実在の主人公(享年46歳)よりも10歳近くお年を召しているトムですが、なかば強引な”若見せ”はまだまだ通用しそうです/©Universal Pictures

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地面&海面スレスレで超低空飛行したり、機体を急降下させたり、すべての飛行シーンをプロ級の操縦技術を持つトム・クルーズがこなしている!これを知らないと楽しさ半減の「バリー・シール/アメリカをはめた男」。監督のダグ・リーマンとトムは、金持ちあるあるということで、プライべートでも飛行機遊びが趣味。2人は家事分担表まで作って脚本家と共同生活を送ったり、トムが自身のフライトで現地入りしたコロンビアロケではキャンプをして夜を明かしたりと、必要な事からそうでもない事まで力を注ぎすぎ!トムの”尻出しサービス”なんかもあって、心底楽しんで作ったハイな雰囲気がスクリーンから伝わってきます。

【写真を見る】当初は疑念を持つも、常軌を逸していくゴージャス生活にあっさり順応する、ゲンキンな愛妻ルーシー(サラ・ライト・オルセン)。シール夫妻は深い愛で結ばれています/©Universal Pictures

「トップガン」から約30年、今度は極悪パイロット役で空を舞うトムの姿が感慨深いですねぇ。一生安泰のスーパースターが、55歳の初老の肉体にムチ打って命の危険を冒してます。「ミッション・インポッシブル」第6弾の撮影中の8月に、ビルからビルへ飛び移るシーンで壁に激突し骨折した時も「今の撮れた?」なんてコメントしちゃうトム。頭も打っちゃったのかと心配になりましたよ…。私、「ミッション〜」の第4弾「〜ゴースト・プロトコル」で、007のピアース・ブロスナンに迫る低速激走を観て「ちゃんと走れっ、老いぼれ!」なんて暴言を吐いた記憶があります。ですが、その気骨に打たれ、キレの悪ささえも尊敬してしまうこの頃です。

そんなトムが演じるのは、1970〜80年代に暗躍した、アメリカの黒歴史と言われる実在のパイロット。CIA、麻薬王、果てはホワイトハウスに雇われ、アメリカ大陸を股にかけた武器&麻薬の密輸ビジネスで莫大な富を築いたクレイジー極まる人生を描きます。悪人を演じても、どうにも溢れ出てしまうトムの”いい人オーラ”が、妻子思いで犯罪行為への自覚も薄かったという主人公の天然ぶりにほどよくマッチ!

1978年、大手航空会社のパイロット・バリー(トム)は、天才的技能を見込まれ、CIAのシェイファー(ドーナル・グリーソン)にスカウトされます。時速500kmで飛べる最新鋭の小型飛行機を差し出され「やるよ!」、グアテマラなどでの偵察写真撮影を請け負います。その流れで、コロンビアで出会った麻薬カルテルからは、コカインをアメリカへ密輸する犯罪ビジネスのお誘いが。1kmの飛行につき2000ドルという破格の報酬に目がくらみ「…やるよ!(断ると殺されそうだし)」。お次は、広大な飛行場付き一軒家の提供と引き換えに、シェイファーからニカラグアへの武器輸送を命じられ「……やるよ!(いまさら足洗えないっすよね)」。パイロットを増員し運び屋稼業を拡張、億万長者となり栄華を極める中、FBIほか多数の捜査機関に追い詰められるバリー。その騒動にまさかの介入をしたホワイトハウスによる新たな任務が、彼にもたらす運命とは…!?

主人公のジェットコースター人生が破天荒すぎるし、ポップな演出で笑えるしで、ハリウッドの派手な創作ものと錯覚しそうですが、本作はまぎれもない”実録”で、社会派の味わいすらあります。バリーがその政権のスキャンダルに大きく関わったと言われるロナルド・レーガンのコメントやら、よく見つけて来たなー、という細かいアーカイブが映画のひと場面のようにリンク。イラン・コントラ事件や悪名高き麻薬王パブロ・エスコバルとの絡みなど、歴史の舞台裏に釘付けにさせます。そっくりの役者さんが演じる若き日のジョージ・W・ブッシュ(本当に瓜二つでビックリ!)とトムの2ショットという絵面のおもしろさなど、ニヤリとさせる仕込みも満載です。

しかし、1回のフライトでギャラ数億円って!洗浄必須マネーとはいえ、うらやましすぎます。で、いわゆるタンス預金でしょうかね、バリーは自宅にあふれる札束を持て余し、土に埋めたりもして、うんざり口調でボヤきます。「札束の隠し場所がない!」と…。2017年の「心に残るセリフ」、暫定1位です。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「バリー・シール〜」で主人公のダメダメな義弟を演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズ!