2015年9月に発表されたiPhone 6s/iPhone 6s Plusには、ディスプレイを押さえる指の圧力を感知するという新たなテクノロジー「3D Touch」が搭載されています。従来の「タテヨコ」に加え、「奥行き」でも操作ができるようになる3D Touchの技術は、5年にも及ぶ開発の完成形として実用化されるに至っているようです。

How Apple Built 3D Touch

http://www.bloomberg.com/features/2015-how-apple-built-3d-touch-iphone-6s/

かつてAppleでインタラクション関連のデザイナーを務めていたAvi Cieplinski氏はTwitterで「Appleで5年にわたって仕事をしてきた完成品が届いた。実際に3D Touchを使っているなんて信じられない」と語っています。Cieplinski氏はAppleが取得した特許の発明者として名を連ねている人物です。

This morning I received the end product of 5 years of work at Apple. Can't believe I'm really 3D Touching it. :) pic.twitter.com/pHRoEvi1nC— Avi Cieplinski (@sf_avi) 2015, 9月 25

3D Touchを使うと各アプリでよく使う機能へ直接アクセスできるようになるほか、従来は成し得なかった新しいレベルの操作がいろいろと可能になります。以下の記事では、3D Touchでどのような操作が可能なのかを把握することができます。

iPhone 6sで新たに搭載された「3D Touch」はこうやって使うよレビュー - GIGAZINE



Appleでユーザーインターフェイスのデザイン責任者を務めるアラン・ダイ氏が「私たちの商品を使うユーザーには『これは欠かせないものだ』と感じながら製品を使ってほしい」と語るように、Appleでは単に新しい技術を盛り込むだけではなく、それによって実現される新たなユーザーエクスペリエンスに注力した製品作りが行われているとのこと。同じくAppleでワールドワイドのプロダクトマーケティングを担当するフィル・シラー上級副社長も「単に『昨年よりも能力が5%向上しました』というだけでは、誰も耳を傾けてくれません」と語ります。

シラー上級副社長は3D Touchを「ブレイクスルー」と捉えており、新たな体験を提供するためには不可欠の存在と考えていたとのこと。しかし、その実現を「とてつもなく困難だった」と振り返っています。特に、実際にどの程度浸透するか保証のない技術の開発に時間とマンパワーをつぎ込むことは容易ではなかったようで、「誰も使ってくれないかもしれない機能にとてつもないコストと投資を行った結果として、2年にも及ぶ開発期間が無駄になる可能性もありました。華々しく発表した機能でも、単に物珍しいだけの『デモ機能』のような状態になって誰も使わないようになるのであれば、これは開発能力の無駄遣いとなってしまいます」と語っています。

Appleでは、個別のデザインプロジェクトについて明確な開始時期と締め切り時期は特に定められないそうで、あるプロジェクトが結果的に間違った方向に進んで失敗に終わってしまうことも珍しくはないとのこと。そのため、社内でもいつ3D Touchが具体的に始まったのかを把握している人物はいないそうです。その代わり、社内では「あるアプリから別のアプリへとスワイプして移動する際に、わざわざホーム画面に戻る必要がなくなったとしたら?その代わりに、画面をグッと押すだけでショートカットが表示されたら?そして、力の入れ方を端末が感知して、ユーザーが『意図するもの』をくみ取れるようになったら?」といった問いかけが常に交わされているといいます。



iPhone 6s/6s Plusに搭載された3D Touchは、ディスプレイの下に96個ものセンサーを埋め込むことでユーザーの操作や「意図」を感知する仕組みが取り入れられているとのこと。各センサーはディスプレイを照らすバックライトと統合された構造になっており、この方式の実現には全く新しい考え方が必要になったとのことで、Appleではガラスメーカー「コーニング」との協力のもとで開発を進めてきたそうです。



Appleで「チーフ・デザイン・オフィサー」の役職に就くジョニー・アイブ氏は、ユーザーエクスペリエンスを向上させる3D Touchの技術そのものに誇りを持っていることに加え、このような技術を開発してきたAppleそのものにも高い誇りを持っているとのこと。新しい体験を実現する技術を開発した考え方についてアイブ氏は「ボタンを一つ追加すれば簡単に実現できるのに、どうしてAppleは3D Touchの開発に何年もの時間をかけてきたのか?それは、コンテンツに対してより密接につながるという体験のためです。世界は『0と1』のバイナリデータのようなものではないでしょう?」と語っています。