遂に家康のターン。どうする三成。緊迫と寝技の「真田丸」32話

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NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
8月14日放送 第32回「応酬」 演出:小林大児


「慶長4年 正月21日 伏見のもっとも長い一日がはじまろうとしている」

31回に続き、有働由美子の締めのナレーションが重厚過ぎる。

32回は、あまりに重かった秀吉(小日向文世)の死から、“伏見のもっとも長い一日”までの繋ぎ回といった風情で、久々にやや緩やかだった。いやもう、毎回、31回のようにヘヴィーだったら、週1とはいえ体力がもたない。月曜から仕事はじまるっていうのに、これでは仕事にならないから、小休止助かる。

とはいえ、「豊臣家の正念場だ」(石田三成/山本耕史)なのだ。
秀吉(小日向文世)が死に、三成と家康(内野聖陽)が一触即発な雰囲気に。
家康は急ぎ、秀忠(星野源)を江戸に帰す。
「なにゆえ?」と聞く秀忠に「たまには頭を働かせろ!」と声を荒げる家康。その心はその場では明かさず、
後に家康が何を懸念していたかがわかる構成になっている。

カリスマが死ぬと周辺は大変なのはいつの時代も同じ。これまでずっと、戦国ホームドラマ、戦国サラリーマンドラマふうな装いを見せてきた「真田丸」。事態はいよいよ天下分け目の大合戦が近づいているにもかかわらず、戦国介護ドラマ、戦国相続ドラマと視聴者に身近な描写が続く。身近な者たちが秀吉の死の事実をしばし隠そうとするが、すぐに噂は広まってしまうというのもありそうな話だ。

葬儀の日取りが決まらず、甕の中で塩漬けされてじめじめした暗いところにひっそり安置される秀吉が切ないが、もっと辛いのは、家康が大名を集め始めたのを知った三成が慌てて人を集めると、全然集まらない。完全に潮目は家康のほうに移っている。

阿茶局(斉藤由貴)が寧(鈴木京香)と茶々(竹内結子)に、家康に都合のいいことを言っているところをきり(長澤まさみ)が聞きつけて、信繁(堺雅人)たちに報告。きりも意外と役に立つ。
さらに家康は自ら寧に三成の印象を悪くすること言うが、三成もされるがままにはなってない。
「なにを信じて良いものやら」と困惑する寧。
序盤、中盤は嘘合戦が小気味よく楽しかったが、ここへきて泥試合の様相を呈して来た。

「わたしはほとんど間違えることはないが、ごくたまに誤った決断をすることがある」
三成は、しばし彼を手伝いたいと申し出る信繁に、こんな意地を張る。
秀吉亡き後の調整をやっている三成に、信繁が「石田様にしかなし得ぬことです」と気を遣うと、「わたしもそう思う」なんて、かわいいっちゃかわいいが、彼の行く末を思うと暗澹たる気持ちに・・・。
朝鮮出兵から戻って来た加藤清正(新井浩文)との関係もこじれてきて、辛い・・・。

小日向秀吉に代わって、いよいよ内野家康のターン。いつの間にやら秀吉とは違う食えない人物としてすっかり出来上がっている様子の内野。堂々たる風格でリングに上がってきたって感じだ。

家康は勝手に決まりを破って大名同士の縁組みをしてしまい、忘れていたととぼける。「古きことは克明に覚えておるのに新しきことがとんと忘れてしまうのだ」って秀吉か。

上杉「忘れたで済む話ではない」
家康「何か申されましたかな、上杉殿」
上杉「「忘れたで済む話ではない・・・ような気がする」
家康「上杉殿 お声が小さい 耳にはいってこぬわ」
上杉「なんでもござらん」
この時の上杉(遠藤憲一)の目! なんだこの怯えた目は。あの景勝がこんなになってしまうとは。月日の流れは酷い。
家康を老衆(おとなしゅう)から外そうとしていたのが、家康のほうが圧倒的に上手で、みんなどんよりしてしまう。
この一部始終を大きな黒い瞳でじっと見ている信繁。

豊臣VS 徳川の大きなうねりに向かっていくのが楽しみだが、今回のレビューでは、数少ない豊臣派の中から気になる俳優をチェックしたい。ダブル小林である。

まず、小林勝也。秀吉の盟友だった大大名・前田利家役は、文学座のベテラン俳優で、劇団公演のみならず客演も多数。三谷幸喜の舞台では「国民の映画」や「君となら」に参加。大河ドラマにもよく出演している。
今回、すっかり年老いて寝ているだけの出番だった小林勝也だが、それでも充分に、大大名の風格と、老いた己をふがいなく思っている様子が的確に表現されていた。流石だ。

寝ているだけで伝わる芝居・・・これは、20回の尾藤道休以来。尾藤役の横田栄司は文学座で小林勝也の後輩に当たる。
このふたりの芝居は、「真田丸」における文学座俳優たちの見事な“寝技”として語り継がれるに違いない。

もうひとりは小林顕作。宇喜多家家老・明石全登役は、NHK「みいつけた!」のオフロスキーでおなじみの個性派。三谷幸喜とは日本大学芸術学部の先輩後輩の間柄だ。俳優のみならず、ダンスや音楽活動も行い、脚本、演出も手がける多彩なひとだが、今回、なぜかいやに生真面目に伊達政宗と徳川家の縁組などの報告台詞担当。今後、もっと小林顕作らしさあふれる出番があるのか気になる。
(木俣冬)