パドレス入団の報告会見を行った牧田和久【写真:上岡真里江】

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先発、中継ぎ、抑えとフル回転、メジャー挑戦の牧田は西武に感謝

「サンディエゴ・パドレスと、無事に契約することができましたことを、ここにご報告いたします」

 10日に記者会見を行い、ポスティングシステム(入札制度)を利用して米パドレスへの移籍決定を報告した牧田和久投手の表情は、清々しかった。「自分がここまでやれたのは、一人の力ではない。監督・コーチ、チームメート、スタッフ、裏方さん、ファン、いろんな人に支えられてここまで来たと思っています。本当にいい出会いでした。感謝しかありません」と、2011年から過ごした西武への思いを口にした。

 1年目から先発、抑え、中継ぎとフル稼働し、55試合登板、10試合先発、5勝0敗22セーブ、防御率2.61で新人王に輝いた。2年目には先発ローテーションの柱として27試合に登板し、13勝9敗とチームの勝ち頭となった。3年目の2013年には初の開幕投手を経験。16年からは中継ぎに専念し、ワンポイントから回またぎ、ロングまで圧巻の対応力を披露し、西武の中継ぎエースとして絶対的地位を確立した。また、第3回、4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、第1回WBSCプレミア12では日本代表として国際大会に参加。プロ7年間で実績と自信を着実に積み上げていく中で、徐々にメジャーリーグへの思いを募らせていった。

 メジャー挑戦を決定づけたのが、昨年3月に行われた第4回WBCでのオランダ戦だったという。「(アンドレルトン・)シモンズ選手や(ザンダー・)ボガーツ選手、(ジュリクソン・)プロファー選手などと対戦して、そこで凡打を取れたことで『(メジャーでも)できるんじゃないかな』と思いました」。そして2018年1月6日、念願叶い、ついに門戸は開かれた。

 アンダースローという珍しい投球スタイルでの大リーグ挑戦に、報道陣から「怖さや不安は?」と問われると、「怖さは全くないですね」と、きっぱり。さらに「逆に“強み”という気持ちが一番かなと。アンダースローは誰にもできない。自分の代わりはいないと思っている。だからこそ、自分の持っているものを出し切るだけ。壁にぶち当たったら、また新たな目標を見つけて、またどんどん成長していけたらなと思います」と続けた。

努力と創意工夫に裏打ちされた揺るぎなき信念

 自らを“唯一無二の存在”だと言い切れる。その揺るぎなき信念こそ、牧田和久が成功してきた所以であり、最大の魅力と言えるだろう。もちろん、それだけの自信を確立するためには、相応の努力と創意工夫をしたという裏付けにあるからに他ならない。タイミングを同じくしてメジャーに移籍する大谷翔平投手の日本人最速165キロと比べても明らかな通り、牧田の直球は球速130キロ前後(最速137キロ)と、速くはない。だが、だからこそ変化球を織り交ぜ、緩急をいかに上手く使ってタイミングを外すか。また、それだけにとどまらず、テンポやリズム、さらには捕手から出されるサインへの反応など、相手打者の心理を揺さぶるために細かな要素も最大限駆使し、駆け引きに勝つ方法を常に考え続けてきた。

 そして、勝ち続けてきた。牧田は言う。

「みなさんには、簡単に抑えているように見えると思いますが、投げている僕にしたら、必死なんです」

 簡単に3者凡退に打ち取り、涼しい顔でマウンドを降りる姿は、西武ファンにはおなじみだ。時には、わずか1球でその日の役割を果たすこともある。それでも、その1球1球には、全身全霊の思考と熟練の投球術が込められている。その上で、結果を出してきたというプライドがあるからこそ、誰よりも己を強く信じられるのだ。

 先発、中継ぎ、抑え、シーズン中の配置転換、調子の良い時、悪い時……いついかなる時でも、牧田の言葉は7年間、一貫して変わらなかった。

「ただ自分は、マウンドで自分のピッチングをしているだけ。大事なのは、自分がどれだけ自分の球を投げられるか。先発、中継ぎ、抑え、どこだろうが、やるべきことは変わらない。自分の持っているもの以上の力なんて出せないですから」

 そして、パドレス牧田となって思い描く自分像も決して変わることはない。「あくまでも自分のプレースタイルは変えずにやりたい。自分の持っている以上のものは出せないと思うので、持っているものを最大限出していければと思います」。

「アンダースローじゃなかったら、たぶん自分はここにはいない」と胸を張れる希少な武器を引っ提げ、間もなく渡米する。現地メディアではリリーバーとしての起用が報じられる中、これまで具体的な目標は掲げてこなかった牧田が、「60試合、70試合までいけたら十分だと思いますが、数多く投げられたら」と珍しく数字を口にした。「全くわからないことが多い」という言葉も生活も違う新たな環境に戸惑うことは覚悟の上。その中でこれまで貫いてきた常套句が通用するかが、成功を量る1つのバロメーターとなるのではないだろうか。

「どこで投げようが、自分のピッチングをするだけですから」

 サンディエゴからも、淡々とした牧田節が聞けることを楽しみにしている。(上岡真里江 / Marie Kamioka)