ボールを持てば攻撃のスイッチを入れた柏木。ただ中心選手として、より細部にこだわる時期を迎えているようだ。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 Jリーグ・チャンピオンシップ準決勝の浦和-G大阪戦は、延長後半のアディショナルタイム、遠藤のFKからパトリックが3点目をねじ込み、試合を決定づけた。
 
 なぜ、パトリックがフリーで抜け出せたのか。
 
 ゴール前のペナルティエリア付近、浦和の選手は右から平川、森脇、阿部、柏木、関根という順に並んでいた。すると柏木は関根に、サイドに残っていたパトリックのマークにつくように言った。
 
 パトリックを関根に任せる。相手の一番大柄な選手に、一番小柄な選手がマークにつく。しかも関根は足が攣り、全力で走れない状態にあった。明らかなマーカーのミスマッチが起きていた。
 
 しかも、パトリックはより狡猾だった。関根からそっと離れ、遠藤の足下にセットされたボールだけを見る“ボールウォッチャー”になっていた柏木の「背中」を取って加速。柏木に気付かれずにまんまと浦和の最終ラインを突破し、遠藤からの正確なキックを受けたのだ。
 
 阿部や森脇がその状況に気付いてマークにつくか、せめて柏木がマークについても良かっただろう。柏木はパトリックの動きにも細心の注意を払わなければならなかった。そもそも、本来ストッパーである槙野が攻撃参加し、相手エースの守備を関根に任せていたチームとしての判断にも問題があったと言えた。
 
 昨季33節の鳥栖戦の後半アディショナルタイム、GK林が前線に上がってきたことでマークが曖昧になり、CKから小林にヘッドで同点弾を食らった(スコアは1-1)、「あの時」と共通する過ちが、またも繰り返されたのだ。チームの中心である阿部や柏木、そしてペトロヴィッチ監督がそういった勝負の細部に目を向けなければ、やはりこうした大一番をモノにはできないということなのだろう。第1ステージの快進撃は素晴らしく、一段と攻撃の魅力の増した試合も多くあった。だが結局、今季も勝つべき試合を落としてきた印象のほうが強く残った。
 
 してやったりのG大阪の遠藤は次のように明かしていた。
 
「我慢のサッカーが、ガンバのサッカー。最後は、浦和の集中が切れていた。ボールをキープしようかと思っていたところで、パト(パトリック)がフリーになった」
 
 
 また後半開始直後の47分、G大阪の先制点は、那須から森脇へのパスをインターセプトされて決められた。そのミスパスが致命傷を招いたわけだが、今野の飛び出してきたスペースをカバーし切れなかったのが柏木だった。
 
 浦和の3-4-2-1システムは、3バックの誰かが前に出た際、最終ラインにボランチ(阿部)が加わり補完することで成り立つ。昨季途中までボランチのレギュラーを務めた鈴木も、そのCBを兼任する“ミシャ流ボランチ”の役割をシステマチックにこなしていた。
 
 ただ、今回の先制点の時のように、常に阿部が戻り切れるわけではない。柏木がスペースを埋めたほうが効率の良いケースもある。
 
 シーズン終盤の浦和は、攻撃の迫力が増した一方、その「阿部が戻れない時の守備」など、いくつかの課題が改善されないまま失点を重ねた。バイタルエリアがフワッとがら空きになり突かれる――という展開が目についた。9月19日の第2ステージ11節・清水戦から今回のG大阪戦まで、9試合連続失点中である。その守備では頂点には立てないという現実を突き付けられた。
 
「良いサッカーができていて、ヒガシ(東口)が当たっていたなと思う。ただ後半の終盤、逆にチャンスを作れたので、そこで決め切れない勝負弱さはあった気がする」
 
 G大阪戦後、柏木は声を振り絞るように、そう振り返った。