夏になると必ず耳にするのが「熱中症」で搬送されたというニュース。その対策として、水分を摂ってさえいればよいのかというと、どうやらそれだけでは不十分のようです。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では、著者で科学者のくられさんが、熱中症のメカニズムと対策について詳しく解説しています。

科学者が語る、体温の調整と熱中症

まだまだ暑い日が続きます。熱中症にはお気を付けて……というのはお天気ニュースの常套句ですが、この熱中症とは何が起こってるのか、それを知っていると知っていないでは、危機感が全然変わります。

例えば気温50度のサウナに30分いるのと、気温37度の部屋で扇風機にあたってゴロゴロ数時間。これがどちらが熱中症の危険があるかというと、後者で、しかも死にかねない状況です。

ご存じの通り、人間は恒温動物で、生涯体温を36ー39度という極めて狭い範囲で温度管理することで生きているわけですが、これは深部体温であり、この深部体温というものが上がりすぎたり下がりすぎたりしてしまったとき、人間の生命活動自体がダウンしかねない危機的状況になるわけです。深部体温というのは人間の生命活動を支える臓器や中枢神経の温度です(核心部という)。

例えば寒冷環境に行くと、末梢の体温(外郭部という)は30度前後まで下がります。それは体内がいつものように血液を循環させて熱をくまなく配っていくと深部体温まで低下させて臓器の働きを失わせる可能性があるからです。なので寒冷地では、血液の循環を減らして組織が劣化しない程度のぎりぎりの熱交換にしようというわけです。寒冷地の哺乳類が大型化するのも、大きくなれば核心部の体温を少ない表面積で守ることができるからという理屈になります。なのでアザラシなんかはご存じの通りマルマルとしてるわけです。

逆に熱い場所にいると、今度は血管の血液量、末梢の毛細血管のレベルまで血の循環を増やして末梢の熱を増やして放散させて汗などの気化熱で熱を捨てようとします。こうした恒常性の維持に、人間の食べた食物のカロリーの8割が使われており、成人では1日1400〜1500kcalになるのですが、これが肉体労働とかになってくると、3、4倍になります(故に、肉体労働者は山盛り食べても太らない上に、熱を大量に生み出してしまう筋肉量も多いので消費カロリー自体が多い)。そうした機能が有る中に、体温と同程度の気温にずっといるというのは、体温を外部に捨てることができないという意味を指します。

つまり体は何もしなくても熱を生産し、その熱を捨てる場所がないため、どんどん熱が溜まっていき、熱中症となるわけです。故に、熱帯夜にクーラーを寝入る前にタイマーで1時間程度にしておいて熱が籠もる状況で寝ているのは危ないと言っても良いわけです。なので適度なクーラーの利用は命を守るためにも大事なわけです。

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出典元:まぐまぐニュース!