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●構造改革フェーズから事業拡大フェーズへ
シャープが発表した2016年度第3四半期累計(2016年4月〜12月)の連結業績は、売上高が前年同期比23.2%減の1兆4,912億円、営業利益は前年同期の290億円の赤字から189億円の黒字に転換。経常損失は前年同期の528億円の赤字から改善したものの、マイナス152億円の赤字。当期純損失は前年同期の1,083億円の赤字から回復はしたが、マイナス411億円の赤字となった。

シャープ 代表取締役副社長兼管理統轄本部長の野村勝明氏は、以下のように述べる。

「携帯電話や空気清浄機など、売り上げが大きく増加する製品はあったが、米州における液晶テレビ事業のブランドライセンス化や、大手スマートフォン顧客向けの液晶パネル、カメラモジュールの需要減少などにより減収。一方で、構造改革の断行やコストダウンの取り組みがあり、営業利益は大幅に改善している。

第3四半期は、第2四半期に続き、営業黒字になり、経常損益、当期純損益も黒字化している。第3四半期だけをみると、販売減や売価ダウンの影響はあったが、コストダウンやモデルミックスの改善、経費削減、構造改革効果もあった。ソーラー事業を除いたすべてが黒字化している」(野村氏)。

○成長軌道への転換を強調

会見の内容が前後するが、回復基調を受けた今後の戦略から紹介する。野村副社長は、第3四半期の業績を受けて、これまでの構造改革フェーズから事業拡大フェーズへと移行。成長軌道へと転換することを強調してみせた。

「シャープは、2015年度には大幅な赤字を出したが、2016年度第2四半期には営業利益を黒字化し、第3四半期は当期純利益が黒字化した。今後は事業拡大に軸足を移し、成長軌道へと転換していく。第4四半期は売り上げ成長も対前年比を超えていくことになる」と述べた。

また、「信賞必罰を実現する人事制度改革は順次完了」しているとし、「多くの成果が出ているが、引き続き、拠点の最適化や人員最適化、人事関連施策の強化を通じて、さらなる経営の強化を図る」とした。さらに、反転攻勢に向けた競争力強化に向けて、「技術への積極投資」、「グローバルでのブランド強化」、「新規事業の加速」の3点に取り組むとした。

「技術への積極投資」では、8KやIoTなど将来の核となる技術への開発投資を拡大。社長ファンドの創設により、重要技術の開発を促進する技術人材への投資も拡大する。「再び、『技術のシャープ』を確固たるものにしていく」と述べた。また、「社長ファンドは、シャープが取り組んできた緊プロ(緊急プロジェクト)のようなものであり、社長が、将来には、『金が成る』と判断したものに投資をする仕組み。金額規模は大小であり、社長権限のなかで行うことになる」と説明した。

「グローバルでのブランド強化」では、欧州テレビ市場への再参入など、M&Aやアライアンスによるブランド拡大に取り組むとしたほか、ASEAN拡大戦略の再構築、会員サイトである「SHARP i CLUB」を中心とした顧客とのメンバーシップ構築も進めるとした。

「新規事業の加速」では、ヘルスケアおよびメディカル事業の分社などを通じて取り組む姿勢を示した。

野村副社長は、「戴社長の体制に移行してから、経営のスピードが速くなっている。これが業績の改善につながっている。グローバルでの戦い方が社員の間に浸透してきた」などと語った。また、「これまでは、削減などの構造改革で事業を見直してきたが、構造改革から競争力強化へとシフトし、新たな事業の拡大にも取り組む。各事業が黒字の体質になってきており、これまでは使えなかったお金も使えるようになってきた。技術への積極投資を行い、拡大路線に踏み出したい」と述べた。

中国・深せんで新たに白物家電の研究開発拠点を設置したことについては、「数10人の技術者を配置。ここで開発したものを中国市場などに展開していくことになる。これによる事業規模は検討している段階である。今後は、隣接している鴻海グループと共同開発とする可能性もある」と語った。

また、2017年度に向けて、20のビジネスユニット体制だった社内組織を、新たに50のサブビジネスユニットに細分化し、4月以降、この単位で管理する理由についても説明。「50に分ければそれぞれの収益が見える。そうしたなかから新規事業の芽を、ビジネスユニットになるように育てる狙いがある」とした。

一方で、一部報道にあった米国における液晶パネル工場の建設計画については、「現時点ではシャープが決めたということはない」とし、鴻海グループ主導で進めているものであることを示した。

●2016年度第3四半期の詳細
○2016年度第3四半期の業績

第3四半期の業績は、売上高が前年同期比13.8%減の5,715億円、営業利益は前年同期の38億円の赤字から188億円の黒字に転換。経常損益は前年同期の141億円の赤字から167億円の黒字に、当期純損益は前年同期の247億円の赤字から、42億円の黒字になった。

一方、2016年度の通期見通しを上方修正し、売上高は11月1日公表値に対して、500億円増の2兆500億円、営業利益は116億円増の373億円、経常損失はマイナス161億円増のマイナス2億円の赤字、当期純損失は46億円増のマイナス372億円の赤字とした。

「第4四半期の黒字化は達成できると考えている。通期見通しは、第3四半期の実績や、第4四半期の事業環境をみて、目標値の修正を行った。為替の影響も加味している。また、物流の改善などを含めた鴻海グループとのシナジー効果は99億円を想定していたが、計画を若干上回るスピードで進んでいる」(野村氏)などとした。

2016年度第3四半期累計のセグメント別業績は、IoT通信の売上高が前年同期比28.4%減の1101億円、営業利益が同30.3%減の95億円。「新規モデルを投入した携帯電話の販売増があり、第3四半期は増収になっている。継続的に経費削減、コストダウン効果があった」とした。

健康・環境システムの売上高が7.0%減の2,089億円、営業利益が2.9倍の207億円。「空気清浄機などの販売が好調に推移したが、海外におけるエアコン、冷蔵庫の販売減があった。ヘルシオシリーズなどの高付加価値製品によるモデルミックス改善が利益に貢献している」という。

ビジネスソリューションの売上高は11.2%減の2,320億円、営業利益が35.5%減の154億円。「インフォメーションディスプレイなどの事業用ディスプレイの販売が好調。だが、北米を中心とした海外における複合機の販売減があった」と総括した。

カメラモジュールの売上高は22.1%減の1,559億円、営業利益が91.0%減の8億円。「大手スマホメーカー向けの需要減少が影響した。コストダウン効果が出ている」という。

電子デバイスの売上高が18.1%減の1,617億円、営業利益が4.4倍の32億円。「システムデバイスの新製品立ち上げ予定があったものの、スマホ向けセンサーモジュールの需要が堅調に推移したことで、第3四半期はわずかに増収。徹底したコストダウンと経費削減効果が出ている」と述べた。

エネルギーソリューションの売上高は35.2%減の734億円、営業損失が前年同期のマイナス50億円からマイナス127億円に拡大。「住宅用および産業用太陽電池の低迷が響いた。円安に伴い、買い付け契約の評価引当金の追加がマイナスに影響した」という。

ディスプレイデバイスの売上高は31.4%減の6,030億円、営業損失がマイナス110億円の赤字から回復したものの、マイナス36億円の赤字となった。

「大手顧客向けスマホ用パネル需要が減少。北米テレビ事業をブランドビジネスに移行した影響があり減収。だが、液晶テレビと大型液晶、中小型液晶のすべてが黒字を確保できている。第4四半期もそうした動きが続いている」としたほか、「第3四半期は有機ELの開発負担があったが、デジタル情報家電の黒字の継続や、液晶ディスプレイのコストダウンへの取り組みによる収益改善がみられており、黒字化している」という。

また、「2018年度には、液晶テレビで1,000万台の出荷を目標にしている。一方で、有機ELは今後、量産を考えていくことになるが、すでに有機ELに関する技術を持っており、開発をしっかりとやっていく」と述べた。

(大河原克行)