写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●単なるプラットフォームではないIoT基盤「Predix」
製造業大手のGEは現在、デジタルインダストリアルカンパニーを標榜し、IoTを活用したビジネスを推進し、単なるものづくり企業から、ソリューションベンダへと変貌を遂げつつある。そうした変化を支える文化そのものを同社は長年にわたって醸成を行い、そうした姿勢そのものから、新たな発想やビジネスモデル、そしてソリューションを生み出してきた。

例えば同社が提供するIoT基盤「Predix」だが、これについて、GEデジタル ソフトウェア・エンジニアリング ディレクターのビニート・バンガ氏は「インダストリアルインターネット向けアプリの開発・導入・収益化のプラットフォーム」と説明する。製造分野で活用する各種装置から大量のデータを収集、処理、分析を行うことで生産性の改善などを実現するのがIIoTの1つの目的となるが、エッジノードの各センサからクラウドに至るまで幅広い範囲をカバーし、かつ門外不出ともいえる重要な製造データを保護するセキュリティまで考えて作られたのがPredixとなる。

その主要コンポーネントが「クラウドファンドリ」で、現在同社は、同コミュニティのメンバーとして積極的な活用をマイクロサービスの活用と併せて進めているという。マイクロサービスは、アプリケーションを小さなコードの塊に分けて開発することで、1つのマイクロサービスごとにアップデートを行うことで、全体的な開発速度を向上させようというもの。ただし、各サービス間のインタラクションやバージョン管理コストなども発生することとなるが、Predixでは、そうしたコストの緩和に向けた支援や、プロセスのオートメーション化によるオーバヘッドの削減などを提供することで、そうした課題に対応しているとする。

また、各レイヤごとのセキュリティを埋め込むことで、セキュア性を担保している。「アプリケーションレベルでセキュリティを構築するのみでは、プラットフォーム全体としてセキュアとは言えない。そこで各レイヤにセキュリティを統合することで、プラットフォーム上で認証やコントロールを図ることを可能とし、エッジからクラウドまでのセキュリティを実現した」という。

加えて、Predixの特徴の1つとも言えるのがサービスの提供である。例えば、提供されるアプリケーションのアセットモデルの最適化を図るためにグラフデータベースを用いることで、アセットモデルに対する紹介を可能としたほか、分析サービスとしては、独自分析のほか、既存の分析ツールをサブスクリプションとして組み合わせるといったこともAPIを活用することで可能としている。さらに、アプリに対してセキュアにアクセスすることを担保するオーセンティケーション & オーサライゼーション(UAA)なども提供するほか、より複雑なポリシーに対応するオーサライゼーション・サービス(ACS)やマルチテナントアプリ構築のためのテナント管理アプリも提供している。

どういったサービスやアプリが活用できるかは、同社の提供するWebサイト「Predix.io」にて確認することができる。シードリファレンスも提供されており、どういったアプリが作れるのか、といったことも分かるほか、コミュニティを活用して、サードパーティのアプリなどであっても、デベロッパーに質問して回答を得たり、問題があったときのサポートチケット発行といった手続きも可能だ。「Predixはプラットフォームとしているが、その実、エコシステムそしてマーケットでもある。そういった意味では、今後もさまざまなベンダに呼びかけ、参加を促し、機能強化などを図っていくつもりだ。GEとしても、ベンダにどのようなビジネスチャンスがあるのかを見出し、サービスの改善を図っていく」とのことで、それにより、インダストリアル・インターネット/IIoTにベストなソリューションを今後も提供していくとする。

●GEの変革を支えるアウトカムという考え方
また、発想やビジネスモデルといったものでは、GEデジタル シニア・ソフトウェアマネージャーのデビッド・ビンガム氏が「GEはUXにこだわりを持っており、アウトカム(成果)を軸にしたアプローチになぜデザイナーが関わる必要があるのか」、というデザイン思考的な考え方を披露している。

同氏は「GEが工業企業からデジタル企業へと転身を図るうえで、従来より製造業を生業としてきた企業に加え、IBMやMicrosoft、Amazomといった企業も競合になる可能性がでてきた。そうしたときに生じる、新たな複雑性について考える必要がある」とし、良いデザインとされる特徴をアウトカムとして見ると、良いデザインに至るために、そのプロセスは何か、を考える必要があるとする。「例えば製品を売る、ということにアウトカムがなれば、あるべきプロセスは協力的、反復的、ということが考えられる」。

また、最近の流れとしては、顧客に対する関与の仕方も変化してきたという。「我々のエンゲージプロセスは、リサーチ→デザイン→開発→展開→リサーチ…という円環をなしている。ここに新たな顧客がやってきた場合、リサーチに至る前までに、イントロ(紹介)→ワークアウト→提案という段階を経ることとなる。ただし、展開から、新規の顧客にその内容だけを渡した場合、本来必要となる学習の機会が失われることとなる。そのため、我々としては、そのまま展開されたものを渡すのではなく、顧客から逆に学ぶことで、得られた情報と、展開した内容、分析結果、アプリ、サービスなどをすり合わせ、抱えている問題に意味のある形で関係づける結果、展開から提案へとアプローチすることとなる」と、現在のプロセスの流れを説明し、その上で、「1つ重要なことは考えず過ぎないこと。細かいことはプロセスを経ることで分かってくる」とした。

さらに、「注意すべきなのは、実際のワークアウトを決める際、公式や数式といったものは存在しないということであり、そうした点を考慮しつつ、顧客の問題対応についてどうすればよいかの全体像を考える」という段階を踏んだ後、リサーチを開始、そこからプロセスのループが始まることとなる。こうして開発されるツールは、最初のプロセスに関わってくれた人たちに向けたものであり、彼らからうまく使えているのか、などを確認し、さらに開発を行っていく、という流れとなる。

アウトカムの考え方は、複雑なシステムになればなるほど、有効性を発揮する。「最終的なアウトカムから逆戻りして、そこに至るためには、どのようなステップを踏んでいけばよいかを考えればよい」と同氏は説明するほか、「エンジニアは複雑性の主人であり、デザイナーは簡素さの主人であるという格言もある。複雑なものごとを明確化する上で、そうしたデザイナーの存在は、問題解決の一助となるだろう」と、そうした人が介在するシステムにおいて、デザイナー的視点が必要になってくることを強調した。

(小林行雄)