【中村憲剛の欧州サッカー観戦記】バイエルン対ユーベの「戦術合戦」に驚嘆! ベスト8以降のCLはシメオネら各チームの「監督力」に注目だ!
チャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦は、バイエルン対ユベントスの対決(3月16日)が思わずブログを書こうかと思ったくらい、ハイレベルな試合でした。その次元にまで引き上げたのはユーベのアッレグリ監督だったと思います。
CL|バイエルン 4-2 ユベントス|採点&寸評
僕はユーベがディバラとマルキージオ、キエッリーニを怪我で欠く状況で、どうやって臨むかというのが一つのポイントだと思ってたんですが、彼らは敵陣と自陣で守備のやり方を変えていたんです。
バイエルンが自陣でビルドアップを始めた時には、まずポグバとモラタが最終ラインにプレスに行って、相手のパス回しの基点となるシャビ・アロンソのところにはケディラとエルナネスのダブルボランチが交互にプレッシャーにいっていた。
それはバイエルンに裏へロングボールを蹴られるボアテングが不在だったため、裏を狙ったパスがこないのをユーベがわかっていたからだと思うんです。だから、前から潰しにいってボランチの背後を空けても、マンツーマンで対応できるだろうと。実際、その通りの展開になっていましたよね。
あとユベントスは自陣に入られたら、システムを可変させていた。ポグバが左サイドハーフ、A・サンドロが左WB、エブラが左のCBにポジションを移して、5-4の2ライン(DFとMF)を作って守備組織を構築し、縦パスを入れさせないようにしていた。そして縦パスを引っ掛けてカウンターを狙っていました。特に1点取ってからはその姿勢が顕著に出ていて、2点目は目論見通りだったと思います。
バイエルンは3月6日のドルトムント戦(0-0)を含め、5バックの攻略に苦戦していた。それがアッレグリの頭の中に入っていたんだと思います。本当に凄い監督ですよね。
前半を0-2で折り返したバイエルンは、60分にシャビ・アロンソを下げてコマンを投入し、サイドに人を増やしたのがカギだったかなと思います。
ベルナト、コマンとクロスを上げる人数をどんどん増やした後半は、相手を完全に押し込んでいた。クアドラードにやられた2失点目のように中央で引っ掛けられてカウンターを受け、3失点目を喫したら終わりなのが分かっていて、サイドからの攻勢を選択したんだと思います。
サイド深くからの攻撃を受け続けたユーベは、DFラインを自陣のペナルティーエリアに押し下げられた。そこからカウンターを出すには距離が長くてスタミナを削られました。そこに故障者の多さから状況を打破する効果的な交代カードもなくて、延長戦に入った段階で万事休すって感じでしたね。
結果としてバイエルンが途中出場のコマンとチアゴの得点で勝利しましたが、この試合は戦術的にすごく魅力的でしたね。もし、自分が指導者や監督だったら、何回も見直したいプレーや局面ばかりで、決勝で見たかったと思えるようなカードでした。
僕が長年見ているバルセロナに関しては、アーセナルが1st legを0-2で落とした関係で、比較的ラクにベスト8進出を決めました。でも、そのバルサが苦戦しそうだと思うのが、ベスト8で当たるアトレティコです。
シメオネの守備戦術はアッレグリに負けないぐらいに緻密かつ強固。“守備こそが全て”という前提がチームにあって、それでいてアトレティコはかなり“汚い”。もちろん良い意味でなんですけど、あの手段を選ばない感じはバルサも嫌うはず。
バルサは最近、アトレティコにずっと勝っているんですけど(直近5試合はバルサの5勝0敗)、それでも唯一負けそうなのはシメオネのチームかなと思っていたので、このラウンドで当たるのは少し残念ですね(笑)。
ベスト8に残った他のチームで注目なのはパリSG。ディ・マリア、イブラヒモビッチ、ルーカスの3トップの関係性は面白くて、とくに最近のディ・マリアは別格の存在。すごく上手いのにハードワーカーで、「現代サッカーの申し子」だと僕は勝手に思っています。テクニシャンながらアスリート能力も高くて、カウンターでもポゼッションでも機能する。まさにモダンフットボールに適している選手ですね。
パリSGは、すでに国内リーグ優勝を決めているので、CLに集中ができるというのもアドバンテージになりますね。でも、リーグ・アンだとなんとなくでもやれてしまうのか、守備が意外と軽い。CLではそこを修正できるかが重要だと思います。
予想ですが、ベスト4に勝ち上がるのはバイエルン、レアル・マドリー、バルサ、パリSGかな。とくにCL史上初の連覇を目指すバルサが本命。でも、繰り返しになりますが、ベスト8で当たるアトレティコは一発勝負の舞台では本当に嫌な相手。何が起きても不思議じゃないですよ。
こうやって対戦相手が決まったときにシメオネは「うわ、シメオネか……嫌だな」と相手をビビらせられる。アッレグリもそうなんですけど、相手に不気味さを感じさせるというのは“監督力”の証明でもあります。
とくにシメオネは“相手が嫌がること=自分がやりたいこと”という監督なので、本当にタチが悪い(笑)。ただ、僕は常々言ってるんですけど、サッカーをやるにあたって、こういう類のタチの悪さは大事だと思ってます。
レアル・マドリーのジダンとベンフィカのルイ・ヴィトーリアを除けば、ベスト8に進出したチームの監督はいずれも経験値がすごく高い。展開や相手に応じてどんな戦術や交代策を見せてくれるのか、これからのCLも“監督力”にも注目です。
【中村憲剛のPROFILE】
●生年月日/1980年10月31日
●身長・体重/175センチ・66キロ
●クラブキャリア
03年 川崎フロンターレ(J2):34試合・4得点
04年 川崎フロンターレ(J2):41試合・5得点
05年 川崎フロンターレ(J1):29試合・2得点
06年 川崎フロンターレ(J1):34試合・10得点
07年 川崎フロンターレ(J1):30試合・4得点
08年 川崎フロンターレ(J1):34試合・4得点
09年 川崎フロンターレ(J1):32試合・4得点
10年 川崎フロンターレ(J1):27試合・4得点
11年 川崎フロンターレ(J1):30試合・4得点
12年 川崎フロンターレ(J1):34試合・5得点
13年 川崎フロンターレ(J1):29試合・7得点
14年 川崎フロンターレ(J1):30試合・3得点
15年 川崎フロンターレ(J1):33試合・2得点
16年 川崎フロンターレ(J1):4試合・3得点
CL|バイエルン 4-2 ユベントス|採点&寸評
僕はユーベがディバラとマルキージオ、キエッリーニを怪我で欠く状況で、どうやって臨むかというのが一つのポイントだと思ってたんですが、彼らは敵陣と自陣で守備のやり方を変えていたんです。
バイエルンが自陣でビルドアップを始めた時には、まずポグバとモラタが最終ラインにプレスに行って、相手のパス回しの基点となるシャビ・アロンソのところにはケディラとエルナネスのダブルボランチが交互にプレッシャーにいっていた。
それはバイエルンに裏へロングボールを蹴られるボアテングが不在だったため、裏を狙ったパスがこないのをユーベがわかっていたからだと思うんです。だから、前から潰しにいってボランチの背後を空けても、マンツーマンで対応できるだろうと。実際、その通りの展開になっていましたよね。
あとユベントスは自陣に入られたら、システムを可変させていた。ポグバが左サイドハーフ、A・サンドロが左WB、エブラが左のCBにポジションを移して、5-4の2ライン(DFとMF)を作って守備組織を構築し、縦パスを入れさせないようにしていた。そして縦パスを引っ掛けてカウンターを狙っていました。特に1点取ってからはその姿勢が顕著に出ていて、2点目は目論見通りだったと思います。
バイエルンは3月6日のドルトムント戦(0-0)を含め、5バックの攻略に苦戦していた。それがアッレグリの頭の中に入っていたんだと思います。本当に凄い監督ですよね。
前半を0-2で折り返したバイエルンは、60分にシャビ・アロンソを下げてコマンを投入し、サイドに人を増やしたのがカギだったかなと思います。
ベルナト、コマンとクロスを上げる人数をどんどん増やした後半は、相手を完全に押し込んでいた。クアドラードにやられた2失点目のように中央で引っ掛けられてカウンターを受け、3失点目を喫したら終わりなのが分かっていて、サイドからの攻勢を選択したんだと思います。
サイド深くからの攻撃を受け続けたユーベは、DFラインを自陣のペナルティーエリアに押し下げられた。そこからカウンターを出すには距離が長くてスタミナを削られました。そこに故障者の多さから状況を打破する効果的な交代カードもなくて、延長戦に入った段階で万事休すって感じでしたね。
結果としてバイエルンが途中出場のコマンとチアゴの得点で勝利しましたが、この試合は戦術的にすごく魅力的でしたね。もし、自分が指導者や監督だったら、何回も見直したいプレーや局面ばかりで、決勝で見たかったと思えるようなカードでした。
僕が長年見ているバルセロナに関しては、アーセナルが1st legを0-2で落とした関係で、比較的ラクにベスト8進出を決めました。でも、そのバルサが苦戦しそうだと思うのが、ベスト8で当たるアトレティコです。
シメオネの守備戦術はアッレグリに負けないぐらいに緻密かつ強固。“守備こそが全て”という前提がチームにあって、それでいてアトレティコはかなり“汚い”。もちろん良い意味でなんですけど、あの手段を選ばない感じはバルサも嫌うはず。
バルサは最近、アトレティコにずっと勝っているんですけど(直近5試合はバルサの5勝0敗)、それでも唯一負けそうなのはシメオネのチームかなと思っていたので、このラウンドで当たるのは少し残念ですね(笑)。
ベスト8に残った他のチームで注目なのはパリSG。ディ・マリア、イブラヒモビッチ、ルーカスの3トップの関係性は面白くて、とくに最近のディ・マリアは別格の存在。すごく上手いのにハードワーカーで、「現代サッカーの申し子」だと僕は勝手に思っています。テクニシャンながらアスリート能力も高くて、カウンターでもポゼッションでも機能する。まさにモダンフットボールに適している選手ですね。
パリSGは、すでに国内リーグ優勝を決めているので、CLに集中ができるというのもアドバンテージになりますね。でも、リーグ・アンだとなんとなくでもやれてしまうのか、守備が意外と軽い。CLではそこを修正できるかが重要だと思います。
予想ですが、ベスト4に勝ち上がるのはバイエルン、レアル・マドリー、バルサ、パリSGかな。とくにCL史上初の連覇を目指すバルサが本命。でも、繰り返しになりますが、ベスト8で当たるアトレティコは一発勝負の舞台では本当に嫌な相手。何が起きても不思議じゃないですよ。
こうやって対戦相手が決まったときにシメオネは「うわ、シメオネか……嫌だな」と相手をビビらせられる。アッレグリもそうなんですけど、相手に不気味さを感じさせるというのは“監督力”の証明でもあります。
とくにシメオネは“相手が嫌がること=自分がやりたいこと”という監督なので、本当にタチが悪い(笑)。ただ、僕は常々言ってるんですけど、サッカーをやるにあたって、こういう類のタチの悪さは大事だと思ってます。
レアル・マドリーのジダンとベンフィカのルイ・ヴィトーリアを除けば、ベスト8に進出したチームの監督はいずれも経験値がすごく高い。展開や相手に応じてどんな戦術や交代策を見せてくれるのか、これからのCLも“監督力”にも注目です。
【中村憲剛のPROFILE】
●生年月日/1980年10月31日
●身長・体重/175センチ・66キロ
●クラブキャリア
03年 川崎フロンターレ(J2):34試合・4得点
04年 川崎フロンターレ(J2):41試合・5得点
05年 川崎フロンターレ(J1):29試合・2得点
06年 川崎フロンターレ(J1):34試合・10得点
07年 川崎フロンターレ(J1):30試合・4得点
08年 川崎フロンターレ(J1):34試合・4得点
09年 川崎フロンターレ(J1):32試合・4得点
10年 川崎フロンターレ(J1):27試合・4得点
11年 川崎フロンターレ(J1):30試合・4得点
12年 川崎フロンターレ(J1):34試合・5得点
13年 川崎フロンターレ(J1):29試合・7得点
14年 川崎フロンターレ(J1):30試合・3得点
15年 川崎フロンターレ(J1):33試合・2得点
16年 川崎フロンターレ(J1):4試合・3得点