本来はつゆに季節の野菜を入れたり、薬味を使うのがおすすめだが、今回は巨峰の風味をより楽しめるように、あえて入れずに試食した

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山梨県の郷土料理「ほうとう」とは、小麦粉で作る幅広の麺をカボチャなどの野菜と一緒にみそ味のスープで煮込んだ料理のこと。専門店もあり一年中食べられるが、地元では冬に食べる家庭料理のイメージが強い。

そんなほうとうを夏でも食べられるようにと、「ざるほうとう」として登場したのが「おざら」。茹でた麺を冷水にさらし、温かいつゆで食べるスタイルで、こちらも山梨ではポピュラーだ。

しかし今回紹介するのは、おざらはおざらでもかなりの変化球。その名も「巨峰おざら」。特産の巨峰を皮ごとペーストにし、麺に練り込んだものだという。

見慣れない薄紫の麺に、期待と不安を抱きつつ、袋を開けてみると巨峰の甘い香りがふわーっと漂ってきた。想像していた以上にブドウの香りが強い。

早速、茹でて冷水にさらすと、きれいな薄紫色になり、見た目にもおいしそう。香りは茹でる前よりだいぶ落ち着いたが、鼻を近づけると爽やかな巨峰の香りがしっかり感じられる。

食べてみると、麺はもっちりとコシがあり、後味に巨峰の甘味がほんのり。ペースト状の巨峰を使っているとあって、舌触りもつるりと滑らか。食べ進めるうちに、最初は“ほんのり”程度に感じられた巨峰の味がだんだん強く感じられるようになったのもおもしろい。甘味があるのでおやつ感覚でも食べられそう。なるほど、これはアリだ。

商品を製造したのは創業大正8年の老舗、株式会社 飯嶋製麺所。同社がある山梨県山梨市といえば、山梨市牧丘町産の巨峰が有名。そこで特産の巨峰を使って何か作れないかと、約3年前に山梨市商工会が奮起。巨峰を使っていろいろなアイテムづくりに挑戦する中で「巨峰おざら」も誕生した。

生麺だが常温で60日もつのも特徴だ。単純に麺に巨峰のペーストを練り込むだけでは、すぐに変色してしまうし、ブドウが発酵して酸っぱくなってしまう。また、ブドウの酸味によって小麦粉の中のグルテンが弱くなると、麺が切れやすくなってしまう。こうした課題を克服する必要があり、開発には苦労も多かったそうだ。

主な原料は小麦粉と巨峰のペースト。水は一切使っていないという。また使う巨峰ペーストは、契約ブドウ農家さんと密に連絡を取り、ブドウの甘みや酸味が麺に練り込むのに最適な状態で収穫してもらうように調整しているそう。色は品質保持のため、安全性の高いくちなし着色料を少量使ってつけているそうだ。

商品は県内の道の駅や土産物、同社のオンラインショップなどで販売しているほか、山梨市内には「巨峰おざら」をメニューとして出している食堂も数店ある。

ちなみに同社では他に、「巨峰ドレッシング (フレンチ&イタリアン)」や「巨峰を使った オリジナルそうす」など巨峰を使ったユニークなアイテムも販売している。製麺所なのにナゼ? と思ったが、聞けばドレッシングならサラダうどんにも合うし、ソースは焼きそばにも使えるとのこと。ちゃんと麺料理との相性を考えて作られていたものだった。

もともとおざらは夏の食べ物だが、爽やかな巨峰の香りが加わると、さらなる涼感を誘う。甘味があるせいか、子どもたちからの人気も高いそうだ。山梨名物の異色コラボ、機会があれば、ぜひ味わってみては?
(古屋江美子)