渋谷区はギャル語 「もし東京23区が自分語りをしたら?」を描いた本

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東京出身なのに、東京のことを意外と知らない。筆者自身そうですが、そういう方、多いのではないでしょうか?
作家・エッセイストとして活躍中の山内マリコさんが「東京新聞ほっとWeb」で連載していた短編小説をまとめた著書『東京23話』(ポプラ社)を読んで、改めてそう思い、そして東京の魅力を再発見しました。



東京23区が「自分語り」をする


著者の山内さんはデビュー以来、「地方在住女性」のリアルな感覚を描き、若い女性を中心に多くの支持を得てきた方。今回はそのタイトル通り、東京23区について書かれているのですが、何よりユニークなのは、東京23区それぞれがひとつの人格を持ち、歴史や街の様子、そこで生まれたドラマなどのマイストーリーを一人称という手法で語っているところです。

たとえば、渋谷区がギャル語で恋文横丁の成り立ちを語ったり、千代田区がビートルズ来日の様子を感慨深げに語ったり、新宿区では超高層ビル街の第一号である京王プラザホテルが、その地の変遷を、ホテルらしくかしこまった口調で語ったり……。


本書の帯の推薦文に「わかる…!! 23区がしゃべり出したら、絶対こんな感じ。ジェーン・スー(文京区出身)」とあるのですが、まさに、語り口調も区それぞれハマっていて、思わずクスリとさせられてしまうのです。

富山出身なので最初はちょっと心配だった


もともと富山県出身という山内さん。今回は都内の各区をテーマに、あとは制約なしの小説という依頼を受けて書き始めたとのことですが、東京をテーマに書くのはどんな気持ちだったのでしょう。早速、山内さんに取材し、本書についていろいろ聞いてみました。 

――まず、一人称で語る形式がとてもユニークですが、思いついたきっかけなどはあるのでしょうか?

「中国の小説家イーユン・リーの『千年の祈り』という短編集の中に、街そのものを語り手にした作品があって、すごくいいなぁと記憶に残っていました。東京の23区をテーマに……とお題を出された瞬間、その小説を思い出して、わたしも街を主人公に、語り手にしてみようと思いついたんです」

――山内さんは富山県のご出身で、現在は上京されてらっしゃいますが、東京について書くにあたって抵抗などありませんでしたか? 

「自分の住んでいるエリアくらいしかろくに知らないし、私が書いたら知ったかぶりって思われないかと、ちょっと心配しました。でも第1話の千代田区でビートルズ来日の話がアップされたとき一瞬バズって(笑)、『イケる!』と自信になりました」



書くことで変わった東京への意識


――山内さんにとって、東京とはどんな場所ですか? 23区の特徴を調べる前と後で、東京の印象は変わりましたか?

「東京は、いろんな人を受け入れてくれる街。オープンで、自由な空気があって、すごく居心地がいいです。地方の人って、『東京は住むところじゃない』と言いがちなのですが、23区を調べたことで、東京に対してぐっと地元意識がわきました。どの区にも、その街を愛する、そこで生まれ育った人がいると思うと、手が抜けないです」

たしかに、本書を読んで、自分の住んでいる区はもちろんのこと、ほとんど知らなかった区についても、ぐっと身近に感じることができて、行ってみたいなと思うほどに。23区それぞれに描かれている“キャラ”的な部分も本当に絶妙なのです。

ネタに困った足立区


――ところで23区の中で、キャラがつかみにくかった区はありますか?  

「このスタイルで書きはじめたときから、「後半絶対ネタに困るよ」といろんな人にいわれてたんです。『足立区とかどうすんの?』と。その足立区の超重要人物である北野武さんを台東区で出してしまったのは大誤算でしたね……。その代わり、お兄さんである北野大さんの足立区についてのインタビューがすごく良くて、そこから広げました。書きやすかったのは渋谷区ですね。ほかの区はわりと年食ってる感じの語り口なんですけど、渋谷区は当然、活きのいいギャル一択で。Twitterでは『渋谷区すげー適当で笑える』みたいな感想もありました(笑)」

筆者も台東区を読みはじめて、北野武さんが出てきたときに浮かんだのが足立区。ここで出てきたということは、足立区はどうなるんだろう……と思いながら、やがて足立区を読んでみると、なるほど〜と、繋がる面白さもあり。とにかく、23区それぞれのエピソードに笑いや涙が詰まっていて、東京出身の人も、そうでない人も楽しめるはず。

最後に、山内さんから読者に向けてこんなメッセージをいただきました。

「東京のちょっとした歴史物、雑学的な読み物として、軽い気持ちで楽しんでもらえればうれしいです。フィクションに興味がない人にも、面白く読んでもらえるんじゃないかと思います。巻末に23区すべてを網羅した、イラスト満載の『東京地図案内』があるので、そこもぜひ読んでもらいたいです。あと、物語を補足する意味で、ネットで画像検索するのもおすすめ! ホテルを抜け出したポール・マッカートニーの写真とか、普通に出てくるので(笑)。どんどん検索して『へぇ〜』とかいいながら、読み進めていってもらえればと思います」


山内さんもおっしゃるように、楽しく読みながら、たくさんの「へぇ〜」を体験できる、そんな一冊です!
(田辺 香)