なぜ今パリでイチゴ栽培が広がっているのか?

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パリでイチゴ栽培が広がっていることを皆さんはご存じだろうか。パリ市とパリ経済開発局による都市緑化政策「革新的な緑化プロジェクト」の中で、無土壌の「パリイチゴ栽培プロジェクト」が進められているのだ。

パリでイチゴが栽培される理由


しかし、そもそもなぜイチゴなのか? じつはこのイチゴ栽培プロジェクトは、都市緑化政策として仏ハイドロポニックス協会から提案を受けて、パリ市で始められたもの。仏ハイドロポニックス協会とは、2008年に作られた無土壌栽培技術と、それによりコスト削減および生産性の向上に努め、都市における食の安全などについて研究を行う団体である。賛同する企業などを集い、都市緑化の一環としてイチゴ栽培が行われている。

実際に行ってみた


実際どのように栽培が行われているのか? 同プロジェクトの参加者の1つ、仏百貨店ギャラリー・ラファイエット・パリ・オスマン店で、その様子が見られるということなので行ってきた。

ギャラリー・ラファイエットは仏国内に64店舗を展開するフランスを代表する百貨店。市内中心部オペラ座(パレ・ガルニエ)の裏手にあるパリ・オスマン店は、外国人観光客が訪れるパリのショッピング・スポットとして有名である。買い物客でごった返す館内を上って屋上へ出ると、広大なテラスとともに、垂直緑化された壁面が広がっていた。
同店では、2015年3月初旬から翌16年10月まで、1000平方メートルある屋外テラスでイチゴ、ラズベリー、食用花、ハーブなど2万1000株を栽培している。収穫した旬の作物は、プロジェクトに賛同するパリ市内の飲食店に運ばれ、食材として用いられるという。

また、ただ栽培するだけではなく、これら作物が無土壌でオーガニックに育てられていることも特徴だ。無土壌栽培では、リサイクルされた麻やウールの栽培スポンジをベースに、生ごみを処理し作られた肥料と雨水で植物は生育する。

イチゴを育てて得られた効果


同店によれば、この緑化プロジェクトで都市の中に畑を作り出すことにより、虫なども集まり出し、生態系の多様性が高くなってきたそうだ。加えて、都市部におけるスペースの有効利用、オーガニックによる環境への負荷軽減を含め、持続可能な都市作りを実現していくことが可能だという。

イチゴ栽培プロジェクトは、パリ市が推し進める「革新的な緑化プロジェクト」で採用された30の企画のうちの1つ。これらを通して、結果的な消費エネルギーの削減、都市部への多様な生物の呼び込みを行い、都市環境の改善を目的としている。実際パリを歩いていても、緑化された建物などをしばしば見かけることがあり、見た目にも安らぎをもたらしている。

30のプロジェクトはどれも創造性に富み、なかには実験的な意味合いが強いものもある。しかし大枠で都市の新しい姿を模索し、思い切った変化へのきっかけを作り出すことは行政にしかできない役割だろう。パリを訪れた時、何気なくレストランで口にしたイチゴが実はパリで収穫されたものかもしれない。そのイチゴを頬張りながら、都市の次の姿を頭に描いてはいかがだろうか。
(加藤亨延)