応募数が8倍に!? データと現場の声を組み合わせた人事採用改革

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 いま日本社会は、世界に類を見ないほどの早さで少子高齢化が進んでいます。またその一方、帝国データバンクが2015年に実施した調査で、約4割にものぼる企業が人手不足と回答しているように、すでに少子高齢化による労働人口の減少が企業の採用現場に影響を与えはじめています。
 『潜在ワーカーが日本を豊かにする』『時代を勝ち抜く人材採用』(ともにダイヤモンド社/刊)の著者である武井繁さんは、日本がこれから人手不足を乗りきるためのキーワードとして、「潜在ワーカー」と「フレックス雇用」という言葉をあげています。
 今回、新刊JP編集部は武井さんにインタビューをおこない、これらの言葉が具体的にどのようなものを指すのか、また企業の採用現場でどのような変化が起きているのかをうかがいました。(インタビュー・構成:神知典)

――『時代を勝ち抜く人材採用』では「考える」「集める」「選ばれる」「活かす」という4つのフェーズに分けて、人材採用のあるべき姿について論じられていますが、あえて優先順位をつけると、どのフェーズが重要なのでしょうか?

武井:「考える」フェーズが特に重要だと思います。なぜなら「集める」「選ばれる」「活かす」の前提となる外部環境が、ここ数年で劇的に変わってしまったからです。
実際、弊社がお手伝いさせていただく案件でも、クライアント企業の戦略をどう再構築するか、採用のターゲットをどうするかといった話をさせていただくことが増えています。

――そうして決まった戦略を現場で実行する際、どのような点で苦労しましたか?

武井:苦労ではありませんが、現場で働く皆さんの賛同を得ることが非常に重要だと考えています。まずは現場の方々に事実をしっかり伝えることを重視します。導入をいただく企業様の各店舗経営者やオーナー様に出席をいただき、相互理解に努めるため、全国複数の拠点で「勉強会」を開催します。現場レベルで陥りがちな採用プロセスの問題点や課題を映像とともに紹介すると同時に、十分な質疑応答の機会もう設けることで、納得感のある状況まで昇華をしていただきます。そうしませんと、実際にシステムを使っていくことには繋がらないものだと考えています。

――勉強会を機能させるために、具体的にはどのような工夫をしたのでしょうか?

武井:各現場責任者の皆様に自分の問題として話を聞いてもらえるよう工夫を凝らしました。たとえば、各都道府県レベルで、日本全体の人口動態データとの比較をお見せします。「全国平均と、こちらのエリアの世帯数を比較すると、どれくらい差があるのか」「こちらのエリアには、A大学とB大学があって、それぞれの外国人留学生は何人いる」といった形でお伝えをしていきます。エリアを可能な限り絞って話すことで、現場の方にも身近な話題だと感じていただけたと思います。

――本のなかでは、さらに踏み込んで現場が抱える課題を見つけて解決していくプロセスも紹介されていました。コールセンターの活用もその一つだと。

武井:応募者のとり逃しを防ぐためコールセンター新設の提案もしています。コールセンターでは「3コール以内で受話器を取る」ことを徹底した結果、応募者数は8倍にまで伸びたという実例もあります。

――他にも、独自調査や現場へのヒアリングにより課題を見つけていった例はありますか?

武井:ミキハウスブランドを展開する三起商行さんの例でしょうか。同社は元々、電話で採用の応募を受け、必要なデータを手書きで紙に「正」で記録し、数字を出していたため、データ集計に莫大なコストがかかっていました。そこで弊社が運営する採用管理システム「リクオプ」というサービスを提案させていただきました。

――データベースでの集計・分析に移行したことで、どのような発見・改善があったのでしょうか?

武井:2014年と2015年の応募数を比較したところ、1.5倍に伸びていたにもかかわらず、面接の参加率は10ポイント下がっていたことが分かりました。このデータから「参加率が下がったのは、面接日程の設定の仕方などに問題があるのではないか」と仮説を立て、現場にヒアリングをおこなったそうです。すると、現場の採用担当者からは「面接官の日程が見えないので設定しにくい」という声があがりました。つまり画面設定が遅れたために、面接の参加率が下がっているということが、システム上の数値をきっかけに分かったとうかがいました。最終的には、面接官の空いている日程が分かり次第すぐに採用担当者に連絡するという改善に繋げられています。

――お話をうかがっていると、「良さそうなものは貪欲に取り入れる」姿勢が高業績に結びつくと言えるように感じます。

武井:それはあると思います。業界1位、2位の企業さんほど、人材採用の改革に積極的だという実感がありますね。

――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

武井:企業の方であれば、本書を参考に潜在ワーカーの力を柔軟に活かしていただきたいですし、逆に個人の方であれば、「皆さんが輝ける場所は、想像以上に沢山ありますよ」ということをお伝えしたいですね。
また両者に共通してお伝えしたいことでいえば、勇気をもって一歩を踏み出していただきたいです。

(了)