【第97回沖縄大会総括】5年ぶりの聖地帰還を果たした興南の軌跡

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 第97回全国高校野球選手権沖縄大会を制した興南。あの2010年、島袋 洋奨(2013年インタビュー)を擁して甲子園春夏連覇を果たして以来、5年振りに聖地甲子園への帰還を果たすという目標に到達した。新生興南のこれまでの歩みと、甲子園での期待を記してみたい。

長きトンネルへ

 2010年、沖縄県内が湧きに湧いた甲子園春夏連覇。大城 滉二(立教大)(2015年インタビュー)らへと引き継がれた新チームでも秋の県大会で優勝と、興南の黄金時代が再びやってきたなと周囲を感嘆とさせた。翌2011年の選手権沖縄大会でも準決勝まで勝ち上がり、多和田 真三郎(富士大)(2013年インタビュー)率いる中部商の前に6対7と惜敗するも、当時の野球ファンの中ではまだまだ強い興南として色濃く残っていた。だが翌2012年選手権沖縄大会の2回戦で浦添商に4対5とサヨナラ負けを喫すると、2013年夏は3回戦で敗退、2014年の沖縄大会では、まさかの1回戦で姿を消してしまった。

眠れる獅子が目覚める

ナインを集めて話をする我喜屋 優監督(興南高校)

 その暗いトンネルは現チームも引きずった。新人大会にて那覇北地区予選を1位通過するも中央大会1回戦でコザの前に敗れ、秋の県大会2回戦で八重山商工の前にサヨナラ負けを喫してしまう。周囲の、特に興南ファンの落胆は大きなものだった。だが、我喜屋 優監督(関連コラム)の目には、彼らの中にまだ眠っている真の力が見えていた。

 バッティング練習では5〜7mの距離から全力で投げ込み、それを打ち返すことを繰り返してスイングスピードを上げていく。比屋根 雅也以外、心許なかった投手陣も、宮里 匡輝が成長。「比屋根も宮里も体が出来てくれば大丈夫」と語っていた指揮官の思惑は、春の県大会で見事に花を咲かせることとなる。

 1回戦、知念を相手に10対1で快勝すると波に乗り、決勝戦では11対0の大勝で13年振りに春の頂点へと駆け上がったのだ。その立役者は比屋根 雅也。右足を一塁側へと踏み出す独特のクロスステップ投法で、防御率0.39をマーク。31イニング連続無失点をも引っさげて第136回九州地区高校野球大会へと乗り込んだ。福岡工大城東戦で敗れはしたものの、延長12回を一人で投げ抜き18奪三振という快投を演じて見せた。

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[page_break:苦しみながら掴んだ夏 / 甲子園でのキーマンもやはり比屋根 雅也]苦しみながら掴んだ夏

比屋根 雅也選手(興南高校)

 選抜出場校の糸満とのチャレンジマッチを3対0で制し、夏の第一シードを得た興南は2回戦で石川と対戦。好投手浜川 優馬を相手に、比嘉 龍寿が3安打を浴びせると、喜納 朝規はライトスタンドへ豪快にホームランを放つなど6対0と快勝。春以上の強力打線で、もはや敵なしとも思われた。だがその一方で、ナインは今までには無かったプレッシャーとも戦わねばならなかった。最強のチャレンジャーになろうと追う立場だった春とは違う、勝たねばならない追われる立場だ。

 続く南風原戦では4対1、八重山戦3対0、沖縄尚学戦では9回裏にランナー二、三塁と、一打同点という場面まで持って行かれるなど、苦しみ続けた。そして迎えたファイナルでの、糸満との一進一退の攻防を粘り強く戦って、ついに5年振りの夏の選手権沖縄大会優勝を手に入れた。校歌斉唱で人目をはばからず男泣きする比嘉 龍寿主将の涙が、生みの苦しみを物語っていた。

 打てなくても先制されても、浮き足立つことなく興南の野球をやれば必ず勝てると、常日頃からナインに伝える我喜屋 優監督の思いに応えたナイン。先輩たちが培ってきた偉大な足跡を受け継ぐ者として、しかしオレたちはオレたちなんだと新生興南を形作る者として、心身ともに成長したからこそ掴んだ5年振りの甲子園への切符。「甲子園は今まで頑張ってきたご褒美。思い切りやらせてあげたい」と語った監督の目には、喜びに溢れかえるナインの姿があった。

甲子園でのキーマンもやはり比屋根 雅也

 春の県大会の防御率が0.39、夏の選手権沖縄大会でも0.89の2年生エース比屋根 雅也が甲子園でもキーマンとなる。40回と2/3イニングを投げて被打率は.146。八重山戦で二桁12奪三振、南風原戦でも5回途中からリリーフしたにも関わらず、9個もの三振を奪うなどドクターK振りは相変わらずで、体調が万全ならば聖地でも奪三振ショーを演じる可能性は大だ。さらに言えば、決して万全ではなかったはずの糸満戦でも粘投を見せるなど、我喜屋 優監督が言う「大人のピッチング」をも身につけた。

 打者陣でのキーマンは4番の喜納 朝規(きな・ともき)。17打数7安打で打率は.412、7割を超える長打率も魅力でOPS(出塁率+長打率)は1.230にもなる。トップの砂川 謙斗は打率こそ.167だったが出塁率は.375。ボールを見極める選球眼に優れており、その後を打つ仲 響生(なか・ひびき)は決勝までの5試合全てヒットをマークするなど、打率.350、出塁率.458と小柄ながら頼りになる。チーム打率は.284だが、全体で四死球を21個得ており出塁率は.369とまずまずか。野手の守りも堅く、5試合でエラーは3個だ。

 アグレッシブ興南を掲げる今年のチーム。甲子園では、より攻撃的でより積極的な野球を見せてくれることだろう。

(文=當山 雅通)

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