生きづらさを抱える彼ら、彼女たちのリアルに迫ります(撮影:今井 康一)

独特なこだわりを持っていたりコミュニケーションに問題があったりするASD(自閉症スペクトラム障害/アスペルガー症候群)、多動で落ち着きのないADHD(注意欠陥・多動性障害)、知的な遅れがないのに読み書きや計算が困難なLD(学習障害)、これらを発達障害と呼ぶ。
今までは単なる「ちょっと変わった人」と思われてきた発達障害だが、脳の病気であることが少しずつ認知され始めた。子どもの頃に親が気づいて病院を受診させるケースもあるが、最近では大人になって発達障害であることに気づく人も多い。
そんな発達障害により生きづらさを抱えている人のリアルに迫る本連載。第1回はADHDと診断された福島県在住の横山匠さん(23歳・仮名・コンビニアルバイト)に話を聞いた。

思ったことをすぐ口に出し、人間関係が悪化


横山さんが症状に気づいたのは、高校中退後に働き始めてからだった。

農業高校に通っていたが、福島で原発事故が起きたことが原因で農業の勉強を続けられなくなり、クラスメートたちと一緒に学校を中退した。その後は高校在籍時からアルバイトをしていたコンビニで本格的に働き始めた。

そこで事件は起こった。

「パートの女性に仕事を指示された際、つい『うるせぇババア! 言われなくてもわかってんだよ!』と、心の声を口にしてしまったんです。それも1度ではなく険悪なムードになり、反省して謝って和解をするということが何度かありました」(横山さん)

悪意を持って暴言を吐くわけではなく、ナチュラルにあおってしまう。なぜ、相手の気持ちを考えられずに思ったことをすぐ口に出してしまうのか。悩んだ横山さんは親に相談する。すると、幼い頃に親が異変に気づき病院を受診し、ADHDの診断が下りていたことを知った。ADHDであることを何も知らされていなかった横山さん。18歳にして初めて、自分の生きづらさの原因がわかった。

「自分がADHDだと知ったときはつらかったです。でも、原因がわかったなら病気と向き合っていこうと病気についてネットで調べたり、自分と同じようにADHDに悩む人と話をしたりしました」(横山さん)

その後、東京にあこがれて上京。麻雀が趣味であったことから都内の雀荘で働き始めた。雀荘は客との距離が近い。麻雀の勉強を重ねて強くなった横山さんはここでも、客に向かって「下手くそ!」と暴言を吐いてケンカになり、上司から怒られることが多々あった。

職場でトラブルを起こしてしまうのは困る。そう思ってメンタルクリニックを受診する。そこで処方されたストラテラという薬により、思ったことをすぐ口に出してしまうような攻撃的な症状は落ち着いたように見えた。

「症状は落ち着いたのですが、薬の副作用で眠くなっちゃって。しかも、ジェネリックがないので高いんです。2週間分で1万5000円くらい。2週間に1度の診療にも2万円ほどかかってしまい、経済的にもつらくて薬も通院もやめてしまいました」(横山さん)

いけないとわかっているのに

また、横山さんはギャンブル依存症だと自覚している。「BMC Psychiatry」に掲載されているMartin A. Katzman、Timothy S. Bilkey、Pratap R. Chokka、Angelo Fallu、Larry J Klassenらによるイギリスの論文「Adult ADHD and comorbid disorders: clinical implications of a dimensional approach」(大人のADHDと併存疾患:次元的アプローチの臨床的意義)によると、「ADHD患者による物質乱用や依存症は正常な人の約2倍」とある。

「ギャンブルは強いほうなので、たいてい勝つんです。でも、負けることもあります。この5万円を使ってしまったら今月ご飯が食べられなくなるとわかっていても、競馬にぶち込んでしまうこともありました。

おカネはあるだけ使ってしまうので、貯金はできません。当時の職場の雀荘は給料の前借りができました。だから、負けておカネがなくなってしまったら給料を前借りして、それをまたギャンブルにつぎ込んでいました」(横山さん)

もう1つ、横山さんが依存していたのが性だった。セックスをしたくてしたくてたまらない。中学の頃、当時好きだった女の子と体の関係を持って以降、性欲が暴走しているという。まだ23歳という年齢を考えると、頭の中がそのことでいっぱいになってしまうのは自然なことかもしれないが、横山さんはあふれる性欲を風俗で満たす方法をとった。でも、風俗もそれなりにおカネがかかる。

ギャンブルとセックスに依存していた横山さんだが、あるとき競馬で100万円近く負けてしまう。また、なんとかセックスにこぎ着けたいと50万円ほど貢いだキャバクラ嬢からも、一度も肉体関係を持てぬまま関係を絶たれてしまった。

この経験からさすがに懲りて、ギャンブルをするなら1回1000円や2000円など少額で、性欲は1日3回の自慰行為で解消することで落ち着いている。ただ、女性とセックスがしたいという根本的な欲は解消されていないのが悩みだという。

仕事中は必要最低限の会話のみにとどめる

東京で働いていた雀荘では、最初は契約社員からスタートして正社員となったが、残業代の未払いに耐えきれず退職。昨年、地元の福島に戻ってきた。現在は祖父母の家に身を寄せ、コンビニで働いている。今は治療を行っていないというが、働くうえで困っていることはないのだろうか。

「ADHDの特徴の1つに落ち着きのなさが挙げられますが、僕の場合、その落ち着きのなさはコンビニや雀荘といった、せわしなく動き回ったり、つど細かな仕事が発生したりする職に生かせていると思います。そして、これはネットで調べたり、ほかのADHDの患者さんと話したりした際にわかったのですが、この病気の人たちって、深夜から午前中にかけて睡眠を取る、やや昼夜逆転ぎみの生活サイクルがいちばん体調のよい人が多いみたいなんです」(横山さん)

横山さんも深夜2〜3時に寝て朝は10時ごろに起きる。正午から8時間、または14時から8時間のシフトで働く。雀荘で働いていた頃は夜勤があったが、今の仕事では夜勤を入れない。

「思ったことをすぐ口に出してしまわないよう、仕事中は必要最低限の会話におさめるよう心掛けています。でも、どう見ても未成年がたばこを買いに来て、『年齢が確認できるものを見せてください』と言っても、『は? そんなもんねぇよ』と見せてくれないときは、きっぱり『ダメだろ!』とかは言っちゃいますけどね(笑)」(横山さん)

以前はギャンブルや風俗でおカネを使ってしまい、貯金ができなかった横山さんだが、現在は夢に向けて貯金中だ。

「お酒が好きなので、みんなで楽しく飲めるようなスポーツバーを友達と開きたくて、おカネを貯めているところです。僕はまたお客さんとケンカしちゃうかもしれないので、経営側にまわり、店にはほかの人に立ってもらおうかなと。

今は祖父母の家に住んでいて家賃が必要ないので、その分貯められそうだなと思っています。あと、お酒を覚えてからシメのラーメンにハマり、30kgほど太ってしまったので、とりあえずやせようと縄跳びとウォーキングを頑張っているところです」

そのときの衝動で行動してしまう症状を抑えるため、横山さんは工夫と努力を重ねている。まずは、このままうまく病気と向き合いながら、貯金と減量が成功するのを願いたい。