高知中央vs城北

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高知中央、「3世代」を経て得た四国大会1勝

初出場の四国大会は悔しい初戦敗退に終わった城北

「名将」が過去から現在に至るまで名を刻んできた四国の高校野球。ただ、そんなベテラン監督たちも最初は新人監督である。一方、野球に限らずどんな社会でも、いつの時代でも「変革」「活性化」の旗手を振るのは若者たちだ。その論理に倣えば近年、四国の高校野球が今一つ壁を破れない状況もうっすらと見えてくる。若者たちが世代を超えなければ、変革はやはりないのだ。

 しかしながら、今年の四国高校野球には間違いなく新たな風が吹いている。今治西では26歳・黒木 太雄監督(現:同校副部長)が公式戦初采配のセンバツで1勝。今大会ではいずれも今年4月から野球部監督に就任した城北・藤井 肯人監督(27歳)と、高知中央・河内 紘宇監督(23歳)による「公式戦初采配20代監督対決」が実現した。

 はたして結果は高知中央の快勝。投手転向は高校入学後にもかかわらず2012年に東京ヤクルトドラフト3位指名を受けた田川 賢吾をはじめ、関西(岡山)・沖縄尚学(沖縄)・岡山県作陽で数多くのプロ野球・社会人野球選手を輩出してきた角田 篤敏監督(当時・現在56歳)を慕って高知中央の門を叩いたタレントたちが最上級生になったチームは、個々の能力で城北を完全に上回っていた。

 しかも戦いには芯が入っている。序盤に数度のピンチがあっても、「0」を並べるのは準決勝・3位決定戦で逆転を許した昨秋県大会とは異なる姿。明徳義塾を決勝戦で破り春の高知県大会をはじめて制した原動力ともなった「粘り強さ」は、明徳義塾・亜細亜大で野球の厳しさを学んだ重兼 知之前監督(39歳)が冬に注入した心の強さあってこそである。

大会第2号となる本塁打を放った麻生 涼(高知中央)

 加えて監督交代の動揺はチームにはない。6回表にレフトスタンドで技ありの高校通算12号2ランを放った麻生 涼(3年・右翼手・右投左打・180センチ80キロ・倉敷南ボーイズ<岡山県>出身)も「前監督とは180度やり方は違うが、選手たちは一致団結している」と語る。

 この雰囲気は大会前日に45分間与えられた公式練習でも変わらなかった。ノックはランナー付きでより実践的な意識を植え込み、早めに通常練習を切り上げると選手たちに自主練習の時間を提供。

 河内監督に麻生について聞けば「『間合いだけしっかり作りなさい』と言っている」。福井ミラクルエレファンツ(ルートインBCリーグ)森 亮太外野手(2015年インタビュー)と同級生だった至学館大時代、学生コーチを務めながら全国各所の高校野球監督から指導を請うてきた河内監督の色が選手にも浸透しつつあることがここからもうかがえた。

 歴史なくして現在なし。変革なくして創造なし。そして引き継ぐべきもの、変革すべきものを判断する力なくして真の成長はありえない。その意味で高知中央の四国大会1勝は「3世代」があってなされたものといえるだろう。

 それは城北も同様だ。この日は「序盤にチャンスを作れたがあと一本でなかった」(藤井監督)ことが中盤以降に響いたものの、城東から進んだ立教大では早大・和田 毅(現:MLBシカゴ・カブス)から先頭打者本塁打を放つなどレギュラー二塁手として活躍した実績をおくびにも出さず3年間チームの成長に注進。徳島大会準決勝を勝ち抜いた際、「選手たちが頑張ってくれて……」と声を詰まらせた福井 健太前監督(現:徳島科学技術監督・33歳)の下、春季県大会準優勝と初の四国大会出場をつかんだヒストリーは絶賛に値するもの。

 改めてこの場を借りて、その成果と関係者・選手たちの努力に敬意を表し、夏の健闘を祈りたい。

(文=寺下 友徳)