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●大先輩・筑紫哲也の切り開いた道への挑戦
TBSの報道番組『NEWS23』(毎週月〜木曜23:00〜、金曜23:30〜)が3月28日から、新たなメンバーで再始動する。岸井成格氏(71)の後任として、元朝日新聞社・特別編集委員の星浩氏(60)が新たにキャスターに就任。膳場貴子キャスターも同番組を卒業し、駒田健吾(41)、皆川玲奈(24)両アナウンサーが加わる。

リニューアルにより、ストレートニュースを数多くラインアップするスタイルから卒業。その日起きたニュースを厳選してより深く、解説パートに力を入れる。この変革において白羽の矢が立ったのが、政治記者としての豊富な経験を持ち、易しい言葉でニュースを伝える語り口に定評のある星氏。このたび、自身の経験をどのように生かし、どのような番組を目指していくのか、本人に話を聞いた。

――はじめに、『NEW23』のキャスターを打診された時の心境を教えてください。

37年間、朝日新聞で記者として原稿を書くのが仕事だったので、テレビも時々は出てはいましたが、どうしようかと思いました。朝日新聞は60歳が定年で、私は昨年7月に60歳を迎えましたが定年が延期になっていて、ちょうど定年の問題と自分の第二の人生を考えていたところでした。そして、まだ体力もあるので、新しい分野にチャレンジしてみようということで決断しました。

また、この番組の原点であり、朝日新聞の政治部の大先輩でもある筑紫哲也さんのことが最初に頭に浮かびました。年で言うと20歳先輩になりますが、筑紫さんも朝日新聞の政治部で長く取材をされ、ワシントンの特派員を経験したというのも共通点で、重なるところが多くあるんです。いろんなところで一緒になりましたし、お酒も飲んだりしましたし、その筑紫さんが切り開いた道を担当できるのもいいなと思いました。

そして、世の中が難しい時代になっていて、安全保障の法律ができたり、アベノミクスで景気は一時的には良くなったように見えるけど格差が広がっていたり、保育園の待機児童の問題、社会保障の問題、若い世代の将来不安の問題など、さまざまな問題があります。そういった難しいテーマを、政治記者の経験を生かして解説し伝えることができたら、ジャーナリストとしてやりがいがあると思い決めました。

――筑紫さんと同じ道ということですが、『筑紫哲也 NEWS23』時代の筑紫さんを見て、ここは学ぶべきとだと思うところはありますか?

筑紫さんのテレビはもちろん見ていましたし、見ていただけでなく何回か出演させてもらったこともあるんです。筑紫さんの司会で政局の対談などがあり、筑紫さんに言われて『NEWS23』で政治の話をしました。筑紫さんは洒脱な人で、趣味の幅も広く、番組の進め方もセンスが良く、まねできるかというと簡単ではないと思います。筑紫さんはいい意味で自由人。権力に対して厳しいことを言う時はビシッと言うけど、賛成も反対もいろんな議論を紹介して、多くの事を争う論という"多事争論"とよく言っていましたが、そのようにいろんな議論を柔軟に紹介するというのは非常に学ぶべきところだと思っています。

――星さんというと、テレビ朝日の『報道ステーション』に出演されていたイメージが強いです。あの経験がとても生かされるのかなと思いますが、いかがでしょうか。

テレビ出演というところでいうと、13、4年前に田原総一朗さんの質問に答えるというところからスタートしました。田原さんは突然いろんなことを質問するんです。そして、『報道ステーション』に私が出ていた時は、政治がものすごく激動する時で、自民党で小泉政権が出てきて終わって、そこから自民党の総理大臣が短期間で変わったり、民主党に政権交代したり。突然夜になって呼び出されてスタジオに入り、ほとんど台本もないまま古館さんの質問に答えるということがしょっちゅうあったので、鍛えられたかなと思います。

新聞記者の後輩によく言う好きな言葉があるんです。それは「Are you ready?」の"ready"の名詞形"readiness(レディネス)"。これは「準備できている」という意味で、ジャーナリストはいつも"readiness"がないとダメなんだと。何かあった時にすぐ自分の意見を言えるようにしていないといけない。その心がけが必要だと思っています。

――記者時代からずっと大切にされてきたのですか?

そうですね。私の大先輩に言われた言葉なんです。政治記者をやるからには、自分の政局観…明日、来週、来月、来年、10年後、世の中がどうなっていくのか自分なりに頭で考えて毎日更新していくのが僕たちの仕事であり、いつ何を聞かれてもしっかり意見を言えるように"readiness"を持つことが大事なんだと。

●政治権力に対するメディアの役割
――今回の『NEWS23』のリニューアルに関して、番組はズバリどう変わりますか?

私は私のできる範囲でやるしかないですが、元気の良さは出したいです。また、夜11時からの番組ですから、家に帰ってビールでも飲んで寝るかっていう環境の人が多いと思うんです。1日いろんなことがあり、つらいこともあったけど、明日いい日が来ますようにとみんな思っている。そういう視聴者の方たちの気持ちにフィットするような番組にしたいですね。

――星さんならではのキャスター、目指すキャスター像を教えてください。

日本の平和がどうなるのか、格差がどうなるのか、若い人がどうなるのか、難しい問題をきちんとやっていかないといけないですし、権力との向き合い方についても厳しい姿勢で対応しないといけないと思っています。30年政治記者をやってきて日本の政治権力がいかに強大でしたたかで手ごわいかということは、私なりに知っているので、その政治権力としっかりと向き合っていきたいです。その前提として、報道番組ですから、きちんと事実関係をおさえて、それに基づいて説得力のある議論をしないといけません。若い方から年配の方まで、多くの人が理解できる、納得してくれるような議論の展開、事実の展開を基本として心がけたいと思います。

――政治権力としっかり向き合うとのことですが、メディアの政治権力に対する役割をどのように考えていますか?

まず大前提としてあるのは、この民主主義社会の中でも政治権力は圧倒的に強いということ。今、安倍(晋三)さんがトップになっている自民党政権というものは、権力を持っていてお金を持っていて、自分たちが発信する力もある。黙っていると権力は強大になっていきますから、それをチェックする機関がないと暴走する可能性があります。番組では賛成反対と平等に扱うべきという意見がありますが、ある問題について政権与党側と野党の意見が分かれた時に、番組で平等に扱っていると、政権の力は圧倒的に強いので与党側が優位になるわけです。ですから、そこは少し厳しめに、権力に対して目を光らせていくということをやっていかないといけません。

だからといって、ただ批判すればいいということでは、世の中の人たちも納得してくれないと思います。例えば、保育園が足りないということに対して、お金をたくさん使えばいいと言うだけではなく、どういうスケジュールでどういう財源を使ってやるのかという現実的な議論が必要です。単純なる批判ではなく、どんなやり方があるのか、みんなで一緒に考える材料を提供していく。そういったことがメディアには求められていると思います。

――これまでも『NEWS23』は、しっかり政権に対して意見していくという印象がありましたが、やはりメディアとして大切なところなんですね。

そうですね。今までのいいところは引き継いでいきたいと思います。もちろん、その前提となるのは正しい事実ですから、それをしっかり伝えた上で、批判すべきことはきちんと批判していくということですね。よく、メディアが畏縮しているとか、自主規制しているとか言われますが、少なくとも私は、37年間新聞社にいて、自分が自主規制したり萎縮したりしていると考えたことは一度もありません。そのスタンスはこれからも保っていきたいと思います。

――新聞からテレビへと移られますが、新聞とテレビの役割の違いについてはどう考えていますか?

テレビは映像の強みが圧倒的で、これは新聞のかなわないところです。一方で、テレビがまだ弱く新聞がやや優位性を持っていると感じるのは、人権や環境、財政赤字といった、あまり見えないけど大事な抽象度の高い問題。新聞は伝えているんだけれども、残念ながら影響力が下がっていて、逆にテレビは影響力が強くても、抽象度の高い問題についてもう少し頑張らないといけないと考えています。

最近だと、金銭授受問題で辞任した甘利明前経済再生担当大臣の会見は、どう見ても論理的に破たんしていました。政治と金の問題からすると相当悪質な問題ですが、テレビではなんとなく乗り切ったという印象になってしまった。これはやはり映像が強いと思います。その印象に流されて、大臣という権限を使ってお金をもらった行為は相当問題があるということを伝えきれていなかった。新聞も十分に指摘しきれていなかったですが…。テレビは雰囲気に流されないで伝えないといけないし、新聞も本当に問題だという点をしっかり整理して伝える必要がある。お互いに切磋琢磨して頑張っていかないといけないと思います。

――各局の夜の報道番組の争いというところも注目されています。特に今回、同時期に『NEWS23』は岸井さんから星さんへ、『報道ステーション』は古舘さんから富川悠太アナウンサーへバトンタッチするということで、それぞれどうなっていくのか気になっている人が多いと思います。

注目されるというのは、いいことですね。降板される古舘さんとは、一緒に番組に出たり意見交換したり、いろいろと話をさせてもらったこともありますが、古舘さんと私は役割が違うというのもありますし、私が古舘さんみたいにトークでやれと言われても無理な話です。逆に自分の得意なところ、自分の持ち味を発揮するしかないと思っています。

――持ち味というのは、新聞記者としての長年の経験ということですね。

そうですね。それ以外にありませんから、プロとしてしっかりとした商品を見せていかないといけないと思っています。もう一つ、スポーツに興味があるので、そこはいろいろできるかなと思っています。私自身やっていたのはサッカーですが、相撲もラグビーもテニスも観戦するのは好きです。この番組では、スポーツにも関わっていきたいですね。

●番組で追っかけていきたい関心のあるニュース
――番組で追っかけていきたいと考えている、最近関心のあるニュースを教えてください。

今年はいろんなニュースが予定されています。アメリカの大統領選挙、北朝鮮の動き、日本でも衆議院選挙がありますし、場合によっては解散総選挙になるかもしれない、そんな大事な年になります。また、私が長い目で見ているものとすると、保育園の待機児童の問題や、日本の将来と若い世代の不安といった、次の世代の問題に関心があります。その背景にある格差や貧困の問題も含めて。

――話は変わりますが、星さんはお休みの日は何をされていますか?

休日は家でグダグダしたり、女房と散歩に行ったりしています。あと、1歳半の孫に癒やされていますね。たまに自分で料理を作ることもあります。料理は楽しいです。

――料理されるんですね。得意料理は何ですか?

ぶり大根です。おいしいですよ! 料理は、普段使っている脳みそとは違うところを使うから、そういう意味でもいいみたいですね。

――意外な一面でした! 最後に、3月28日から楽しみにしている視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。

いろいろ理屈は抜きにして、番組を見て楽しかったなとか、勉強になったなとか、終わってからそういう気持ちになってもらえたらうれしいです。世の中、暗いニュースが多いですが、いいところもあるんだって思えるニュースもあるといいですね。ニュースというのはなかなか人を褒めませんが、そういうことも時々やった方がいいかなと思っています。

■プロフィール
星浩
1955年、福島県生まれ。東京大学教養学部卒業後、1979年4月に朝日新聞社に入社。主に、政治部記者として日本の政治や外交を取材。『NEWS23 』キャスター就任により、朝日新聞社退社へ。『激論!クロスファイア』(BS朝日)、『報道ステーション』(テレビ朝日)など、数々のテレビ番組でコメンテーターとしても活躍。

(酒井青子)