冷蔵庫いらずの、軽くてヘルシーな”未来食”乾物。しかし生産者も減っており、中には「絶滅危惧種」ともいえるものもある。

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何かと穏やかでないニュースが飛び交う昨今、色々な人が色々な形で世界の平和を祈っていますが、なんと乾物で世界に平和を!と説く人たちがいます。

その名もDRYandPEACE。
乾物で世界平和とはネタなのかと思いきや、これが大真面目なのです。

「そもそもは3.11の時に遡ります。震災後の計画停電の時にスーパーに立ち寄ったら、食料品はほとんどなくなっていたのに、乾物だけたくさん残っていたのを見てがく然としたんです。本来ならそういう非常時に活躍する食べ物であるにも関わらず、日本の大切な食文化である乾物の食べ方をみんなが忘れてしまったのではないかという危機感を持ったのがきっかけです」

お話ししてくださったのは、一般社団法有人DRYandPEACEのサカイ優佳子さんと田平恵美さん。

実はお二人、以前から食の探偵団という食育ワークショップを開催していました。このワークショップは栄養学とレシピいう観点にとどまらないで食を考えるというもの。

「従来の食育は栄養の知識や調理方法の伝授で終わってしまっていました。でもテーブルの上のこと以外にも考えなければいけないことが食にはたくさんあると思っています。美味しさとか栄養だけを論じていては、生産者不足や価格の崩れによって食べられるはずのものが食べられなくなってしまうということもおきかねません。食卓から社会を見るという視点がとても大事なのではないかと思います」(サカイさん)

あらためて乾物の特徴とは?


それでは、乾物とは社会的にはどういう食物なのでしょうか?
「まずとてもエコな食材です。常温保存が効くので冷蔵庫をいっぱいにすることもありません。軽いのでお買い物も楽ですし、流通過程でのCO2の削減にも役立ちます。野菜なら切ってあるし、皮も剥いてあるので下ごしらえも楽ですし、生ごみも出しません。形が悪くて潰されてしまうような農作物で作ることができます。サステナブル(持続可能)な社会に最適なこれからの世界の未来食といっていいと思います」(サカイさん)

なるほど! そういわれるといい事ずくめのように思えます。しかも、乾物は元来日本の大切な食文化。欧米では乾物といっても、ポルチーニ茸かドライフルーツくらいしかないというのに対し、日本をはじめとしたアジアでは、干しシイタケ、昆布、寒天、各種豆類、海産物など乾物のバラエティーが圧倒的に豊富。

和食以外のアレンジも


その乾物が日本人の食卓で存在感を失いつつあるのはなぜなのでしょうか?
「乾物というとほとんどの人が面倒くさそうとか、色がどれも茶色っぽくて地味でおばあちゃんの食べ物っぽいというイメージを持ってしまっています」(田平さん)

しかし、実際にワークショップで乾物を使ってみると、その印象は一変するそう。

「アラサーの働いている女性が中心のワークショップを長年やっているのですが、ズボラな人のための乾物、忙しいときこそ乾物、というふうに言ってくれる人が多いですね」(田平さん)

乾物は使い勝手がよく、パスタ料理やエスニック料理にアレンジして驚かれることもあるといいます。
「ワークショップでは和食はあまり作らないんです。和食ならクックパッドを見ればいいですから(笑)」(サカイさん)

そうやって、乾物のイメージを新しく更新していこうとするDRYandPEACEの次の挑戦地はなんとイタリア。
万博の開催されているミラノの日本文化センターで、9月に在伊日本人アーティストの工藤あゆみさんとともに「エコでサステナブルな未来食」をテーマにイタリアで乾物の魅力を発信していくというのです。

「乾物を使った料理の試食の他にも、アーティスト工藤あゆみさんの乾物と絵を組み合わせたコラージュなどの作品、生産現場の映像の紹介など、様々な形でイタリアの方に乾物を紹介していく予定です。巡り巡って、日本の食文化が維持されればいいなと思っています」(田平さん)

日本が世界に誇るサステナブルな未来食「乾物」で世界の平和に貢献したいという人は、現在実施されているクラウドファンディングを通じて支援することも。

しかし、実際に乾物を食べてそのよさを実感したいという人は、何から始めるのがいいのでしょうか?
「たとえば寒天を使ったポテトサラダのテリーヌは簡単ですし、暑い今の季節にとてもいいと思います。ポテトサラダを、重量でその2倍程度の鷄ガラスープに寒天を溶かしたものをあわせて固めれば、ツルンとした食感のポテサラテリーヌになります。見栄えも美しく前菜にもいいですよ」(サカイさん)

これは「乾物」という語感から受ける印象と違った、もはやおしゃれフードですね。現在発売中の電子書籍『寒天で テリーヌ terrine』には他にもたくさんの寒天テリーヌレシピが載っているので、食欲の落ちるこの時期にはとてもありがたい!

「乾物は未来食といってもいいものなので、先入観を持たないでぜひ食べてみてください」(サカイさん、田平さん)
(鶴賀太郎)