数年前から地元では話題だった」と話す。新潟三越についても、「館前のタクシー乗り場がいつも閑散としていたので、新潟三越の閉店は時間の問題だと思っていた」(新潟市在住の50歳代男性)。

3店舗とも売り上げのピークは20年以上前の1996年度で、それ以降は低迷状態が続いていた。

相模原店は1990年に開店後、1993年に売り場を増床。その後も店舗運営の効率化を進めたが、赤字脱却には至らなかった。府中店は1996年に開店。初年度をピークに売り上げが右肩下がりで、赤字が恒常化していた。新潟三越は1936年に小林百貨店として開業後、1980年に新潟三越へと社名変更して営業。組織のスリム化などを図ったが、黒字化はかなわなかった。

3店舗閉鎖が象徴するように、三越伊勢丹ホールディングスはここ数年、不採算店の整理に力を注いできた。多角化路線と地方・郊外店の構造改革を突き進んだ大西洋・前社長時代には、2017年3月に三越千葉店と同多摩センター店を閉店。大西前社長が電撃辞任した後に2017年4月に就任した杉江俊彦社長も、今年3月に伊勢丹松戸店を店じまいした。

杉江社長は時を同じくして、経営全般の構造改革も断行。赤字を垂れ流していた高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」運営会社の株式66%を今年3月に売却したほか、アパレル子会社も同月に事業を終了した。さらに早期退職制度を拡充し、3年間で社員800〜1200人の退職を想定するリストラも実施している。

地方・郊外店は想定を超えた苦戦

矢継ぎ早のリストラがが功を奏し、三越伊勢丹ホールディングスは今2018年度の業績について、売上高1兆1950億円(前期比5.8%減)、営業利益290億円(同18.8%増)と、大幅増益を見込む。


新潟三越は長年苦戦が続き、2020年3月に閉店する(編集部撮影)

経営体質の改善が順調なことから、杉江社長は決算説明会など公の場で「店舗閉鎖は当面ない」、「構造改革の主なものは2017年度の段階で終えた」と、改革が一段落したことを強調していた。

にもかかわらず、なぜ今回3店舗の閉鎖を決断したのか。その理由としては、同社の想定以上に、地方・郊外店の販売状況が悪化していることが考えられる。

三越伊勢丹ホールディングスは今年度、相模原店については増収計画を描いていた。が、天候不順などが逆風となり、4〜8月までの累計で前年同期比3.3%減と低迷。府中店も同6.1%減と、回復の兆しをつかめていない。

新潟市の中心市街地である古町に唯一残る百貨店だった新潟三越も、売り上げ回復のメドが立たなかったようだ。新潟市では篠田昭市長の任期満了に伴う市長選が10月28日に行われる。篠田市長は市の中心部にBRT(バス高速輸送システム)を敷くなど地域活性化に熱心で、2017年には中央区役所が新潟三越の近隣に移転してきた。そうした追い風を生かすことができなかった。


閉店が発表された翌日、伊勢丹府中店は閑散としていた(記者撮影)

26日に行われた会見の席上、三越伊勢丹ホールディングスの白井俊徳取締役は3店閉鎖の背景として、次のように述べた。

「GMS(総合スーパー)やショッピングセンターといったほかの商業施設と差別化ができている伊勢丹新宿本店や三越銀座店などは、今後も百貨店として独立した経営ができる。だが、差別化できていないところほど売り上げの低下傾向が激しい」。

そのうえで、白井取締役は「(閉鎖する3店舗は)特に赤字の幅が大きく、今後投資をしても回収を見込めない」と説明した。投資に対する見返りがあるのか”経済合理性”を見極めたうえで、店舗閉鎖を結論づけたというわけだ。

旗艦店のテコ入れに注力

「自らの力では再生できないことを率直に認めたうえで、追加リストラに踏み切った。経営判断としては正しい」と、別の業界関係者は評価する。リストラ徹底の姿勢を見せた三越伊勢丹ホールディングスだが、今後はどのように成長戦略を描くのか。

ライバルのJ.フロント リテイリングや高島屋がテナントからの賃料収益を軸にした不動産事業を推進する一方で、三越伊勢丹ホールディングスは百貨店事業を再強化する構え。特に、百貨店が商品企画や品ぞろえを決める「自主編集売り場」を拡充していく方針だ。

段階的に改装を進めてきた日本橋三越本店では、第1期改装部分を10月24日にオープンする。化粧品・雑貨などの売り場を拡充するだけでなく、接客の専門家であるコンシェルジュを各階に設置。接客サービスに磨きをかけ、百貨店事業の売上拡大を目指すという方針だ。伊勢丹新宿本店も今年度から来年度にかけて、売り場改装を予定する。

200億円以上の投資をしてEC(ネット通販)事業を拡大する計画も打ち出すが、詳細は現時点では明らかにされていない。リストラによるコスト抑制だけではなく、再成長に向けた具体策の提示が求められる。