村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

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「コンセプチュアル思考」は端的には、物事の本質をつかむ思考です。ここでいう物事の本質とは、物理的な原理をさす場合もあれば、意志的な意味・価値をさす場合もあります。本記事では、特に後者、すなわち物事から本質的な意味・価値をつかみとる訓練の一つを紹介したいと思います。

例えば、私たちが日々取り組む最大かつ最重要の物事である仕事・キャリア。この仕事・キャリアからどうやって意味・価値を掘り起こすことができるのでしょうか。このテーマに対して、安直に「なぜ働くのか?」という自問を投げかけてみてもあまり有益ではありません。なぜなら、こうした漠然とした問いでは、漠然としか考えられず、頭がうやむやになってしまうだけだからです。問いには適切な切り口が必要です。

「コンセプチュアル思考」では、意味や価値を考えるために、さまざまに切り口を入れた問いを行ないます。その一つが『私の提供価値宣言』と名づけたワークです。ワークシートには次のような一文が印刷されています。


私は仕事を通し
「          」を売っています。

さて、あなたはこの空欄に何という言葉を入れるでしょう。

自分は自動車メーカーに勤めているから、
『私は 「クルマ」 を売っています』

自分は介護事業会社に勤めているから
『私は 「介護サービス」 を売っています』

というような答えを求めているわけではありません。この空欄には、自分が仕事を通じて提供したい「価値」を書いてほしいのです。なぜなら、私たち一人一人の働き手は、目に見えるものとして具体的な商品やサービスを売っていますが、もっと根本を考えると、その商品やサービスの核にある「価値」を売っているからです。

例えば、保険会社の販売員は根本的には「経済的リスクを回避する安心」を売っていると言えます。また、新薬の開発者であれば、その仕事を通して「その病気のない世界」「人を健康にするための発明・発見」を売っているととらえることができます。財務担当者は、会社に対し「数値による経営の判断材料」を売っているのかもしれません。

スポーツ選手であれば「筋書きのないドラマと感動」を売る人たちでしょう。コンサルタントは「課題解決のための情報と知恵」を売っています。料理人は「舌鼓を打つ幸福の時間」で、コメ作りの農家の人なら「生命の素」と言っていいかもしれません。

いずれにせよ、このワークシートの空欄には主観的で意志的な言葉が入ります。この言葉づくりをじっくりやる過程で、私たちは自分自身がどんな職業人でありたいか、仕事にどんな価値軸を貫きたいのかが見えてきます。逆に言えば、この提供価値がうまく書けない人は、それだけ自分の仕事・キャリアに対して、明快な価値やビジョン、意志を持っていないということになります。


私たちは自分の担当する商品・サービスに対しては、コンセプトをどうしようかと考えます。ですが職業人としての自分には、コンセプトの目を向けて考えたことはほとんどないではないでしょうか。しかし、自分自身にもコンセプトは不可欠なのです。

それでは、実際の「コンセプチュアル思考」ワークショップで受講者から出てきた回答をいくつかご紹介しましょう。




あなたは職業人としての自分を定義するとき、どう表現するでしょう―――?

例えば、「私は●●●株式会社に勤める者です」とか「私はコンサルティング営業をやっている者です」といった表現をする人がいるでしょう。これはいわば「外的な定義」です。雇用会社や職種といった外側の殻で表わすやり方です。

それに対し、「私は●●●の価値を提供する者です」という表現は、「内的な定義」です。自分の貫きたい価値軸、満たしたい意味で表わすやり方です。こうしたとらえ方をすると、価値や意味のもとに会社があり、職種があり、知識や技術があるという意識が芽生えます。



この「提供価値」を考えるワークは、職業人としてのアイデンティティを再確認し、それを基軸にしてキャリアをひらいていこうという意志的な原点になります。漫然と忙しく仕事をし続けるだけなのか、それとも、なにか一つの価値軸を意識しながらその軸に沿って仕事をし続けていくのか───1年、3年、5年、10年の間で生じる差はひじょうに大きなものになると思います。


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(上の回答例が出されたワークショップの情報)
◆Discover Book College
仕事に価値を キャリアに軸を与える
『コンセプチュアル思考』ワークショップ〈第4回〉
「意味を掘り起こして」みよう 〜意味は自分にすごいエネルギーを与えてくれる

◆開催日:
2016年7月28日(木)19:00‐21:00

◆会場:
ディスカヴァー セミナールーム(東京・千代田区)

◆ファーメンター(fermentor=受講者の概念“発酵”をみちびく人):
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
村山昇