竹皮で包んだおにぎり

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美味しそうな料理本は眺めているだけでも楽しい。何時間でも読んでいられる。
そして、美味しいものを作る道具も眺めているだけでも楽しい。味を想像したり、その道具を使って料理をすることを想像して幸せな気持ちになってくる。

カラフルなキッチングッズやモダンな新製品も良いのだが、日本の昔ながらの道具は人間が何十年、何百年と使ってきたのだという味わいや魅力があって最近特に気になっている。そんな私が出会った本は『日本橋木屋 ごはんと暮らしの道具 十二ケ月の小さなならわし』だ。
本書は刃物や生活道具を扱う1792年創業の老舗、日本橋・木屋が監修している。

装丁が可愛くて、温かみのある写真やイラストが豊富で道具にまつわる多彩なエピソードも面白く、これまた何度でも読んでいて楽しい料理道具の本である。
4月は菜切包丁、銅製のおろし金、お箸の使い分け。5月はおにぎりを包む竹皮、まな板の選び方といったように、昔から現代まで、日本に息づいているごはんを美味しくする道具、知恵を月別で紹介している。

読んでいるとあれもこれも欲しくなる。日本の行事や日々の変化に大事に寄り添うような暮らしの道具はなんとも美しくて、やましいところが無くて、なんだか雑事に追われたせかせかした心が浄化されていくような気分だ。

日本の美しい道具がうまく使われていない


1969年に木屋に入社し、現在は企画総務部長を務めている石田克由さんに、本書の出版のきっかけについてお話を伺うことができた。

「二見書房から熱心に書籍にしないかという依頼があったのがきっかけですが、最初は本を作るつもりはありませんでした。しかし、日本の美しい道具がなかなかうまく使われていないとずっと感じておりました。みなさん本当は子どもの頃から知っている道具なのに、扱い方がわかっていない。木製品なんだから当然カビが生えることもあるし、鉄製品なんだから当然、赤錆が出ることもある。その当然のことをうまく理解して、いい道具ともっと向き合ってほしい。こんなにいいものだから、もっともっとうまくつきあうと楽しいですよ、ということを少しでも伝えられたらと思い、出版に協力させていただこうと思いました」

本書を読むと、なんでも簡単にできる最近のキッチン道具より、昔ながらの道具を使うほうが、生活が楽しくなりそうに思えてくる。

眺めているだけで楽しくなるように編集も工夫


ページ下部に書かれている小さな参照図やちょっとした短いエピソードも面白く、四月の小鳥や六月の傘など月と月の間に入っているイラストもとてもお洒落。
編集した際のこだわりを、担当の千田さんに伺ってみた。

「どうしても日本の台所道具は扱いが難しいという印象を持ってしまいがちですが、木屋さんのお話を聞いていると、もっと身近に思えるのです。そもそも日本の台所道具が使われなくなったのは戦後数十年のことで、使っていた時代の方が長いし、それだけの利点があるし、道具で気分をハッピーにするならわしもいっぱい残っています。何百年何千年受け継がれたこれらを『なんとなくめんどくさそう』という理由で捨ててしまうのはもったいないと思い、眺めているだけで楽しくなるような本作りを心がけました」

編集担当が感動したおすすめの道具


道具にまつわるゲン担ぎも、本書にはたくさん載っている。読んでいてなんとなく気持ちが良いのはそれもあるのかもしれない。さらに、千田さんに欲しいと思った(もしくは実際に購入した)道具を聞いてみた。

「和包丁、刺身包丁、薄刃包丁などは本当に切れ味が気持ちよくて感動しますよ! 角が立っている刺身を自分の家でもつくることが出来るので、安い魚でも美味しさが違います!! 料理研究家など、冷凍ご飯や冷ご飯をあたためるために、せいろを使う人が増えていますが、木屋さんに『せいろはご飯を一番美味しくあたためる道具、おひつはご飯を一番美味しく食べるための道具』と言われたときは、おひつやせいろの進化形として、保温ジャーや電子レンジがあると思い込んでいたので、びっくりしました。実際に使ってみたところ、本当にご飯の美味しさが違いました」

むくむくと、ごはんをせいろであたためたい欲が湧いてきたので、先日、日本橋の木屋本店に行ってみた。
ちょっと緊張して行ったのだが、たくさんの本格的な美しい道具が並んでいてとても楽しかった。外国の方が、包丁について熱心に木屋のスタッフに質問しているのを見て、きっとこれは凄い道具なのだなと興味深かった。

日本の道具のある暮らしをすれば、人をおもてなしするのもきっと楽しくなるだろう。
最後に、本書を読まれる方におすすめしたいポイントを伺った。

「包丁、箸、まな板、おろし金、土鍋、外輪鍋などなど、みなさん知っている道具なのに知らないことがいっぱい書いてあって面白いです。読むだけでも見るだけでも楽しい本なので、ぜひ手に取ってご覧ください」

食べることが好きな方や、今の生活から気分をちょっと変えたいという方は、ぜひ読んでみてこの味わい深い道具の世界にハマっていただきたい。(鎌戸あい/boox)