パサーとしてもドリブラーとしても、質の高いプレーを披露する遠藤。FKのキッカーとしても頼りになる存在だ。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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[ACLグループステージ最終節]鹿島 2-1 ムアントン・U/5月10日/カシマ

 ACLのグループステージ最終節、首位の座を賭けたムアントン・Uとの一戦で、鹿島は2-1でライバルを蹴散らした。
 
 チームを勝利に導く2得点を挙げた鈴木優磨の決定力は素晴らしかったが、そのふたつのゴールをお膳立てした遠藤康のパフォーマンスもまた見事だった。
 
 1点目は、裏に抜け出す鈴木にピタリとスルーパスを合わせてみせる。
 
「練習通りに、いつもやっていることを見せただけ」
 
 2点目は、利き足ではない“右足”でのクロスでアシストした。
 
「中で待つ優磨は、センタリングを上げればヘディングで勝てる選手なので。これも練習でやってきたことの成果だし、右足でも自信はあった」
 
 グループステージで、鹿島は4勝2敗の成績で勝点12を積み上げ、首位通過を果たした。ここまでの戦いぶりを、遠藤は次のように振り返る。
 
「勝って当然と思われていて、そういうプレッシャーを受けながら勝つのは難しいけど、チーム全体で戦って結果を出せたのは自信になる。負けることもあったけど、それを糧にできたからこそ、今日の勝利につなげられた」
 
 今季は開幕前のチーム作りであまり時間を取れず、少なくない新加入選手もいるなかで、「ぶっつけ本番でコミュニケーションを取らないといけないところもあった」。その点で少なからず苦労はしたものの、「今は良い連係でチームとして戦えるようになった」と手応えを口にする。
 
 途中出場を含め、グループステージ全6試合でピッチに立ち、決勝トーナメント進出に貢献した遠藤自身のパフォーマンスについて聞けば、「まだグループステージなので」と断りを入れてから、こう語る。
 
「評価するのはまだ早い。うちらの目標は優勝なので。そこまで勝たないと、自分も評価されないと思う。アントラーズは、タイトルを獲ってナンボのチーム。自惚れずに、もっともっと自分のプレーを高めていきたい」
 
 自慢の左足を駆使したテクニックには定評がある。足の裏を巧みに使いながらボールをコントロールし、配給役にもなれば、自らドリブルで切れ込むこともできる。
 
 ゴールやアシストといった決定的な仕事でその存在がクローズアップされることはあるが、遠藤の凄みは、何気ないワンプレーにあるような気がしてならない。
 
【ACL 鹿島2ー1ムアントンPHOTO】鈴木の2ゴールで鹿島がグループリーグを首位突破!
 右サイドでやや外向きにボールを運びながら、相手が寄せてきた瞬間、クルッと回って、ピッチ中央に進路を取る。ただのターンと言えばそれまでだが、この動作ひとつで、攻撃の局面がガラリと変わるから面白い。サイド攻撃をチラつかせながら、一気に中央突破か、あるいは逆サイドへの展開か。その“スイッチ”を入れているのが、遠藤だ。
 
 もっとも、レフティのテクニシャンは、あくまでも謙遜する。
 
「でもそれは、俺だけの問題ではない。例えば、(右SBの)大伍くんが『ターンしろ』とか声を出してくれる。その声で、自分が見えていないところにターンができる。もちろん、自分の判断で逆向きになることもあるけど」
 
 ターンのタイミングは、ある意味、遠藤にしか分からない。それでも、振り返った瞬間、2トップが縦に抜け出そうとするなど、受け手になる選手がすでに準備できているのも、今のチームの強みだ。
 
「自分は、練習でも試合と同じようにプレーしているし、みんなも自分のプレーを分かっていると思う。ここでターンするだろうな、とか。だからターンした瞬間、動き出してくれている」
 
 07年の加入以来、鹿島一筋で11年目を迎えた。29歳となり、選手として脂が乗っている今季も、「誰かが動いたら、俺は出すよ」というスタンスは変わらない。
 
 アジアを舞台にした戦いでも、一つひとつのプレーに余裕が見える。相手を背負ってキープする時も無理がなく、涼しい顔でパスを捌く。
 
「後ろ向きでボールをもらう場面も少なくなった。誰かに預ければ、また戻ってくる信頼があるし、だからパスを出した後は、裏に走ったり、動かずにもらったり」
 
 本音を言えば、「シュートを打ってゴールを決めたい」。しかし、自分が好きなようにプレーしているだけでは、チームが勝てないことは重々承知している。
 
「チームのために、何が効果的なのか」を常に考えてプレーする。何気ないワンツーでも、アクセントをつけようと工夫する。相手の出方や戦況に応じて、ダイアゴナルの動きで背後を突くか、それともボールに多く触ってリズムを作るかを決める。
 
「もっといろんな攻撃の形を作りたい」
「何をするか分からない選手でありたい」
 
“全冠制覇”という壮大な野望を抱く常勝軍団において、背番号25の存在はますます大きくなっている。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)