オンキヨーが展開するAVアンプ。消費者向けAV機器は、創業以来70年以上の歴史を持つオンキヨーの屋台骨だ(写真:オンキヨー)

老舗の音響機器メーカー、オンキヨーが苦境から抜け出せずにいる。

当初の予定より2週間遅れで5月25日に発表された同社の2017年度業績は、最終損益が約34億円の赤字(前期は約7億円の赤字)。最終赤字を計上するのは5期連続となり、稼いだ利益の積立額である利益剰余金は103億円のマイナスだ。このペースでは、数年のうちに債務超過に陥る可能性がある。創業から70年超の老舗メーカーに、いったい何が起こっているのか。

「前々からうわさはあったが、ニュースを見て初めてギブソンの破たんを知った」。オンキヨー関係者は驚きを隠せない様子でこう語る。5月、名門ギターメーカーの米ギブソン・ブランズが米連邦破産法11条を申し立て、経営破たんしたのだ。その余波が、オンキヨーの大幅な業績悪化の一因となっている。

ギブソン破綻の打撃は小さくなかった

オンキヨーは、同業のティアックとともに2012年からギブソンと資本・業務提携しており、ギブソンが筆頭株主となった時期もあった。提携の目的は互いのブランド商品の相互供給などによる海外シェア拡大だったが、「思うようにシナジーが出せなかった」(オンキヨー)。

2014年に東京・八重洲に開いた3社共同のショールームも、2017年12月には閉店。ギブソンはここ1年のうちにオンキヨー株の売却を進め、現在の持ち株比率は0.01%未満まで低下している。幸か不幸か、ギブソン本体の破綻による直接的な影響はほとんどない。

ただ打撃はあった。


米ギブソン・ブランズの破綻により、提携関係にあったオンキヨーは間接的な打撃を受けた(撮影:谷川真紀子)

昨年の夏ごろからギブソン破綻懸念の報道が出始めたことで、ギブソンのヘッドホン開発・販売子会社と取引のある部品メーカーが警戒し、製品の供給が停滞。オンキヨーは同社にヘッドホンなどの開発・販売委託をしており、大きく販売量が落ちた。「1カ月の間、工場からの製品供給が止まったこともあった」(オンキヨー)。

音響機器の中で、高付加価値化が進むヘッドホンは好調な分野ゆえ、それを取りこぼしてしまったダメージは小さくない。そこで4月には、このギブソン子会社との契約を解消。新たな代理店としては、提携を発表した中国新興テレビメーカー、TCL集団の系列が候補に上がる。ただ、切り替えには半年ほどかかると見られ、収益貢献には時間がかかりそうだ。

一層深刻なのは、オンキヨーの売上高の約7割を占めるAV(オーディオ・ヴィジュアル)機器の縮小に歯止めがかからないことだ。

スピーカー、オーディオ、ホームシアターといった消費者向けAV機器は、創業以来70年以上の歴史を持つオンキヨーの屋台骨だ。オンキヨーは、戦後間もない1946年、松下電器産業(現パナソニック)出身の五代武氏が、輸入品に引けを取らない音質の国産オーディオを作るメーカーとして創業した。1957年には東芝の子会社となり(1993年に独立)、東芝ブランドのテレビ製造を手がけるなどして製品群を拡大。AV機器専業メーカーとしてのポジションを堅持してきた。

絶頂期は1980年代だった

会社が絶頂期を迎えたのは、若者の間で「ミニコンポ」ブームがわき起こった1980年代後半のこと。同社のミニコンポ「Radian」は、当時第一線で活躍していたアイドル、南野陽子を起用したテレビコマーシャルが話題を呼び、オンキヨーブランドをお茶の間に定着させた。

1990年から2000年代前半にかけて、CDの登場などでアナログ技術に強みがあった同業の赤井電機や山水電気が経営危機に陥ったが、オンキヨーはオーディオ機器からホームシアター関連の音響機器に軸足を移すことで、生き残りに成功した。


難局を一度は切り抜けたオンキヨーだが、2000年代半ばからのスマートフォンの普及による音楽鑑賞スタイルの変化にはあらがうことができなかった。消費者は音楽をスマホに直接ダウンロードして聞くようになり、据え置き型のAV機器の需要が急減したからだ。JEITA(電子情報技術産業協会)によれば、この10年間で国内の音響機器市場は6割ほど縮小した。

こうした市場環境への対応策として、オンキヨーは車載用スピーカーや音楽配信事業に乗り出す。また2015年には、“オーディオ御三家”の一角であるパイオニアの音響事業を買収。規模の拡大によるコスト削減などにより再起を図ったが、結局現在はパイオニアブランドの欧州での不振がかえって足かせになっている状況だ。

止まらない市場縮小に、追い打ちをかける形となったギブソンショック。そんな逆風の中でオンキヨーが推し進めている施策の1つが、OEM(相手先ブランドによる製造)事業の拡大だ。たとえば、2017年春から展開されているシャープ製の液晶テレビ「AQUOS 4K」の複数モデルにはオンキヨー製のスピーカーが内蔵されており、「Sound by Onkyo」の表記がある。

OEMビジネスで再起を狙う

TCL集団と手を組んだのも、同社が主力とするテレビや音声認識機能のあるIoT家電などにスピーカーやマイクなどを供給することが主目的だ。ただ、TCL集団は内製率を高めて価格を下げ、アマゾンでの格安販売で成長した企業であり、オンキヨーがこれまで重視してきた高付加価値戦略とは路線が違うのが懸念点。突きつけられる部品の調達価格も、そう甘くはないはずだ。


伝統あるブランドの訴求力に頼れなくなった今、オンキヨーはブランドの看板を隠しOEM事業へと軸足を移して音響技術での直球勝負に挑む。2018年度は前期に断行した国内子会社の整理で固定費が軽くなることもあり、最終黒字10億円の大逆転に望みをかけるが、減少し続けるAV機器の不振をカバーするのは容易ではない。音響機器市場の荒波を乗り越えてきたオンキヨーは、この窮地を脱することはできるのか。