奈良の「巾着きつね」といえば、知る人ぞ知る名物だという。たとえば2016年6月、こんなツイートが投稿されている。

店は奈良市橋本町にある「麺闘庵(めんとうあん)」。巾着きつねうどんが評判である。「あげを開く瞬間がたまらない。出汁がきいていて美味しい...」というコメントが添えられている。写真映えする見た目はSNS、とくにインスタグラムに投稿したら、たくさん「いいね」がつきそうだ。

そこでJタウンネットは奈良に電話して、話を聞いてみることにした。

「笑ってもらえるものでなければ......」

麺闘庵の巾着うどん(alphaleadさん撮影、Flickrより)

電話に出てくれたのは、「麺闘庵」の主人、津保井勇(つぼい・いさむ)さんだった。

「この巾着きつねを始めたのは、10年ほど前のことです。油揚げの中に餅を入れるのは定番ですが、何か他に入れるものはないか、思案していました。最初は卵を入れてみたり、いろいろ試してみるうちに、うどんを入れてみようかと思いつきました」と津保井さん。

「ネックになったのが油揚げです。うどんを入れても破れない厚い油揚げを特注で作ってもらおうと、豆腐屋さんに相談しました。薄かったら油揚げはすぐ破れてしまいます。試行錯誤の結果、現在の分厚いものになりました。大きさは10センチ×18センチほど。1個ずつ手揚げしているそうです」。

「ふつうのきつねうどんでは、おもしろくない。えー、なんやこれ? と笑ってもらえるものでなければ......」と、津保井さんはこだわったそうだ。

現在、1日に150食から180食限定で、提供している。「それ以上は、良い油揚げができません。何しろ職人が1人で、手作りでやってますから」と津保井さん。

「店で注文が入ると、うどんを湯がき、籠に入れます。左手で油揚げの厚みを確認しながら表裏を決め、右手でうどんを入れていきます。器に盛って、お客様に出すまで、約3分ほどです」。

10年ほど続けているうちに、「巾着きつね」はだんだん有名になってきた。テレビ、雑誌などの取材も多くなった。全国各地からだけでなく、海外からの観光客も増えてきたという。「多いときは80%が外国人というときもあります」と、津保井さんは感慨深げだった。