オフィシャル誌編集長のミラン便り2015〜2016(23)

 思い起こせば今シーズン前半、第7節でミランがナポリと対戦した翌日、ミラネッロには暗雲が垂れ込めていた。ミランはサン・シーロでナポリに0−4の大敗を喫してしまったのである。ミハイロヴィッチの進退が取り沙汰され、選手たちはバラバラ。一つのチームと呼ぶには程遠い状態だった。

 しかし、この大敗はある意味ミランの分岐点となった。ミハイロヴィッチはこの結果を見て、すべてを早急に変えなければいけないことを理解した。さもなければ2014〜2015の二の舞になることがわかったからだ。そしてシステムをクラシカルな4−4−2に変更すると、ミランは試合を重ねるごとに自分たちのサッカーを取り戻していった。

 月曜の夜、ミランは今度はナポリのサン・パオロ・スタジアムでプレーした。結果は1−1。勝利こそできなかったものの、この試合でミランはシーズンファイナルに向けてのダークホースであることを証明した。おまけにこれからの5試合は相手に恵まれている。一時は不可能な目標と思われていた3位入り、つまりチャンピオンズリーグ出場圏内入りに向けてミランは全力で頑張ることだろう。

 前節ユベントスとの直接対決で首位を明け渡してしまったナポリは、今節ユベントスが引き分けたチャンスを逃すまいと、首位奪還を目指し必死で戦っていた。しかしミランは、先週のユベントスが対ナポリの戦略としてとったのと同様、コンパクトで堅い守備でナポリに対峙した。それでもナポリは実に19回もゴールに向けてシュートを放ったが、本当に危険だったシュートは片手でも数えられるほどだった。

 この試合で引き分けたことでミランは実に3年ぶりに、ナポリホームで勝ち点を得たことになる。最後に勝ち点をあげたのは2012年の11月、2−2で引き分けた試合だった。

 偉大なチームは偉大な守備から生まれるとも言われるが、実際この日のミランのディフェンスは完璧だった。アレッシオ・ロマニョーリを欠いていたにもかかわらず、ブラジル人のアレックスとコロンビア人のクリスティアン・サパタは無敵で、現在セリエAの得点王ゴンサロ・イグアインも彼らを越えることはできなかった。

 また、ナポリの中盤はおそらく現在リーグ最強であるが、ミランの中盤もそれに負けないほどの活躍を見せていた。特にキャプテン、リカルド・モントリーヴォはチームを率いるにふさわしいプレーを見せた。今季、彼がこれまでボールを取り戻した回数は236。なんとこれはヨーロッパ各国リーグの中でも最多の記録である。

 サイドのコンビ、右のイグナツィオ・アバーテ−本田圭佑と左のルカ・アントネッリ−ジャコモ・ボナヴェントゥーラは守備においても攻撃においてもミランの大きな力となった。

 唯一残念だった点はトップの2人だ。カルロス・バッカとムバイ・ニアングはこれまでの試合に比べると、シュートチャンスを作ることができなかった。ゴール前での危険なプレーはほとんどなかったと言える。ミハイロヴィッチは今後この点を集中的に改善する必要があるだろう。

 さて、我らが本田圭佑だが、この試合でも波に乗っていることを証明した。ボナヴェントゥーラのゴールは彼の見事なクロスから生まれたものだった。本田が特に優れているのは守備と安定した効率的プレーだ。数週間前に彼自身が認めたように、本田はスピードでサイドの敵を抜ける選手ではない。しかし彼の巧みなドリブルと先を読んだ動きはミランの基礎となっている。

 今、ミランが何より際立っているのは、ピッチで見せるその熱い闘志だ。ミハイロヴィッチのキャラクターにチーム自身が似てきているのかもしれない。

 次の試合は土曜日、トリノと対戦する。こうなったらもう勝利すること以外は認められない。好調のチームを満杯のサン・シーロが迎えることを心から願う。今のミランは決してスペクタクルではないが、サポーターから満場の拍手を贈られるにふさわしいハートを持っているからだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko