スイスに0-2の完敗を喫した後の記者会見で、「今のチームに危機感を感じているか?」と問われた指揮官は、こう答えている。
 
「なぜ、ネガティブにならないといけないのか。チームとしての危機感はまったく感じていない」
 
 監督就任後の2試合は、いずれも絶対にやってはいけない先制点をあっさりと与え、ゴールが生まれる予感さえ漂わせることなく、終始淡白なまま敗れた。だから逆に問いたい。「なぜ、ポジティブでいられるのか」と。
 
 それが一世一代の死んだふりなら、喜んで気付かないふりをしよう。けれど、あのサッカーに指揮官が本気で可能性を感じているとしたら──。
 
 8年前の岡田監督は、それまでのサッカーでは世界を相手に通用しないと、水中深く潜航しながら勝つための策を巡らせ、そしてギャンブルに打って出た。
 
 当時、解任キャンペーンの先陣を切った『週刊サッカーダイジェスト』には、岡田ジャパンのベスト16進出が決まると抗議の電話やメールが相次いだし、ネット上でもずいぶん叩かれたものだ。
 
「岡田監督に謝れ」
 
 サッカーのスタイル自体を大転換させての勝利だったのだから、それが理不尽な要求だと思う一方で、そんな風にして世の中に再びサッカー熱が湧き上がってきたことを、素直に嬉しくも感じていた。
 
 そう、西野監督と選手たちがこれから挑むのも、日本にサッカーの熱を取り戻すための戦いなのだ。ここで無抵抗のままグループリーグ敗退となれば、それこそ日本サッカー界は氷河期に突入しかねないだろう。
 どうか、それだけの大きな責任を背負っていることを、忘れないでほしい。
 
 彼らは今、命綱なしでタイトロープの上に立っている。
 きれいに渡り切ることなど、誰も期待していない。問われるのは、無様でも、ロープにしがみついてでも、崖の向こう側までたどり着いてみせようという覚悟だ。
 
 8年前のような起死回生の策を編み出せとは言わない。ただ、危機感や覚悟をチームに植え付けることは、残された時間でも十分にできるはずなのだ。
 
取材・文●吉田治良(スポーツライター)

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