【インタビュー】Beaconでお客様の位置を把握! 屋内位置情報をビジネスに活かすツールとは
屋内のどの位置に人がいるのかを知りたい、特定のエリアにいる人にだけ情報を配信したい、というような需要がある。しかし、その需要を十分に満たすソリューションは長らく存在しなかった。
その理由の1つは、実際の位置計測が技術的に難しく、十分な結果を出そうとすると大きなコストがかかるということ。もう1つは、そうして収集したデータを実際に活用できる形にするためにも高い技術が必要で、現場での活用が難しいという課題だ。
この2つを解決するものとして、エンプライズが提供するソリューションが、BLE(Bluetooth Low Energy) Beaconと、そこから収集されるログを活用する人流解析サービス「Beacon Analytics」である。
「弊社の製品群では現在、そこまでの技術が必要とされるかどうかは分かりませんが、隣の椅子に座っている2人の位置を識別できる精度の実現を目指しています。技術的には十分可能です。そして、Beacon Analyticsは、Google AnalyticsのようなWeb解析のツールを扱える人ならば、中見を理解できる程度の分かりやすさを備えています」と語るのは、エンプライズ 代表取締役 COOの清卓也氏だ。
○アプリ不要でスムーズに位置情報を取得できる「Bluetooth Beacon」
「屋内測位といえば、以前はWi-Fiが主流でしたが、これは強電波であるため、遠くのポイントを拾ってしまい、いきなり人の位置が遠くなるようなデータが混在しやすいという問題がありました。また現在は、スマートフォンでテザリングをしている人も多く、登録した以外のWi-Fi波を受信されてしまうと、複数点からの計測が行えなくなるなど、非常に難しい状況です。加えて、アップルがWi-FiのAPIを閉じてしまったため、iOS端末が対象にできなくなりました」と清氏は語る。
スマートフォンを活用しようと考えた時、使えるセンサーはそれほど多くない。GPSやLTE、Wi-Fi、Bluetooth、赤外線、カメラといったところだ。この中で、主に流通している端末に必ず搭載されており、実用的なのがBluetoothだという。
BLE Beaconを制作するメーカーはいくつもあるが、エンプライズの大きな特徴は、実用的なデータを取得するための設置ノウハウやアプリの提供を行なっている点だ。
「どの程度の精度が出るかという質問がよくありますが、それは、設置方法とアプリの処理で大きく変わります。Bluetoothの電波強度から単純に考え、数メートルおきにBeaconを設置すれば面でカバーできると考える人もいますが、それでは不十分です」(清氏)
建物の構造等を配慮し、情報を取得したい場所をしっかりとカバーできるようにBeaconを配置することで、ムダがなく目的に合わせたデータ取得ができることを同氏は主張する。
また、データ取得には、Bluetooth送信機さえあれば事前に来訪者がアプリをインストールするなどの手間をかけず、回遊情報を取得することが可能だ。(同氏によると、現在、Bluetoothをオンにする人が増えつつあるという。)
「BLEがiPhoneに搭載されたことが大きな要因でしょう。消費電力が小さく、周辺機器との接続以外にも利用できるようになったことで、常時オンにしている人が徐々に増えています。今後はさらに増えるのではないでしょうか」(清氏)
○ブラウザベースで滞留や導線を見える化する「Beacon Analytics」
細かなデータ取得をした後にその解析を担うのは「Beacon Analytics」だ。
これは、ブラウザベースで利用できる分析ツールで、Beaconから取得した情報を分かりやすくビジュアル化する。名古屋パルコにて活用する「館内回遊導線分析システム」を共同開発したことがきっかけで誕生したソリューションだけに、非常に実用的なツールだ。
「館内の動きを追ってみると、予想していたのとは違う動きが見えてきたりもします。上下移動はエレベーターだろうと思っていたら、特定部分のみ階段がよく使われていたことや、複数塔の行き来は地上階がメインだろうと予測していたのに中層階の連絡通路が活用されていたことなど、新たな発見があります。そうなると、テナントの賃料や広告の掲示位置なども変化してくるわけです」(清氏)
従来は、ログデータからこうした情報へつなげるまでに、データをクレンジングして整理する手間があった。しかし「Beacon Analytics」は、フロアマップに人の滞留数を重ねて表示したり、階層をまたいだ移動導線を追ったりといったことが簡単に行える。
標準の分析では、どの端末を持つ人がどう移動したかという動きを追うことになるが、クーポンシステムや会員制度などと紐づけて個人情報を取得すれば、それを反映することも可能。「ある通路を使っているのは20代の女性が多い」というようなことも分析可能になる。
さらにCRMをあわせて利用すれば、どの種類の端末を持つ人が多いのか、クーポンの取得率や利用率はどうなのかといった人流データ以外のものも見えてくる。ターゲットを絞った展開をしたい時や、アプリの開発を行ないたい時などの準備に活躍するデータだ。
「エンドユーザーの企業でも、どの店舗に人が多いかという程度ならば簡単に把握できます。実際には、コンサルタントの方やパートナーが分析し、提案を行なうという形になるでしょう。Beacon Analyticsは、具体的に何をすればよいのかまでは提案しません。その部分を考えるために必要な材料となる分析をどれだけオートメーション化できるかがポイントだと考えています」(清氏)
○幅広い業界の需要に応える「BLE Beacon × Beacon Analytics」
パルコという大型商業施設での導入事例があるわけだが、活用の範囲はかなり広そうだ。たとえば、美術館や博物館といった施設では、特定の展示物の前にいる人に対して情報を提供したいという需要が以前からあったが、これにも対応できる。
「中古車店で、ある車の前に5分間立ち止まっている人にはプッシュで情報配信を行なう、というようなことも可能です。営業担当者を呼びますか、というようなメッセージを出してコミュニケーションにつなげることができますよね。また、自治体では観光客への対応や介護分野での需要が高いですね。M2M分野でも需要があります。たとえば、駐車場の位置をスマートフォンから認識させて、駐車場に戻る時に停めた場所にナビゲーションするような使い方です」(清氏)
リアルタイムな導線把握が可能になることで、お客様の目の前にあるショップや物に対応する広告の掲示やクーポンの提供といったさまざまな取り組みへの可能性が開けていくだろう。
(増田千穂)