2018年3月27日、参院予算委員会の証人喚問で答弁する佐川宣寿前国税庁長官(写真=時事通信フォト)

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財務省が森友学園との土地取引をめぐる決裁文書を改ざんした問題で、当時の理財局長だった佐川宣寿氏の証人喚問が開かれた。佐川氏は証言拒否を繰り返し、真相を語ることはなかった。だが安倍首相や昭恵夫人の関与については「影響はなかった」と自信たっぷりに否定した。なぜあそこまで断言できるのか。そこには「密約」があるのではないか――。

■約50回にも及んだ「証言拒否」の肩すかし

学校法人・森友学園に対する国有地売却に絡んで浮上した決裁文書(森友文書)の改ざん問題で、財務省理財局長だった佐川宣寿氏の証人喚問が3月27日、衆参両院で行われた。

だれがどう関わってどのように改ざんが実行されたのか。これを佐川氏がどこまで話すか。

この点が大きく注目されたが、肝心なところはすべて「告発、捜査を受けている身で、刑事訴追の恐れがある」と証言を拒否した。佐川氏の証言拒否は約50回にも及んだ。

証人喚問は参考人招致と違い、うその証言をすれば議院証言法で偽証の罪に問われる。だが捜査対象になっている人の場合は重要な証言を引き出すのは難しいともいわれる。

■あれほど明確に断言できる背景はなにか

それでもロッキード事件などの過去の疑獄事件では偽証罪で告発され、有罪判決を受けた人も多い。

沙鴎一歩も30年ほど前、新聞記者のひとりとしてリクルート事件の江副浩正氏(リクルート社の創設者)らに対する証人喚問の取材を重ねた経験があるが、あの時代に比べ、証人喚問自体に緊張感がないように思える。

今後、議院証言法を改正するなどして証言を拒否できる範囲を明確にして狭め、国政調査権を有効に使いながら真相を解明できるようにしていく必要がある。それができてこそ、国民の国会だ。

それにしても今回の佐川氏は土地取引や改ざんに「首相官邸の関与はなかった」と断言する。あれほど明確に断言できる背景には、安倍晋三首相や官邸周辺との間にある何かあるような気がしてならない。

■首相とその周辺の「指示」だけは明確に否定

27日の午前中に参院予算委員会で行われた証人喚問では、佐川氏は冒頭から自身が捜査の対象になっていることを強調し、証言を拒否した。

まず自民党の丸川珠代参院議員が改ざんについて「安倍首相の指示があったのか」などと質問すると、佐川氏は「ございませんでした」とはっきりと否定した。

さらに首相の妻の昭恵氏や首相秘書官、菅義偉官房長、麻生太郎財務相らからの指示についても全否定した。

森友学園への国有地売却も安倍首相や昭恵氏からの指示の有無について「総理や総理夫人の影響があったとは、私は全く考えていません」と否定した。

■佐川氏はうそをつくときほど断定口調になる

なぜこれほどはっきり答えられるのか。

どの新聞もまだ触れてはいないが、安倍首相あるいはその周辺との間に「指示を明確に否定してくれれば、身の保証はしてやる。地検の捜査もつぶしてあげよう」といった約束があるのだろう。そんな「密約」がなければ、あそこまで断言できないはずである。

あの妙に自信たっぷりな佐川氏の表情をテレビで見て「この人は何かを隠している」と感じた人も多いと思う。

しかも佐川氏のこれまでの国会答弁を考えると、うそをつくときほど彼の言葉は断定口調になる。

たとえば昨年2月の衆院予算委員会での答弁。理財局長だった佐川氏は「森友学園との交渉記録は破棄した」と断定口調で答弁していた。このくだりは今年2月9日付のこの連載(「産経も大批判する国税庁長官の"虚偽答弁"」)でも取り上げた。

■自ら進んで「トカゲのしっぽ」になる役人根性

復習しておく。

財務省が国会に提出した調査結果によると、昨年2月下旬から4月にかけて5つの決裁文書が改ざんされ、その改ざんに関連してさらに9文書も書き換えられていた。結局、その数は計14文書、300カ所以上にも上った。

財務省は安倍政権が大きな政局に立たされたことで、この改ざんを認めざるを得なくなった。

そして佐川氏を改ざんの最終責任者とまつりあげ、「関与の度合いは大きく、改ざんを知っていた」として佐川氏をトカゲのしっぽ切りのように扱ってきた。証人喚問では佐川氏自らが進んでトカゲのしっぽになったように見えた。

■「問題の深さを印象づけた」と朝日

3月28日付の新聞各紙の社説はこぞって佐川氏の証人喚問を取り上げている。

森友文書の改ざん問題を最初に報じた朝日新聞の社説は「膨らむ疑問、募る不信」と見出しを付け、「疑問だらけに終わった佐川氏の喚問は、問題の深さをいっそう印象づけた」と指摘する。

前述した沙鴎一歩の感想と同じではあるが、新聞の社説としてもう一歩踏み込んでほしいと思いながら読み進むと、朝日社説はこう主張する。

「失われた政治と行政の信頼を取り戻すには、二つの疑問を徹底的に解明する必要がある」

■首相夫人の証人喚問もあり得る

2つの疑問とは何か。ひとつは「首相や昭恵氏の名前を決裁文書からなぜ削ったのか」、もうひとつは「学園に破格の安値で国有地を売却したのはなぜなのか」である。

最後に朝日社説は「佐川氏の喚問は第一歩にすぎない。前任の理財局長だった迫田英典氏や昭恵氏、昭恵氏と財務省を仲介した政府職員らの国会招致は欠かせない」と主張する。

さすがに「昭恵氏を証人喚問せよ」とまで書けないから国会招致にとどめたのだろうが、安倍政権が今後の対処を誤ると、首相の妻を証人喚問するという前代未聞の異常事態も起きかねない。

■読売はやはり「安倍政権擁護」だ

対する読売新聞の社説も「改ざんの核心に迫れなかった」という見出しを掲げ、「改ざんの指示の有無や背景など核心部分の究明にはつながらなかった。事実の解明と再発防止に向け、与野党には建設的な対応が求められる」と主張する。

佐川氏に対しては「学園との交渉経緯を記した決裁文書が既に明らかになっている。事実と異なる答弁で国会を冒涜した佐川氏の責任は大きい」と批判する。

この辺りまではいいのだが、鼻につくところもある。

ひとつは「安倍首相や菅官房長官、麻生財務相らの指示はなかったと証言し、『理財局の中で対応した』と強調した。理財局独自の処理であると明確にした発言は重い」という部分だ。

今回の改ざん問題をトカゲのしっぽ切りで終わらせて幕引きにしようとする安倍政権を持ち上げる書き方だ。これでは安倍政権擁護の新聞とたたかれても仕方がない。

さらに「野党は昭恵氏らの証人喚問を求めている。昭恵氏が学園の教育方針や背景を十分に調べず、名誉校長就任に応じたのは軽率だったと言わざるを得ない。詐欺罪などで起訴された籠池泰典・前学園理事長に利用された側面があろう」と書いたうえで、こう主張する。

「昭恵氏が国有地の取引に直接関与した事実は出ていない。問題を整理する必要がある」

この書き方も納得できない。昭恵氏が小学校の名誉校長に付くことを引き受けたという事実は、直接関与したことにはならないのだろうか。読売社説は安倍政権寄りである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)