今季限りで現役を引退した井口資仁氏が、千葉ロッテマリーンズ新監督に就任した。16日放送、NHK「アスリートの魂」は、その井口監督が現役最後の一年に懸けた想いを密着取材で特集した。

「辞めたときに来られないのが一番悲しいかも」という沖縄での1月の自主トレ。井口は2週間にわたり、1日8時間、若手と同じメニューをすべてこなした。徹底的に自らを追い込んだ彼が、2月のチームキャンプからこだわってきたのが、右方向への強い打球だ。

7年前に右手中指の関節が原因不明の炎症を起こして以降、ここ数年の井口は最大の持ち味だった右方向の長打が減っていた。現役最後のシーズン、井口は自分のバッティングを取り戻し、チームを優勝に導こうと決意していたのだ。

だが、チームは序盤から不振にあえぎ、最下位と低迷。井口は「長いようで短かったな」「明日なんだな」などと海で1時間ほど座って考え事をした翌日、今季限りでの引退を公表。会見で引退発表を起爆剤にしたいとチームを鼓舞した。

ドラフト1位でダイエー(当時)に入団した井口は、満塁ホームランという輝かしいデビューを飾ったが、以降は本塁打を意識しすぎて不振の日々を経験した。悩んでいたときに救いの手を伸ばしたのが、王貞治監督(当時)だ。打席でのタイミングの取り方についてコツを伝授され、恩師と試行錯誤を繰り返した井口は、自然と右方向への強い打球を増やしていった。

9月、井口は引退試合に向けて2軍で調整し、連日居残りでバットを振り続けた。「最後にあれがやっぱり井口の打球だったと思ってもらって終わりたい」。プロ生活21年で貫いてきた右方向へ強い打球を取り戻すためだ。

そして迎えた引退試合、「一日も後悔しないで今日を迎えられたのは達成感」と、充実した表情でスタジアムに向かった井口は、9回裏に見事、チームを同点に導く右中間への本塁打を放つ。チームもサヨナラ勝利で応え、現役最後の試合は最高の形で幕を閉じた。

「できるもんですね、びっくりしました」と驚きつつ、「本当に悔いがない」「これできっぱり辞められる」と調整の結果が出たことを喜んだ井口は、試合後に「まだまだやれるってところで辞めたいと思っていたので、まだまだやれるところを見せられてよかった」と笑顔を見せた。

2日後、引退を報告しに訪ねてきた井口を、王貞治氏は拍手を送りながら「最後の最後まですごい」と愛弟子をねぎらった。