準決勝のベトナム戦では2ゴールをマーク。決勝でもその決定力に期待したい。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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『柏のロナウド』は、ゴール前で得点の匂いを嗅ぎ分ける選手として、内山篤監督から絶大な信頼を寄せられている。
 
 それが証拠に第2戦のイラン戦でスタメン出場した中村駿太は、準々決勝のタジキスタン戦でも79分からだったが、起用された。そして、準決勝のベトナム戦で先発出場すると、その嗅覚を存分に発揮。2ゴールの活躍でチームを3-0の勝利に導き、指揮官の期待に見事に応えてみせた。
 
 ベトナム戦、1-0で迎えた10分、ゴール中央でFKを得ると、「先制点もセットプレーだったので、『必ず大きなチャンスが来る』と思っていた。内山監督にもセットプレーの時は、『GKの前で匂いを嗅げ』と言われているので、ボールが来そうなところに感覚で位置取りをした」と、DF初瀬亮のキックが放たれた瞬間、彼はゴール前のスペースに走り込んだ。初瀬のキックはGKのセーブに合うが、こぼれ球を拾ったMF長沼洋一の折り返しを、ダイレクトでゴールに押し込んだ。
 
 52分の2点目はMF遠藤渓太の右からのクロスに対して、ゴール前での相手DFのクリアに飛び込み、ブロックしたボールがそのままゴールに吸い込まれた。このゴールは一見、ただプレスに行って当たったゴールに見えるが、そこにも鋭い『嗅覚』が存在した。
 
「相手が慌ててクリアをすることは分かっていたので、足を出す時に足の面(インサイド)をしっかりとゴールに向ければ、当たったらゴールに行くと思った」と振り返ったように、まさに『狙い通り』のゴールだったのだ。
 
 記録上は2得点だが、6分の岸本武流の先制点も、実は彼の『隠れたアシスト』があったのだった。右FKからMF市丸瑞希が蹴ったボールを、ペナルティエリア中央でDF板倉滉が高い打点のヘッドで叩き付けると、ゴール前のスペースに走り込んでいた中村の前にボールがやって来た。
 
「『自分のところに来た!』と思ったのですが、僕の体勢的に無理にシュートを打ったら外すかもと思ったんです。その時、武流くんが前向きに反応しているのが見えたので、武流くんがシュートを打てるようにしました」。
 
 岸本と中村は同時にボールに反応していた。手前にいた中村は、バウンドが大きいボールを見て、岸本の方がいい状態でシュートが打てると判断し、身体をすっと引いた。ストライカーとしての本能を出しながらも、冷静さを失わなかった。これもゴール前の嗅覚を発揮したシーンと言える。
 
 3得点に絡む活躍を見せた中村は、決勝でも途中出場の可能性が高いが、切り札となり得る選手となるだろう。それほどまで彼はこの大会を通じて着実に成長を遂げている。
 
「1日1日が学ぶことが多いし、自分の伸びしろ、成長できる部分を毎日感じさせてくれる存在です。FW陣全員が自分にない特徴を持っているので、どんどん吸収したい気持ちでいます。当然負けたくはないので、一先輩として尊敬をした上で勝負して行きたいです」
 
 日々是成長。チーム最年少の高2であり、次の2019年U-20ワールドカップの年代でもある彼は、年上の選手たちに囲まれて、心身ともに吸収力を持って日々を過ごしているからこそ、より『嗅覚』は研ぎ澄まされ、チームに欠かせない存在となれているのだ。ベトナム戦の躍動はまさにそれの現われであった。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)