日本人によるノーベル賞受賞が近年相次ぐ中、中国国内の科学研究体制や子どもの教育のあり方についての議論が盛んになっている。中国・上海市のメディアである文匯網は21日、「教育問題を考える際に、『人の本能』を忘れてはならない」とする記事を掲載した。(イメージ写真提供:123RF)

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 日本人によるノーベル賞受賞が近年相次ぐ中、中国国内の科学研究体制や子どもの教育のあり方についての議論が盛んになっている。中国・上海市のメディアである文匯網は21日、「教育問題を考える際に、『人の本能』を忘れてはならない」とする記事を掲載した。

 記事は、上海天文台研究院の天体物理研究室主任を務める袁峰の話を紹介。1960-70年代の基礎研究が現在のインターネット、新素材、バイオ医療の成果として表れており、米国などの先進国との科学技術の差が縮まる一方、これからの新たな経済発展に必要な基礎研究の「蓄え」がどれほどあるか、という質問に対して袁氏が「中国のイノベーションの『蓄え』はもうすぐ使い果たしてしまう状況」と語ったことを伝えた。

 また、袁氏が今の中国の学生にイノベーション能力が欠けているのは幼いころの教育に関係していると指摘、自身の経験や優秀な科学者の伝記から「幼少期に大自然に親しく触れた美しい記憶が科学者の道を歩むきっかけになった。この経験は自然への探索の動機になるとともに、科学的直観を養うことにもなる」ということに気付いたとしたことを紹介している。

 さらに、袁氏が小さい頃から物理に興味を持ち、小説を読むがごとく物理関連の本を読み漁っていた一方で、バスケットボールに興じたり、自由に自分のやりたいことをしたりする時間があったと語ったとした。そして、81年にアジア人初のノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏の思想に出会い、同氏の著書にあった「ノーベル賞を得られた深層的な原因は両親。彼らは少年時代に大自然と自由に付き合う家庭環境を作ってくれた」という記述に大いに共感したことを併せて伝えている。

 記事の言う「人間の本能」とは、まさに自然に親しむこと、自分のやりたいことをやることである。自分のやりたいこと、興味を持ったことをする時間もなく、朝から晩まで机の前に座らされてひたすら「お勉強」をさせられる教育を続けていては、中国の科学界に未来はない、という危機意識だ。学業もスポーツも、趣味も、なんでものびのびと全力でできる環境づくりが求められているのである。(編集担当:今関忠馬)(イメージ写真提供:123RF)