「これは『365歩のマーチ』のアンサーだ!」「全然関係ねえ」否定するデーモン閣下、粘るブルボン小林

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デーモン閣下インタビュー最終回。あの名曲に対する、かねてよりの質問とずっこけも読みどころとなりました(注・名曲といっても『蝋人形の館』ではありません。それこそ『愛は勝つ』がKANファンにとっての代表曲ではないように、それぞれに異なるアンセムがあるのです)。


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水前寺清子『365歩のマーチ』へのアンサー?


──(質問時間僅かといわれ、焦りつつ)こないだ作家の羽田圭介くんに誘ってもらって、30周年記念の再集結のツアーをみました。

閣下 どれを見ました? 今回の30周年ツアーは。

──最初の埼玉の「全席死刑」初日と、最後の武道館の2日目です。

閣下 じゃあもう「ど最初」と「ど最後」を。

──オセロで言うなら全部みたことに。

閣下 「オセロで言うなら」(笑)

──武道館の、最後の最後のMCで、閣下が改めて「聖飢魔IIとは」ということを、ちょっと長い時間とって仰ったと思うんですけど。

閣下 はい。


──マイノリティに属するもののための音楽だったのではないか、と改めて聖飢魔IIの楽曲についての定義を述べた。

閣下 「マイノリティのヒーロー」って言い方したかな……で、ありたいと思っていた、また、そうであったかもしれないというようなところから始まったね。

──で、「死ね」とか「殺せ」ということももちろん本気で歌ってるんだけれども、それが一つの便宜のようなものでもあるという趣旨のことを仰って。案外、公式の場所でそういう見解を述べられたのを僕は聞いたことなくて、新鮮だったんです。その後『エルドラド』という曲に繋ぐまでに、最後喋ったことが、どういう意味だったんだろう? って。羽田君と帰り道、「?」って。

閣下 (笑)

──ちょっと、言い方が持って廻ってませんでした? エルドラドに繋げるまでの、あそこにいる信者の子たちに、こういう心持ちでいろよみたいな感じのことを言ったんだと思うんですけど。あれがちょっとよく分からなかった。もう一回再現してもらえますかってのもなんかあれですが。

閣下 黒ミサ活動絵巻教典(ライブ・ヴィデオ、Blu-rayとDVD)が出るんだ。

──そうか、そのMCが入る。

閣下 まあ当然入るだろうね。

──買って観直せばいいわけですが、でも、アノー、ええと、もうちょっと噛み砕いて(言ってもらえると)……。

閣下 要するにまあ、聖飢魔IIというのはそんなにメジャーシーンの中のでの大多数の支持を受けてた集団ではない。……マイノリティというほどではないかもしれないけど、やはりちょっと変わった人たちとかがすごく好きでいる集団だったことはまあ間違いないだろうと。諸君たちの多くもきっと多かれ少なかれ自分の身の回りの世界でちょっと生きづらいとか、何か悩みがあるとか、周りと大多数に馴染めないとか、そういう経験を持っていた人が多いんじゃないかと。そういう我々が、そういう諸君たちの支持を受けてこうして何年間もやっているし30年経って今までで一番集客をしている状態にある。ある意味我々がやろうとしてたことはその時代その時代ではメジャーではなくマイノリティであったかもしれないけどいつかはこのマイノリティがメジャーになって主格が転倒する世界をつくろうと思ってやっていたことは事実であり、当初は君等もきっとそういうつもりでいてくれたんだと思う。が、しかし、時が経つにしたがって、そういう殺せとか壊せとか侵せとかって過激な発言は本当にそういう気持ちを込めた言葉からだんだんだんだん形骸化していって、なんとなく合い言葉として成立しているような状態になっていき、なんとなくやっぱりそういう本来もっていた、俺たちはいつか社会の中心になるんだ、いつか我々の生きやすい世界をつくるんだって、本当にそう思っている者が少なくなっていったんじゃないかい? という問いかけ。

──(「要するに」といいながら、まるで要せずにスラスラ出てきたことに感動しながら)なるほど!

閣下 それで我々はまあ、今日去って行く、数分後にって言ったのかな、あのときね。10数分後にって言ったのか。いつか戻ってくるかもしれないし、こないかもしれない。だから君等は少なくとも今日ここに集まってる君たちは、我々に、戦い続けてほしい……戦い、出てきたよね、たしかにそういう表現してるね……続けてほしいと思ってるから呼んだんだろう。これからも戦い続けてほしいと思ってるのか? って問いかけたよね? で、観客がわーっと盛り上がって。我々が諸君たちの前で再び戦い続けるかどうか、それは、これからの君たちが決めることだって、それから「エルドラド」に。

──同じことをそのときも言われたのに、今の方がなんか分かりました。

一同:(笑)

閣下 よく覚えてるよね、我が輩ね。

──ラストの『エルドラド』という曲は、まさにある種のポジティブさの象徴で、聖飢魔IIのライブ、ミサでも最後にやる人気曲になってますね。サビで「早くいけ 早くいけ」と繰り返す、あれはやはり、水前寺清子さんの『365歩のマーチ』へのアンサーというのが端緒なんですか?

閣下 全然関係ねえ。(笑)

──えっ。

閣下 (閣下も)えっ。なに、『エルドラド』を一番最初に作った時に『365歩のマーチ』を意識してあの曲を書いたのかという質問ね?(笑) 今日一番の質問!(笑)

──僕はすごい画期的だと思ってました。もしそうだとしたらね。

閣下 「そうだとしたら」そうだろうね! (笑)

──だってヘヴィメタバンドとか世に数あるなかで、何かへのアンサーってときに、誰もそういう発想の曲は作らないから。でも、閣下ならありうる、と。MCにも「365歩のマーチ」を取り入れてますよね。あれは後づけなんですか?

閣下 後づけ後づけ。でも相当昔からあれは使ってるよね、「幸せは歩いてこない。だから歩いていくんだ」。

──それがそもそもおかしいんですよ! 何を言い出すんだと。MCを聞いていると。まさかその後でシリアスなかっこいい曲が始まるとはとうてい思えない前口上じゃないですか!

閣下 (笑)。それがあまりにもオーソドックスになりすぎて、だんだんちょっとずつ変えていきたくなるわけよ。やっぱり時を経て。それで図に乗って、その先も客が歌うようになってね。1日1歩、3日で3歩ってほっとくと客がずっと歌い続けるという現象が起き始めたんで。それで最終的にはチータをゲストに呼んで。(笑)

──でも、その途中あたりでMCを聞いた僕は「これは『365歩のマーチ』のアンサーだ!」。

一同:(爆笑)

──違うんですか?

閣下 違っちゃがっかりなんだ!(爆笑)

──それで、まあ『365歩のマーチ』も名曲だけど、全く異質な名曲ができたから、そのシナプスはすごい、と(思ってたんです)。

閣下 なるほど! じゃあこれからそういうことにするか!(笑)

一同:(笑)


(補足、そろそろ補足すると『エルドラド』は魔暦前13(’86)年の大教典『地獄より愛をこめて』収録。その後何度も再録音され、ミサでも最後に演奏することの多い人気曲。……このエルドラドの発音が、あるとき急にスペイン語のネイティブに変わったことについても質問をしそびれている)。

──(笑)。でも、仮にアンサーだとしても秀逸な曲だと思うんです。で、何が言いたかったかというと『エルドラド』も、「見失わないうちにたどり着け」っていうんですよ。「早く行」くべき理由が。幸せが「ある」からじゃないんですよね、消えてしまうから、見失うから。だから「漫然と生きるな」というメッセージの一貫性はずっと貫かれている。

閣下 なるほどね。


──新曲の『GOBLIN'S SCALE』のサビで繰り返す、「あと3日でたどり着かなければ」ってことの繰り返しにも通じてると思うんですよ。


閣下 なるほど。

──急に新曲の話に最後の最後で戻してみました。

閣下 プロモーショントークに繋がるわけね、素晴らしい。

(補足『貞子vs伽椰子』の主題歌『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』、(シャ・ナ・ナ・ナは正式には半角表記)の歌詞もだ。「一期一会」と思えるような幸せも、それは突然破壊されてしまうかもしれない、と歌われている。生きていることの素晴らしさ「ではなく」、生きていることの「貴重さ」を歌う姿勢は通底している、これも取材で言いそびれたこと)


──とにかく、どちらの曲も多くの人に聴かれてほしいです。タイアップってそもそも知らない人に聞いてほしいってことじゃないですか。映画目当てできた人に、なんだこの曲かっけぇ、とか、CMにしてもテレビドラマにしても、そのドラマ目当てで観た人が「曲もいいね」と。

閣下 そうだね、今まで自分たちに最も興味を示したのではない人たちが、お? って思わせるという意味はとてもあるよね。だからライジングサン・ロックフェスティバルに出ていって、他のアーティスト目当てに来てる客の前でやるっていうのにも似ている。

──そうですよね。『テラフォーマーズ』の曲(『荒涼たる新世界』)もそうだし、タイアップソング愛好家としても実に相応しいタイアップが聞けたなと。だから熱心な、これだけよく喋る僕としても、快哉を叫ぶ……。


閣下 快哉を…、それはどういう字を書くんですか?(笑)

──デジャヴだ(再び字の説明)(笑)

いつのまにか4曲もできてるからね


──聖飢魔IIは次、いつ姿を表すか分からないですが。

閣下 誰にも分かりませんね。

──僕は大教典(アルバム)を期待したいんですよね、もう4曲あるじゃないですか。

閣下 4曲あるね。

──あと6曲くらいできます?(←だんだん慣れてきて、軽い調子で)
 
閣下 なんかね、作るつもりなかったのに、いつのまにか4曲もできてるからね。

──これは聖飢魔IIというバンドに限らずだけれども、あらゆるミュージシャンは新曲を出し続けてほしいんですよ。ソロにしても。何十年もやってれば、往年のヒット曲を演奏されることを望まれるだろうし、客も望むけども。かつてほど売れないかもしれなくても、新曲を出し続けているバンドを信頼する気持ちがある。聖飢魔IIは期間限定のそのつどちょびっとずつでも新曲があったし、閣下のソロ活動も続いているし、今回は4曲も新曲が、変なタイミングで。

閣下 変なタイミングで。(笑)

──だったら、どうせならアルバムで……。

閣下 「アルバム」って、でも、本来そういうものだよね。アルバムってなんでアルバムって言うんだっていうと、こういうの作りましたこういうの作りました作りました、じゃあまとめてみよっかっていう。
(補足・ここは、省略語をよしとしなかったり、あらゆる「語義」になるべく正確であろうとする、閣下の重要な個性が発揮された瞬間である。アルバムという「語」に一瞬、閣下はぴたりと寄っていっている)

──なんとか、他の構成員の都合もあるだろうけども、あと6曲……勝手にアルバムは10曲って僕が決めてるのもおかしいですけど。

一同:(笑)

閣下 そう簡単にできないんだよ曲は。

──完璧主義者というか、「ちゃんとしたい」んですね。

閣下 ええ。(笑)

──武道館の大黒ミサでも「新曲を演奏して!」って客席から言われて「簡単にできないの!」って反駁されてましたね。「ラフな感じでもいいから即興でやってみよっか」とかにはならないんですね。

閣下 提案はしたけどね、実はね。

──相当(演奏が)難しいんだろうなっていうのは、素人でも分かります。

閣下 もっと早く提案すればよかった。ものすごい後になって、そっか、あの新曲披露するって手があるなって思ったのが最後のリハの日だった。(笑)

侍従 遅い!

──後手にまわり過ぎて。

閣下 こんなに根回しが上手だと言われて久しい我が輩をもってしてね。こんなに後手を。(笑)

──新大教典、勝手に期待します。最後の最後まで、要領を得ないインタビューで失礼しました。本当に長い時間(といっても十万年生きる方にとってはわずかかもしれないと思いつつ)ありがとうございました!

インタビューを終えて


目の前に、ずっと憧れていた存在がいる、ということでも怯んだが、それ以前に、あのフル装備の(仮装大会的な安っぽさのない、すごい衣装で)悪魔が側にいるということ自体があまりに非日常で、常にない焦りを感じてしまった。面白さと不思議さで(眩しい存在ということとも別で)直視できないのだった。

インタビュー後、元ソフトバレエ森岡賢氏の訃報が。たしか閣下のアルバムにも関わっていた人だった、との公式ブログ(閣下はどこかで「ブログではなく、省略せずにweblogというべき」と仰っていたが)をみると、追悼のコメントが寄せられていた。筆者の考えが肯定されたということではないにせよ、符号することを思わせる文章に感じ入った。

とにかく、「言いそびれたこと」の多いインタビューとなった。
デーモン閣下の作詞の独特な面白さについてはまだまだ言いたいこと、聞きたいことがたくさんある。閣下の詩は井上陽水『氷の世界』のナンセンスの系譜を受け継いでいると勝手に思っていて、のちに奥田民生が全編英語に聞こえる日本語を歌ったときも、椎名林檎が漢字をひらがなに無理にあてて作詞したときも、それよりも閣下の方が早くてしかもすごい、そう思ったものだが、そういった詩作の極意まで踏み込んで質問することは今回、出来ずじまいであった。次の機会は何万年後のことだろうか。

あと、とにかくまあ閣下、カラスヤさんの漫画はぜひ、読んでほしいものだなあ。
(ブルボン小林)


聖飢魔II オフィシャルWEBサイト