価格競争が激化するウインナソーセージ。看板商品なだけに、各社とも販促に力が入っている(撮影:梅谷秀司)

ハム・ソーセージ業界でウインナソーセージをはじめとした価格競争が激化している。日本ハムや伊藤ハム米久ホールディングスなど業界大手の値引き攻勢に対し、下位メーカーからは「いいかげんにしてほしい」との悲鳴が上がる。業界アナリストからは「原材料費や労務費などのコストが増大しており、業界として価格競争を続ける余裕はない」との指摘もなされる状況だ。


まず、食料品の中でソーセージの価格がどれだけ下がっているかを、政府が発表している消費者物価指数で確認してみよう。過去2年ほど、食料品全体の物価は年率約3%と大幅に上昇している。天候不順で不作の生鮮野菜や不漁続きの魚介類の価格高騰をはじめ、飼料用米への転作増大で主食用の供給が減ったコメの値上がりが影響している。

一方、ソーセージの価格は過去2年間、右肩下がりで推移している。全国平均で年率2%程度の値下がりだが、東京都区部では3〜4%と下落率が大きい。大消費地でより苛烈な価格競争の展開されている様子が想像できる。こうした傾向はハム、ベーコンなどを含めた加工肉全体でも同じだ。消費者物価指数で調査対象となっている食料の品目の中で、これほど価格が下落しているものは少ない(調理ピザパイの下落も目立つが、これも主要メーカーは食肉加工業界)。

ウインナのブランドは各社の”代名詞”

スーパーの売り場で特に目立つのが、ウインナソーセージの廉売合戦だ。ウインナはソーセージ(ひき肉の腸詰めの総称)の中でも、羊腸または20mm未満の太さのケーシング(詰め袋)に詰めたものをいうが、業界各社の最重点商品であり、そのブランドが各社の代名詞にもなっている。

代表的ブランドとしては、日本ハムの「シャウエッセン」(1袋127g×2)、伊藤ハムの「The GRAND アルトバイエルン」(127g×2)、プリマハムの「香薫あらびきポーク」(90g×2)、丸大食品の「燻製屋熟成あらびきポークウインナー」(85g×2)、フードリエの「パリッと朝食ウインナー」(230g)などがある。テープで2袋が束にされ、売り場の陳列棚に山積みになっている場合が多い。

全国のスーパーマーケットにおける各社主力ブランドの平均販売単価の推移(調査会社True Dataの集計)を見ると、高価格帯にある2商品、特に「アルトバイエルン」の値下がりが目立つ。2年前には2袋400円程度だったのが、最近は360円を割ってきている。高価格帯の商品は「香薫」など中価格帯の商品よりも内容量が多いため、グラム単価が店や日によって逆転する現象も起きている。


一方、2袋200円台後半の中価格帯商品のうち、「香薫」や「燻製屋」の価格は比較的安定しているが、2017年2月に日本ハムが発売した「豊潤あらびきウインナー」(90g×2)は値下がりが顕著だ。

商品の価格は基本的にスーパーなどの小売り側が決める。ただ、メーカー側は一定期間の仕入れ実績に比例したリベート(販売奨励金)や、仕入れ条件を満たした際の達成リベート、あるいは特売の協賛金などを小売り側に支払うことで値引き原資を提供している。つまり、店頭価格にはリベートなどを通じてメーカー側の価格戦略が間接的に反映されることが多い。

プリマハム「香薫」の躍進

日本ハム、伊藤ハムの安値攻勢は、とりわけ近年シェアを急拡大したプリマハムの「香薫」を意識したものだ。


各ブランドの1店当たり売上金額の推移を見ると「シャウエッセン」の1位は揺るがないが、「アルトバイエルン」と「香薫」が2位争いで抜きつ抜かれつの大接戦を演じているのがわかる。売上点数ベースでは完全に「香薫」が2位の座を確立している。伊藤ハムは値下げを駆使して何とかシェア挽回を図っている格好だ。

日本ハムの「豊潤」は、「香薫」の対抗商品として価格帯を合わせて投入されたが、いま一つ伸びに欠ける。当初、社内で心配された「シャウエッセン」とのカニバリゼーション(売り上げの奪い合い)はほぼ杞憂だったものの、「香薫」に対抗するという本来の目標にはまだ遠い状況。そのため、価格面で刺激してブランド認知度向上を図っているように思われる。

「香薫」はすでに発売15周年を迎えているが、ここ数年の伸びは著しい。プリマハムによると、「香薫」の販売数量の前年比増加率は2014年度が27%、2015年度が13%、2016年度が25%で、今2017年度も約30%を見込む。ウインナの国内市場自体が過去4年で7%近く拡大しているとはいえ、その伸びをはるかに上回るものだ。

好調の要因としては、「桜スモークの薫り」を特長とした味や手頃な価格への人気もさることながら、ここ数年、テレビCMや販売キャンペーンを積極化した効果もある。キャンペーンの中でも、同社が公式スポンサーに名を連ねる東京ディズニーリゾートの貸し切り招待の懸賞は最大の目玉。同じくスポンサーを務めるレゴランド・ジャパンのほか、なんばグランド花月やハウステンボスへ招待するキャンペーンも展開する。

また、LINEの無料スタンプ配信は若い消費者からの認知度向上に貢献。発売15周年の昨年4〜5月には「香薫」の10%増量キャンペーンを実施し、前年同期比約5割の伸びを記録した。同社の営業担当幹部は「若い主婦層が『香薫』のヘビーユーザーになってくれた」と販促効果を喜ぶ。

「香薫」ブランドに一点集中

需要増に合わせて生産面でも効率化と能力向上が進められた。2016年8月には茨城工場で最新鋭のウインナプラントが竣工。生産能力は1.5倍の月産1800tとなり、電力使用量削減などエネルギー効率も高まった。新プラント完成を記念して「香薫」のジッパー付き大袋を発売、大家族向けなど一定の需要をつかんでいる。


「香薫」を生産する茨城工場。最新鋭の設備で生産効率が高まった(写真:プリマハム)

プリマハムはウインナではほぼ「香薫」ブランド一点に集中する戦略。一方で他社は高・中・低価格帯で幅広い商品群を抱える。ライバル会社の関係者は「当社はハムやピザなどを含め品ぞろえが豊富だが、営業マンの数はさほど変わらず、リソース(経営資源)が分散されている」(伊藤ハム関係者)、「プリマは香薫一点に絞り、大ロットで効率が上がっている。当社は全方向でやっているので、一つひとつのブランドへの対応が不十分」(日本ハム関係者)と、反省も込めて「香薫」の強みを指摘する。

価格競争はどこまで進むのか。伊藤ハムの幹部は「ウインナはいわば会社の顔。シェアを守るためには、今後も価格競争はやむをえない」と話す。日本ハムの関係者も「顧客の節約志向もあり、まだまだ続く。体力勝負になるだろう」と言う。


価格競争は各社の収益性を確実にむしばんでいる。経費面でも原材料高や労務費増が響いており、今期は大手各社がそろって減益になる見通しだ。

業界最大手の日本ハムは年間の営業利益の約9割を食肉事業で稼いでおり、ソーセージなど加工食品の価格競争の影響は相対的に小さい。ただ、加工食品事業のテコ入れのため、品種の絞り込みや価格競争に抵抗力のある新ジャンルの開拓を模索中だ。

業界2位の伊藤ハム米久は、食肉事業に比べて加工食品事業の利益率が比較的高い。2016年4月の伊藤ハムと米久の経営統合に伴い、共同調達や相互販売などを通じたシナジー効果を見込むが、ウインナなどの価格競争とコスト上昇がその効果を打ち消してしまっている。プリマハムも「香薫」が好調とはいえ、実は今期減益だ。新工場投資に伴う減価償却費の増大に加え、積極的な販促キャンペーンを続けてきたことで、コストは確実にかさんでいる。

体力勝負で苦戦が続く丸大食品

より厳しいのが業界4位の丸大食品だ。同社幹部は「値段の安いスーパーのプライベートブランド拡大も、メーカーのナショナルブランドの価格を下に引っ張っている」と言う。「燻製屋」の増量キャンペーンや味のリニューアルでシェア維持を図るが、体力勝負となると苦戦は避けられない。

西日本地盤の福留ハムは4割近い営業減益が続く。「大手とは原料の調達力からして違うので、立ち向かうのは難しい。それにしても大手の安売りは、やりすぎではないか」。幹部の1人はそう漏らす。一方、栃木本社の滝沢ハムは2期連続の増益計画と堅調。ハム・ソーセージは伸び悩むものの、高付加価値のローストビーフや生ハムのほか、ハンバーグなどの総菜が好調で、価格競争の荒波に対してうまく身をかわしている格好だ。

今後の注目点は、独り勝ちともいわれた「香薫」の持続力。他社の反撃により足元では勢いにやや陰りがあるとも指摘され始めた。伊藤ハムは3月から「香薫」と同じ中価格帯で新製品を投入し、既存の中価格帯品との一本化を視野にテコ入れを図る。こうした包囲網が一段と強化されれば、「香薫」も影響は免れないだろう。ただ、それで業界の熾烈な消耗戦が沈静化するかというと、確たる保証はない。